こんなふうに
夜の森は静かだ。昼ももちろんうるさいわけではないが、鳥のさえずりも木の葉が揺れる音もない夜は、空気が張り詰めているようにすら感じる。
「ここに初めて来たときもこんな感じだったっけ」
外に出ると、冷えた空気を吸い込んだ。
ハーブの作業に没頭しててすっかり肩もがちがちだ。最近、色々ありすぎて。なんだかもやもや感が抜けずにいた。
「あー、もうっ。いい加減、しゃんとしないと」
大きく伸びをしようと腕を伸ばした。その時。
ガサっ
「?」
ガサガサ
「え?」
この状況、前にもあったけど。今度こそ、何かの大型動物だったらまずいよね。
ガサガサガサ
嘘。これまじ?
いきなり目の前の木の陰から黒い影がにゅっと現れた。
「うわあ」
ついしゃがみこんでしまった。
「ごめん、驚かせた?」
近づいてきた黒い影が肩に手を置く。見上げると、木の間から差し込む月明かりにシルバーブロンドの髪が輝いて見えた。
「ミーガンさん」
「……クロ」
にこっとしたディーンは「にゃあ」と返してきた。
「うん、これがハーブティか」
飲んでみたいと言うので、疲労回復に良さそうなのを選んで出した。
「猫はハーブはダメだっていうから飲めなかったし、飲んでみたかったんだ」
おいしそうにお茶を飲んでいる。
こんな風にしゃべるんだ。
こんな風にお茶を飲むんだ。
「何?」
ついつい観察するように見ていたようだ。
何でもないです、と返しつつも、
「こんな夜遅くに、もしかして勝手に出てきたの? あ、来たんですか?」
と夜更けの行動を気にしてしまう。また姿がみえないと、騒ぎにでもなったら大変だ。
「いいよ敬語じゃなくても」
と言ったディーンは、こっちの考えに気づいていたのか、
「大丈夫、ちゃんと父上に伝わるように言ってきたから」
ホントかなと思いつつ、王様が言ってたのを思い出して苦笑してしまう。
「何?」
「王様が言ってたこと本当だなと思って」
「あっ! 父上と会ったんだろ、2人っきりで」
そうだけど、言い方……
「ったくあの人は、俺には事後報告だし」
ムッとしているディーンに、
「あれは、私が刑を軽減してほしいなんて言ったからそのことで」
「ああ、あれは大丈夫だから」
ディーンはストップをかけるように手を広げると笑顔を向ける。
「え? もう決まったの?」
「バロワン伯爵にはマルガレータ夫人とともに国の東、ヘンカリー地方の領主として暮らしてもらうことになった。ハームズワース伯爵が住んでいるところだよ。ハームズワース伯爵もご高齢だ、あとを任せる人間を寄こしてほしいという話が以前から出ていたんだ。懐の大きなひとだからあの方に任せていれば大丈夫だ。バロワン様はさすがに爵位は剥奪になるけど、伯爵もいるし、領民たちものんびりしたものが多い。気候はいいところだし住みやすくていいところなんだ。だからそう悪い話ではないと思うよ」
「そうなんだ、よかった」
重い刑罰だったら、と思っていたからホッとした。
「あ、あの伯爵夫人のことなんですけど」
魔女のことは調べたんだろうか。村でも街でもそんな噂は聞いてはいないが。いったいどうなったのか気になっていた。ディーンや王室がどこまで知っているのかも気になっていた。
「魔女のことだろう?」
お茶を飲みつつあっさりと答えられた。つい目を丸くして見つめていたようだ。肩をすくめたディーンは、
「俺は猫だったんだよ。そんな魔法みたいなことどうやったんだって話になる。だから俺やデヴィッドが猫だったことはトップシークレット扱いになったんだ。魔女が王室に対してそんなことをしたなんて、庶民を混乱させるだけだし。クララおばあさんにとっても良くないからね」
クララ! その名前まででるとは思わなかった。




