王様との会話
王様は私が命がけで崖から飛び出したことを聞いてきた。
ディーンを、クロを助けようとしたことだ。
あのときは夢中で何も考えつかなかった。
そう、たぶん、他のことは考えられなくなるんだ。
目を見たままうなづいて返した私に王様は大きく息を吐きだした。
静かな時間が流れてく。
いくら無礼講とはいえ、これはやばかった?
町追放どころの騒ぎじゃないかも。
あー! またやっちゃった?
ひとり脳内でばたばたしていると、ぷふっと吹き出す声が聞こえた。
顔をあげると、ルクルット王がごほんと咳ばらいをして、
「あなたの考えはわかりました」
と言った。
「じゃあ」
「だが、夫人にしろ私の姉にしろ、どうなるかはここでは明言はできません」
いくら王様でもってことなんだろうが、ちょっとホッとした。何とかうまく流れていくといいんだけど。私は、
「どうぞよろしくお願いします」
とだけ言って頭を下げた。
「ところで、ミーガンさん」
「はい」
「ディーンのことは本当にありがとう」
いきなり頭を深く下げる王様に焦った。
「いえいえ」と手をばたつかせる私に、
「今日はディーンに会えず申し訳ない」
「あ、いえ。あの、お元気でいらっしゃいますか?」
医者に診てもらって元気だとは聞いていたが。
「ああ、もちろん。もう私に意見してくるぐらいには元気ですよ」
苦笑したルクルット王は、
「今日も王太子妃候補たちと会うために集まりを催してましてね」
だから、多くの馬車と着飾ったご令嬢たちを見かけたのか。
ぼんやりと考えていると、
「どう思いますか?」
ルクルット王が笑みを浮かべつつ聞いてきた。
「何がですか?」
「あれにはどんな令嬢が合うと思いますか」
そんなことを聞かれても。猫の時しか知らないし。
「私は猫の姿しかしりませんから何とも」
「そうか、猫だったな、猫のあれは可愛かったですか。人間のあれは生意気でな」
「そうなんですか?」
確かにツンデレっぽかったけど。とクロの姿があれこれと思い浮かぶ。
「可愛かったです。きれいな黒猫でした。猫なのに勇敢で何にでも立ち向かっていくような。頭も良くて優しい子で、こちらのほうが頼りにしていたぐらいです。私にとっては何にも代えがたいそんな存在で」
うんうんとうなづいている王様に気が付いて首をすくめた。
「あの、すみません。王太子様のことをこんなふうに……」
「いやいいんだ」
なんだか妙ににやにやして返された。
自分の言ったことを思い返すと王太子に恋してるみたいな物言いになってたかも。それを父親に語ってた。
そう気づくと顔が熱くなってきて焦って両手で頬を押さえた。
ルクルット王はそんな私をますます面白そうに見ていたが、ドアから騎士が入ってきた。
「王、そろそろ」
「そうか」
立ち上がった王様は、
「ミーガンさん、今日は来てくださってありがとう」
と丁寧にあいさつをしてドアに向かう。私は、
「いえ、こちらこそありがとうこざいました」
深々頭を下げ王様を見送った。
帰りの馬車の中、ふと首を傾げてた。
私から伝えてほしいといったことの内容確認で呼ばれた?
わざわざ王様が? お忙しいだろうに、時間を取って。
しかもあのかわいいお家は何だったんだろう。
今日もクロに、ディーンには会えなかったな、とぼんやり外を見ていた。
ご令嬢たちとお見合いみたいなものかな。
どんなふうに話してどんなふうに笑うんだろう。
令嬢の中から王太子妃を選んで、いずれは王様になるんだろう。
王になる戴冠式のときは、さっきのお城からその姿を群衆に見せるのかな。群衆の中で私もその姿を見ることになるんだろう。
やっぱり、遠い存在なんだと改めて感じていた。




