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お礼を持ってやってきたのは

 あれから、何事もなく日にちが過ぎた。

 村に行くと、王子様が戻った話題で持ちきりだった。国はすっかりお祭り騒ぎで、村もたぶん隣の町も国中が花や飾りで彩られ、誰しもがうきうきしているようだ。


 私はと言うと、早々に噂話から逃げて森へと戻った。

 いつものように、ハーブを干したり、お茶にしたり。

 忙しくしていると何も考えなくてすむ。

 お腹がすいてきて、ふと残り物が何だったか考えた。でもクロのごはんもきなこのごはんも考えなくていいし用意しなくていい。


 息を吐きだして椅子に座り込んだ。

「せめて挨拶に来てくれてもいいのに」


 トントントン


 ドアがノックされ思わず飛び上がった。

「ど、どなた?」

 まさかね、と思いつつドアを開けると、

「よおっ、元気してるか?」

 ジュドが大きな荷物を床に置いた。


「ジュド、様?! 何してるんですか」

 ジュドは王様の甥なんたから忙しくて外をウロウロなんてできないだろうに。

 ジュドは勝手知ったるでさっさと椅子に座り込んでしまった。


「俺はいいんだよ。今はディーンのことしか目に入ってないからさ」

 それはそうかもしれないが。

「あの、クロ、ディーン様は」


「ディーンか。無事だよ。医師やら薬師やらわんさか呼ばれてあちこち調べられるわで大変だったんだ。だけど身体のどこにも悪いところはないし健康そのもの」

 そっか、よかった。ずっと猫の姿だったし。不調がないなら本当に良かった。


 小さく息をついた私に眉を下げていたジュドはニカッとすると

「そうそう、この荷物は食料やら色々、お礼みたいなもんだけど。お城ではあんたに報奨金を出すとか、役職を与えてはどうかとか、色々と話が出てるぞ」

「?」

「ほらディーンとデヴィッドが無事だったのはあんたのおかけだからさ」

「私、何にもしてないけど」

「そんなことないって、あんたといなかったらいまだに猫のままかもしれないだろ」

「それは……でも何で元に戻れたのかわからないし」

 ジュドは「それならおばあさんに聞いたよ」


「おばあさんってクララおばあさんのとこに行ったんですか?」

 ああ、と答えたジュドは、「あんたがそこに運ばれただろ。だからそのままそこにいるかもと思って先に行ったんだ。で、少し話もしてきた」

 まさか魔女だってことは聞いてるのか聞いてないのか。


「好きな相手に命をかけて助けてもらったら戻る、そんな薬を飲んでたというか飲まされていたらしいよ」

「それで猫になってたんだ」

「だろうね」と答えたジュドは「大昔には魔法が存在したとは聞いたことはあったんだが。魔法書が存在するのかもなあ」

 と首をひねっている。


「それよりデヴィッド様は?」

 クロは、というかディーンは私が崖から落ちていくのを助けようとしたことが功を奏したんだろうけど。デヴィッドはいつのまに戻ったのか。伯爵夫人の足にくっついてたのは記憶にあるが。


「ああ、あれ」

 笑ったジュドは、

「伯爵夫人が手足をばたつかせたもんで、あいつも崖から落ちそうになって俺やフェリシア、レラ嬢がつかまえて何とか落ちずにすんだのさ。そしたら、いきなり人間の姿に戻ってさあ、本当に驚いたよ。下を見たらディーンもいるし。俺、嬉しくてさ」

「そうだったんですね」


 ともかくめでたしめでたしかな、と思ったが、

「フェリシア様は大丈夫ですか?」

「ああ、バロワン伯爵のことか」

「ええ、伯爵夫人のこと」

 どう考えても何かの罪に問われるだろうが。


「今は夫人と伯爵はお屋敷にいるよ。夫人は屋敷にある塔の部屋に幽閉状態でね。伯爵は屋敷から出ずにいる。夫人の命だけは助けてもらえないかって嘆願書を書いてるみたいだが」

「じゃあフェリシア様も」

 お屋敷に一緒にいるのでは、と思ったが。


「フェリシアは家から出てレラ嬢のとこにいるよ」

「そうなんですか?」

「もともと、町育ちだし、町に戻るって言ってたんだ」

 何かしらの処罰がくだると、お家がどうなるかもわからない。どうせ家を出るならとフェリシアなら考えそうだ。

「レラ様が止めてくださったんですね」

「そうみたいだな」

 と完全蚊帳の外らしいジュドは大きく伸びをした。


「ディーンはゆくゆくは王になるだろう。俺はできることは手伝うつもりだ。ミーガン、あんた、本当に養女にならないか。そしたら何の問題もなくなる」

「はい? 養女?」

 それはジュドの婚約者のふりをするって時に出てた話だ。

「もうその話は大丈夫になったでしょう? ディーン様が戻られたんだから」


 咳払いしたジュドは、

「その話、まじめに考えてほしいんだ」


「?」


「ディーンが王になれば、俺は大臣になるだろう。ディーンにはもう妻をとる話まで出てるんだ。俺にもって話もそろそろ出始めてるんだ、だから」


 妻って。

 王太子のお嫁さん、つまり王太子妃。


「あの、それってレラ様?」

「はい?」

「だから、ディーン様のお相手。それともフェリシア様?」


 目をしばしばさせたジュドはかなりでかいため息をついた。

「どちらでもない。フェリシアは叔母君のこともあるが、もう王太子妃に興味はないし。レラ嬢は大事な人がいるから王太子妃にはならないって父親に言いきったらしい。誰なんだって話題になってるようだが」


「大事な人」

「誰だとも言ってはないみたいだが、ご本人はすっきりした顔してたよ」

「へえ、そっかあ」

 自分の気持ちにそって生きることを知ったんだろう。なんだかこちらも嬉しくなる。


 ジュドは「だからさ」と言い募るが、私はハッとすると、

「じゃあ、ディーン様のお相手には、あの時のメリ何とか嬢とか、あっ!」

「な、なに」

 メリ嬢は頭痛がして倒れた。そのあと、私はハーブを取りに帰り、崖に追い詰められた。

「メリ嬢は無事なんだよね?」


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