魔女の姉妹
気づくと、小さな部屋の中。
木枠の窓から見慣れた村の家の屋根が見える。
「ここ?」
「よかった、気づいたかい」
見ると、クララおばあさんがカップを手に部屋に入ってきた。
「私、崖から」
部屋を見回し、クロがいないことに気が付いた。
あれは夢じゃなかったんだろうか。
「悪かったねえ」
「?」
おばあさんは、カップを手渡してきた。
「スープだよ。気持ちが落ち着くから」
ここに初めて来たときを思い出した。野菜を煮込んでとったスープは優しい味がする。
「あの、私、あのあと」
「気を失ってね。ここに運んでもらったんだ」
「すみません」
と頭を下げつつ、あの場所におばあさんもいたのかな、と首を傾げた。
うなづいたおばあさんは、
「あの場にいたのさ。 あんたたちが心配でね。それにマルガレタリーゼのこともね」
「マルガレタリーゼ?」
「マルガレータ・バロワン伯爵夫人と言えばわかるかい」
途端に血の気が引いた。
「あの人、どうなったんですか? 誰なんですか? どうして私を?」
聞きたいことは山のようにある。
おばあさんはため息をつくと、
「今はご主人の屋敷にいるよ。あんなことをしでかして。ただではすまないだろ。死刑になるんじゃないかね、あれは」
息をついたクララおばあさんは、
「あれは私の妹なんだよ」
「え? 妹って」
年が離れた妹もありだろうが、親子ぐらい離れてる気がする。
「年齢が違いすぎるだろう?」
「あ、いえ」
「あれは今30そこそこに見えるだろうね。私は70ぐらいかねえ」
にっとしたクララは、
「私たちは長命族でね」
お話では耳にしたことがある。
「人間の倍は生きるんだよ。本来ならあれももう90年は生きてるんだ。私は95年だがね」
でも、バロワン伯爵夫人はどう見ても30そこそこだ。どっちの姿が本当なわけ? マジで美魔女。え? 魔女なの?
私の顔に書いてあったのか、クララおばあさんは、
「そうだよ。私らは魔女の末裔なんだ」
両手を顔にかざしたクララおばあさんは、その手をそっと下におろした。
その顔は、バロワン伯爵夫人と同じ、30歳すぎの綺麗な女性。
「あ、もしかしてクラウディア何とかっていう魔女って」
伯爵夫人がそんなことを言っていた。その人から魔法を習ったのではないかって。
「そうだよ。クラウディアリーゼ・ヘンケル。それが本当の名前さ」
クララおばあさん、いや、クララさんは、
「魔女はもともとの数がもうすくなくてね。血も薄くなり滅亡していくしかなかったんだ。私はそれでもよかった。私の代で終わってもね」
フフッと笑うとドアの方に目をやった。
「私はうちの人と一緒にいるために普通の暮らしを求めたのさ。あれも同じではあるんだけどね。ただ自分の力でお相手のバロワン伯爵の地位向上を願った。そのやり方がよくなかったね」
くるりと背を向け顔に手をやった。
こちらに振り返った瞬間、ドアがノックされ、おじいさんが顔を出した。
「ミーガンさん、気づいたんだね。大丈夫かい」
はい、とうなづいた私は、
「家に帰ります」
と言った。
まだまだ聞きたいこともあったが、おじいさんの前では込み入った話をするわけにもいかない。
あの様子だと、クララさんはおじいさん、カークさんに出会い恋をして、普通の人間として生きることを決めたんだろう。おじいさんはそのことを知らなさそうだ。
まだ、休んでいけという2人に大丈夫だからと森の家に戻った私だったが。
「クロもきなこもいない」
当たり前だが、こんなに寂しいとは思わなかった。
「ああ、もうお皿も片づけないと」
クロときなこ用のお皿、毛布を片付ける。落ちていた髭に気づいて拾うと、白くてしっかりとした髭はぴんっと伸びて何だか笑えた。
クロはディーン王子だった。きなこはデヴィッドで。
原作とはかけ離れたストーリー展開になったが、これで元に戻ったってことかな。
今の様子だと、フェリシアが王太子妃になることはなさそうだし、レラが王太子妃になり、私は魔女として処刑されることもないはず。
「これでよかったのよね」
つぶやいて窓を見ると、外は夕焼けで真っ赤に染まっていた。




