現れた魔女
森の小屋に着くと、すぐにハーブを用意した。
たぶん、お医者様が着いて、メリ嬢の具合も良くなっているだろうけど。ハーブは気付用のものやリラックス効果のあるものも用意した。
気に入って飲んでくれるといいなと思いつつ。
すぐ近くに馬車も待ってもらっていた。
はずだった。
「すみません。お待たせして。あれ?」
待っていてくれたはずの馬車がない。
御者のおじさんはすっかり顔なじみで、待ってますよ、と言ってくれたのだが。
「急用とか、じゃないわよね」
森を通る道できょろきょろとあたりを見回すが、それらしい姿は見つからない。
「まさか、森を出たのかしら」
どうしよう。
メリ嬢のことも気になるし、何とか戻りたいが。
「とにかく村に出るしかないかしら」
と、足を進めたその時。
ヒュッ
何かが頬をかすめて飛んで行った。
「!?」
更にヒュン! と音がしてドレスの裾に棒状のものが斜めに突き刺さる。
「矢!?」
嘘でしょ。
小屋の中のいたずらはメリ嬢が仕掛けたものだった。
レラたちが言っていた犯人はわかったのだ。だから何の問題も。
ヒュン!
まずい。
ここにいては殺される。
逃げないと。
本当なら村に向かって逃げればいいものを。
矢に追い立てられた私は村とは違う方違う方へと走っていく。
木と木の間を走る。
飛んでくる矢がバシッという音とともに木に刺さる。
木ではなく私の体を貫いたら、そう思うとゾッとした。
いったいなぜ?
嘘だけど王太子妃に選ばれたから?
だけどここまでする?
悪役令嬢レラもここまではしなかったし、メリ嬢のいじめなんてかわいいもんだった。
それに
なにより
誰が私を狙うの?
頭のなかでああでもないこうでもないと考えが流れていく。
矢が間隔をあけて飛んでくる。ということは追ってきているのは大勢ではない。
木が乱立しているおかげか何とか避けて逃げれている。このままやり過ごすことができたら、と思っているといきなり視界が広がって。
ここ!?
木が途切れ広場のような場所に飛び出していた。
背の低い雑草がまるで芝生のようで、みんなしてピクニックにくるには良さそうな場所だが。真逆の危険な状況にいる。
森から緩やかな坂を登ると小高い丘になったこの場所にたどり着く。
ここはフェリシアが王子と出会った場所だ。原作では怪我をした王子を助けた場所。なぜか今回フェリシアはレラを助けていたが。
原作ではあとから恋人の丘なんてベタな名前がつけられていたっけ。
少し開けたこの場所は後ろに森、前は丘の到達点。つまりは崖になっている。
私の前には崖、後ろには追手。
逆に追手に向かって突進していくしかないかも。息を吐き出し振り返る。
そこには弓を手にした黒マントの……。
「もう逃げ場はないわよ」
女性?
追手というからには何度か遭遇したジュドを狙った男ふたりかと思っていた。
黒マントの女性は、
「ったく、あいつらふたりとも役に立たないんだから」
と悪態をつく。
2人と言われ、ジュドを狙っていた黒づくめの男たち、怪しい行商の2人組を思い出す。
「あのふたり」
「そうよ。魔女の言葉にびびっちゃって。役に立たないったら。あんた魔女なんでしょう?」
魔女。
そういえば、ジュドが狙われたとき、ジュドが私に魔女と言ったら、ふたりはあわてて逃げていったっけ。そのことなのか。そうかあ、あのときは何で? と思ったが、私が魔女だってびびって逃げたのか。
なーんだ、と思ったが。
私が魔女?
冗談じゃない。目の前の女のほうがよほど魔女っぽい。黒いマントなんて白雪姫や私の知ってる童話に出てくる魔女そのものじゃない。
ふうっとため息をついた魔女は、
「まさか、そんな強い魔法を使えるとは思わなかったわ」
「え?」
「牢屋の壁には魔法封じのサインまで書いたのに」
ジュドと捕まっていた牢屋のようなところの壁に何やら模様みたいなものが描かれていたが。あれのことか。
「あの幽閉騒ぎって」
指をさすと、
「そうよ。あんたとジュドと2人ともしばらく行方不明にでもなってもらおうかと思ったのに。メイドも催眠術を使ってうまくいってたのに」
メイドさんが私が急用で帰ったと言ったとか。あれもこの人の仕業なの?
「あっ! じゃあもしかして。メリ何とか嬢の様子がおかしかったけど」
「メリガレット嬢よ。あの子、本当にあんたに嫉妬してたのよ。だからそれを利用しようと思ったんだけど」
「頭痛がひどいって」
「それね、薬であんたを憎む気持ちの増大を図ったけど。やりたくない気持ちが勝ってたのかもねえ」
魔女はふうっと息をついた。
「でもあんたが悪いのよ。いったいどんな魔法を使ったのよ」
「はい?」
「知らないとは言わせないわ。デヴィッドをどこへやったのよ」
は? デヴィッド?
「デヴィッドって王太子になるはずだった」
「そうよ! フェリシアと一緒になって何もかもうまくいくはずだったのに」
フェリシアですって。
ま、まさか。
考えられる女性は一人しかいない。




