妙な出来事
あれから数日後、
「ノームの森の魔女さんですよね。風邪に効くハーブをいただきたいんです」
とどこかのメイドさんらしい人がハーブを買いに来た。
「どんな症状ですか?」
と聞くと、喉が痛いというので、お茶で飲めるように作っておいたいハーブを出した。
「あと、頭痛も」
「頭痛ですね」
ハーブを選りすぐっていると、
「美容にいいのもあるんですか?」
「ええ、ありますよ」
「じゃあそれも」
次々に注文され、ハーブの用意にばたついた。
その翌日、メイドさんかどうかはわからないが、若い女性が買い物のやってきた。そしてまた翌日もと、連日やってくる女性たち。
この辺りでは見かけたことのない初めてのお客様が続いた。
「ありがたいことよね。メルクールからなのか、フェリシアやレラのメイドさんのお友達なのかわかんないけど。色々買って帰ってくれるし」
貯まっていくコインにうほうほしてる私をクロは渋い目で見てくる。
「そんな目で見ないでよ。あんたやきなこの美味しいごはんも買えるんだしいいじゃない。ねえ~きなこ」
あれからきなこと名付けた猫も我が家にだいぶ慣れてくれたみたいだ。最初は柱の陰や、置いてあるものの後ろに身を隠していたが。今は目の前まで出てきてくれている。
きなこはごはん皿から顔を上げ「にゃあ」と小さな声で答えてくれた。
「ほら~、きなこも納得してるし。さあ、私も何か食べよう」
と言いつつ、棚の奥から皿を取ろうとした。その時。
「うわっ」
「にゃっ!」
黒い何かが飛んできて、猫2匹が飛びついていった。
「何それ?!」
にゃにゃにゃ、とじゃれあう2匹の手元にあるのは黒い塊にしっぽらしいもの。
「まままままさか、ネズミ!?」
クロもきなこもぴたりと止まり、2匹の間に横たわる黒いネズミのようなもの。
「死んだの?」
恐る恐るのぞき込むと、それは耳としっぽがあってネズミらしいものの。
「ぬいぐるみ?」
しっぽを持って持ち上げる。
黒い布で作られた手に収まるぐらいのネズミのおもちゃ。
「なんだ、びびった~」
簡単だけどよくできてる。だけど、こんなもの置いた覚えないんだけど。
首を傾げつつ、
「今度、村の子たちに聞いてみるわ。もしかしてクロたちに持ってきてくれたのかもだしね」
と2匹の間にぽんっと放り投げた。
それ以来、何だか変なことが続いてる。
おとといは、椅子に掛けていた服の袖が片方ずつ固結びされていて、着ようとして驚いたし。昨日は、靴が水浸しになっていた。別の靴を履こうとしたらクロが「ニャー!」と鳴いて足を持ち上げたままよくよく見ると靴の中に針がいっぱい入っていた。
「いたずら妖精とかいる世界じゃないわよねえ」
たいしたいたずらではないものの、妙に続いていて何が何やら。
村には小さな子たちもいるにはいる。ここにも親や兄弟たちとやってくることもあるが。
「まさかのいたずらとか?」
ここ数日に集中してっていうのも変だけど。
「それも聞いてこようかな。ちょっと村に行ってくるね」
とクロときなこに言って外に出た。
今日は隣町のメルクールから行商の人が来ているはず。
「儲けたし、お肉買ってくるわね」
ここ数日で儲けたコインを持って村に急いだ。
トフ村の家々が並ぶ道に幌付きの馬車が停まっている。いつも来る行商の人だ。
村のおかみさんたちが、食料や雑貨類に群がっていた。
いつも幌馬車一台なのだが、離れた場所にもう一台停まっていて、そっちは村の女の子たちが群がっている。
なにげにそちらをのぞいてみると、大きな女性と小さな女性が服やストールを広げて説明している。
「今、街でこういうワンピースが流行りなんですよ。あ、そちらのお姉さん、いかがですか?」
いきなりこちらに服を広げて見せてきた。
薄いベージュでレースで飾られた袖が広がり、茶系のコルセット型のエプロンドレスのようだ。こうしてみると、現代の何とか坂の衣装みたいよね。
「かわいいですね」
「ミーガンさん、似合うわよ」
「ほんとほんと」
ローラやアンナが「着てみたら」と言ってくれる。
「どうですか?」
とぐいぐい勧めてくる行商のおねえさんに押され気味になるものの。
「猫たちにごちそうを買って帰る約束だから」
と手を横に振る。ならばと小さなお姉さんが、
「なら、こちらはどうですか?」
と小さな小瓶を掲げて見せてきた。
リンゴのように赤い色が瓶を染めている。
「もしかして、口紅?」
「そうだよ。今、街で流行ってる品だよ。どうだい、お姉さんに似合うと思う、思うわよ」
現代と変わらないきれいな色だ。欲しかった口紅に似ている。
「きれいね」と伸ばした私の手に、行商のお姉さんが口紅の瓶を渡そうとしたその時、
「ニャー!!!」
黒い物体が小さいお姉さんにぶつかって口紅の瓶が飛んでいく。
「うわっ! 何すんだ!」
「このクソ猫!!!」
その場にいた全員が2人の行商のお姉さんを凝視した。




