振られる王子
「え? 違うって何が?」
否定するジュドに首を傾げた。
「だから、フェリシアの身の危険云々じゃなくて」
「だって、フェリシアにプロポーズしたんでしょ」
うっ、と息をつめたジュド。
「したよ」
と、なぜか口の端を曲げる。
「ほらあ~、じゃあなんでそんな顔してるのよ」
むっとした顔のままのジュドは小さな声で、
「断られた」
「はい?」
「だーかーら、断られたんだよ!」
瞬間、クロがプフフと吹き出した。猫でも吹き出すのね。きなこはといえば目をぱちくりとさせてジュドを見上げてる。
「あの~、本当に?」
むっつりとしてしまったジュドにお伺いを立てるように聞き直したが。
「何度も言わせるなよ。レラ嬢はもとより、フェリシアも断ってきたんだ」
ジュドはソファにどかりと座り込むとお前も座れとばかりに、目の前のソファを手で指し示す。
テーブルをはさんで、猫足のビロード張りのソファに私とクロときなこが並んで座った。
「レラ嬢は端から王太子妃になるつもりはありませんって話があったんだ。もともとディーンの相手として考えられてたが、ディーンが行方不明になって今度はデヴィッドの王太子妃候補の筆頭にいた。そのデヴィッドがまたもや行方不明だ。じゃあ次は俺の、とは考えられなかったんだろう。命を狙われるかもって恐怖もあるしね」
レラから同じようなことを聞いていたので、うんうんとうなづいて返した。
「フェリシアは、本人も王太子妃になりたがってたし、デヴィッドを想ってるってふうでもなかったし。なら面識も交流もある俺ならいいんじゃないかと思ったんだ」
だけど、断られたってことか。しかし、何で?
「フェリシアが言うには、もう王妃に興味がないんだと」
「え? そうなの?」
うなづいたジュドは、
「ああ、そう言った。王妃にならなくともできることはあるんだってさ。それに協力してくれる人もいるしとか何とか言ってたな」
協力者。それってもしかして。
仲良く話し合うレラとフェリシアの姿が浮かぶ。
「つまり、婚約者候補がいなくなったと。だからって偽の婚約者を作らなくてもいいんじゃないですか?」
ついついいきり立ってため口になっていたが、落ち着いてきて敬語に戻る。紅茶をいれたジュドはごくりと飲み干すと、
「レラ嬢が断った途端、王太子妃候補が次々現れたんだよ」
きらきらしたご令嬢の群れのことか。
ジュドが言うには、大臣や役職の貴族たちがこぞって自分の娘を王太子妃にと名乗り出てきたらしい。今までは王様の側近として重要な地位にいる侯爵家の娘であるレラがいる限り横に出るのは無理だったんだろう。そんな中で出てきたフェリシアはすごかったんだなあ、とつくづく。
「たくさんの令嬢たちの中から王太子妃を決めるように父上に言われたんだが、好きな人がいて、その人を妃に迎えるって言ったんだよ」
それがフェリシアだったわけか。なのに、断られましたって言うわけにもいかなかったのね。
かわいそうに。
思わず顔に出てたのか、目を細めたジュドが、
「そんな顔するなよ。フェリシアからはいい返事はもらえなかったが。本当のことを言えばまだ結婚なんて考えられないんだ」
ふうっと息をつく。
「王太子となれば、早めに妃候補が必要なのもわかってはいるけどさ」
確か、ジュドの父親も、現王様も恋愛結婚で側室もいないし、後妻もとらなかったとか。
ジュドもそういうのを望んでるのかもなあ。なのに、振られちゃって。
「だから、そんな顔して人を見るなよ」
「すいません」
ったく、と言ったジュドは、突如にやりとすると、
「そんな同情するなら、しばらくは俺の婚約者として演じてくれ」
「そ、それは」
立ちあがあったジュドはテーブル越しに体を乗り出すと、
「別に本当に結婚してくれてもいいんだぞ」
「!?」
「ハームズワース家の爺さんとは仲がいいんだ。本当に養女にしてもらえば問題はないし」
そうするか、と言ってのけたジュドは今までにない微笑を浮かべ、
「俺、あんたのこと気に入ってんだけどな」
きらきらした綺麗な顔を近づけてきた。
「ちょっ、近い」
「シャーっ!」
背中の毛を逆立てたクロが私とジュドの間に入ってくれて。
「うわっ」
引っかかれるかと飛びのくジュドにきなこが「なー」と楽しげだ。
こっちもおかしくなって笑ってしまった。
「クロ、ありがとね、誰よりも紳士だわ」
「悪かったな」
口を尖らせたジュドだが、
「ともかくお礼はするから、しばらくハームズワース伯爵家の娘だということにしといてくれ。どうせ、ハームズワース家は国の東のはずれの辺境にある家だから。そこにいるってなれば誰もわざわざ会いに行くこともしないよ」
「はあ」
ご令嬢たちはジュドにお相手がいるということが確認できれば納得したということなのか。こっちとしては納得いったのかいかないのかの状態のまま森に帰された。




