王太子の婚約者は誰ですか
「いったいどういうことなの!!!!!!」
敬語もそっちのけでジュドに詰め寄った。
部屋の中は私とジュドのみ。
着替えからずっとついていてくれたメイベルもレラ様の待つお屋敷に帰っていった。たぶん、息せき切ってことの顛末をレラにお知らせしてるだろう。
「いや、なんていうか」
私に詰め寄られのけ反るジュド。
「にゃー!」
と言って私を止めたのは言わずと知れたクロ。
「ねこ~~~~」
お前まで来たの? と目を細めてクロを見ていたくせに私からの攻撃回避にクロを抱きかかえてる。すぐにプギャーと言われて引っ掻かれてるが。
馬車に乗せられた私だったが、家の中にいたクロはいつのまにやら馬車に乗り込んでいた。しかもきなこも一緒に。
「2匹も猫を連れてくるとはね」
と言いつつも部屋の中に通してくれ、メイドに言ってごはんも出してくれたようで根は悪い人間ではないのだろうが。
連れていかれたホールのような広い部屋にきらきらした女性たちが待ち受けていてぞっとした。
いったい何をさせる気なのか。
「こちらが?」
と一人の女性、金髪をまとめて小花のかわいらしい髪飾り、同じような小花を散らしたような薄ピンクのドレス令嬢が微笑みつつ小首をかしげた。目が笑っていなくてはっきりいって怖かった。
「ミーガン・ハームズワース伯爵令嬢です」
はい?!
誰ですか?
「ハームズワース」
つぶやく令嬢が「私、メリガレット・ルイリヤ・クオラソムプと申します」
覚えれないような長い名前を名乗りつつ挨拶してくる。
背中をメイベルに小突かれあわててこちらも挨拶を返した。それを機に次々と令嬢さんたちに挨拶されたが。メイベルが耳打ちしてくれるには、伯爵令嬢を筆頭に子爵、男爵、と地位のある令嬢の群れらしかった。
これはいったいどういうことなのか。
メリなんとかいう長い名前の令嬢が、
「ミーガン様、パーティやお茶会でお会いしたことございませんよね」
え? そりゃそーでしょ。
「あの」と口出ししそうになるのをかぶせるようにジュドが、
「ミーガンは、おじいさまの側についててあまり館から出ることはないんだ」
「ハームズワース様はお母さまの」
と言うメリ嬢に、ジュドはわざとらしくため息をつく。
「母方の父親の弟の」
上を向いたジュドは
「遠縁にあたる人なんです。もうかなりのお年で。ミーガンも遠縁の娘なのですが、両親を亡くしてハームズワース公に引き取られて育ててもらった恩を感じていましてね。一身に世話をかって出て。だから外との交流は二の次になっていて、みなさんとお会いするのも初めてのことなんですよ」
メリ何とか嬢が「まあ」と口を手で押さえる。
ほかのお嬢様も一様に眉を下げ、同情のこもった目でこちらを見てきた。
メリ何とか嬢は、ふうっと息をつくと、
「ミーガン様はしばらくこちらにいらっしゃるんですよね」
「ええ、それは」
ジュドが代わりにこたえていく。
「でしたら、ぜひお茶会にいらしてください、ねえ皆さん」
振り返るメリ嬢にほかの令嬢たちが一瞬びくりとしたような。
「もちろんですわ」
「楽しみです」
「ぜひ」
と口々に言いつつも笑顔が引きつったように見えるのは私だけ?
それから「ミーガン様は長旅でお疲れですので」とメイベルが気をきかせてくれて、ジュドの部屋へと引っ込むことができたわけで。
今、ジュドを責め立てているというわけだ。
「どういうことなの! 私がハームズワース? あなたの遠縁の娘って何」
「あー、それはその。俺の婚約者ってことだよ」
「婚約者、なんだそういう、え?!」
「にゃー!」
目を白黒させる私とクロに、ジュドはいきなり、
「てことにしといてくれ!」
と頭を下げた。
待って待って。次期王太子に頭を下げられてる意味って何なの。
「そういうことにって。誰かの代わりってこと?」
そう聞くと、ジュドは、
「まあ、事態が落ち着くまでかな」
訳がわからない。次期王太子になるとジュドが言い出したみたいだが。レラは王太子妃にはならないと辞退したと言っていた。
「そうよ! フェリシアは? あなた、彼女のことが好きなんでしょ? フェリシアも王太子妃になりたい! って言うぐらいなんだから、彼女に言えば」
そこまで言ってハッとした。
「そうか、フェリシアが狙われたらまずいからとか?」
そういうことか。レラも狙われて、あれ? あれは私が狙われたんだっけ?
そんな話をしているときにジュドの使いが現れてここに連れてこられたんだった。あの時、フェリシアの話を聞けず仕舞いだったけどジュドから話はあったとは言ってたよね。
つまり。
「フェリシアの身の危険を考えて、代理を立てた。それが私ってことなのね?」
ここはフェリシアと王太子のために一肌脱ぐべきか。とひとりうんうんとうなっていると、ジュドが申し訳なさそうに、
「違うって」
と言い出した。




