王太子に呼び出されて
「私、王太子妃候補という立場でした。デヴィッド様が次期王太子になるというお話になってからも私の王太子妃候補という立場は変わりませんでした。王太子様が次々に代わるのも問題ですが、かわらずに王太子妃の立場でいるというのもおかしいと思っていたんです」
レラは苦笑すると、
「今回、ジュド様と私が狙われたということで、お父様を説得するのも案外簡単にできたんですの。今回はミーガンさんのおかげで無事でしたけど、次はどうなるかわかりませんし、って話したんです」
「ちょっと待って」
いきなりフェリシアが手を挙げた。
「狙われたってどういうこと?」
この話はジュドのお父さんとレラのお家での話だけになっている。
レラを見、フェリシアに顔を向けた私は、今までのことを説明した。
「本当なの?」
うなづく私に、
「それってジュドが邪魔だったってことよね。それにレラ様も狙われたってことなら」
うつむいたフェリシアはレラに「私、何も知らなくてごめんなさい」
「フェリシアさま?」
「私、叔母さまに問いただすわ」
立ち上がるフェリシアを慌てて止めた。
「待って待って。誰が計画したかはわからないじゃない」
「デヴィッド様を王太子にしたいのはフェルプス公爵夫人だし、私を王太子妃にしたいのは叔母様よ」
「確かにお2人は仲がよさそうだけど」
レラが困ったような顔をしてる。友人の親族に狙われたなんて考えたくないだろう。
私は、
「それに今回のジュド様のことですけど、ジュド様を王太子に推す人たちもいるそうですよ。だからデヴィッド様を推す人もフェリシア様やレラ様を推す人もそれぞれにいるんじゃないですか?」
と指を振った。貴族世界のことはお話でしかわからないが、どこでもそういう一派みたいな人たちは存在するものだ。
「それにしてもあのグレンがジュド様だったなんて」
私がそういうと、フェリシアも「王太子になるなんてねえ」と少しばかり感慨深げだ。
レラもうなづいていたが、
「だからかもしれませんね」
ぽつりと言った。
「だから?」
「デヴィッド様の家出です」
「あ~」とうなったフェリシアは、
「いたたまれなかったのかもしれないわねえ。お母さまがご熱心だったし」
「そうなんだ」
「うちの叔母さまも大概なんだけど、フェルプス夫人はデヴィッド様が王太子になることを強く望んでいらしたみたいなの」
確かに自分の子が国の一番偉い人になるなんて母親の夢かもしれないが。順番でいくと4番目。よほどのことがなければお鉢は回ってこないだろう。
「心配されてるでしょうね」
眉を下げたレラが小さく息をついた。フェリシアも「寝込んでるって」
全員でため息をつくと、きなこがにゃあとか細い声で鳴き、クロもきなこのそばでニャーと鳴いている。
「魔法で居場所でもわかればねえ」
こちらを見てくるフェリシアに「無理ですよ」と手を突き出した。
完全に原作からは別ベクトルのお話になってしまって全く先が読めない。
だが、レラが王太子妃を辞退したとなると、私もレラも裁判にかけられることも刑に処せられることもないってことではないだろうか。
つまり、ジュドは好きな相手と結婚できるし、フェリシアも王太子妃なるんだっていう望みをかなえられる。つまり主人公が王太子妃になるという原作通りの展開になる。
「フェリシア様、ジュド様から何かお話があったんじゃないですか?」
つい気になって聞いてみた。
が、びくりとしたフェリシアは「あー」と一言。
「その話なんだけど」
「はい」
レラも真剣にフェリシアを見つめている。
「お話があったんですね」
「えーと、それがですね」
と返事を聞く前にいきなりドアがドンドンとノックされた。
いいとこで誰だろうとドアを開けると見知らぬ騎士が立っていた。
「主人がミーガン様にご用事でいらしていただきたいと申しております。城までいらしてくださいますか」
「主人?」
何が何やらな私にかわりレラが
「どこのものです?」
フェリシアも
「誰の使いでやってきたのですか」
いままでの女子高校生のような姿とはがらりとかわって威厳が違う。
騎士もあわててひざまずくと、
「ジュド・ロックナー公爵様にお仕えしております、ライアンと申します」
ライアンの後ろから、レラのおつきの兵が「間違いありません」と報告してくれる。
「ジュド!?」
「ジュド様が? いらしたらいいのに」
と城を抜けだすことに慣れてしまったのかレラが首をかしげる。
「どういうこと? 詳しく聞いてるんでしょ」
フェリシアとレラにぐいぐい迫られてのけぞるライアン。
「それはその」
「それは?」
「その?」
騎士のライアンがかわいそうになってくる。
「あの、私がお城に行かないといけないんでしょうか? もしかして不敬罪とか」
なんせ、あんなに親し気というか適当にあしらってきた気がする。身分を知らなかったとはいえ、今では次期王太子だ。キレて暴言吐いてここに来た身としては嫌な汗が出てくる。
ライアンは咳払いすると、
「ジュド様からはミーガン様に失礼がないよう、お連れするようにとご命令をうけております」
「は、はあ」
何が何やらだが、ライアンはさらに言った。
「急ぎのことで申し訳ないのですが、馬車にお乗りください。中でお着替えをしていただきたく」
「着替え?!」
いったい、あの男は何を考えてるわけ?
「メイドは来ているの?」
と厳しい顔を向けたフェリシアにライアンは「あ、いえ、それは」と焦り気味。
「ひとりでお着替えさせるおつもりですの?」
レラは「メイベル」と言うと、メイベルは心得たとばかりに「わかりました」とうなづいた。
「さあ、ミーガン様」
とメイベルに引っ張られ馬車へと押し込まれる。後ろからレラが「必要なものはフランシス夫人のお店で用意してもらいなさい」
「はい」と答えるメイベル。
「頑張って~」
と手を振るフェリシアとレラに見送られなぜかジュドのお城へと連れていかれる羽目に陥っていた。




