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王太子に立候補

 ドアがノックされたかと思うと、

「ミーガンさん、こんにちは」

 村娘のローラが顔を出した。

「父さんが胃に効くお茶をもらってきてくれって。あと頭痛にいい何だっけ?」

「ラベンダーの精油?」

「それそれ」

 家に入ってきたローラが椅子に座り込む。


「あれ、この子。新しい猫を飼いだしたの?」

「あー、今日からね」

「へえ、かわいい」

 手を伸ばすローラに茶系の猫は後ずさって逃げてった。

「あちゃあ、嫌われちゃった」

「たぶん、人見知りが激しいんだと思うわよ」

「そうなの? ねえ名前は?」

「名前?」


 振り返って柱の陰に隠れる茶系猫を見た。茶色って言ってもベージュに近いのよね。あの色どこかで見たような。柱から丸い背中だけ見えて。


「きなこもち」

「え?」

「そうよ、きなこ。きなこちゃん」

「きなこ?」「にゃっ?」「にゃー」ローラときなこ、クロの声が重なった。


 丸い背中がきなこ餅みたいだったんだもの、仕方ない。

 クロの呆れた声は私の命名力のなさを嘆いてたのかもしれない。


「なんかよくわかんないけど、かわいい響きでいいんじゃない」

 と適当にお世辞を言ってくれたローラは、いきなり「そうよ!」と叫んだ。

「これね、父さんが酒場で小耳にはさんだんだって。だから噂かもしんないし、母さんにははっきりお触れが出るまで喋ったらダメって言われてるんだけど」


 猫と私以外誰もいない部屋を見回したローラは声を一段と小さくすると

「ジュド様が王太子になるんですって」

「え!? ジュドが!?」

 思わず呼び捨てしてしまっていたが、それにも気付かないぐらいでかい声を出していたらしく、ローラは慌ててシーッと顔をしかめて唇に指を立てた


「もうっ、ミーガンさん、声大きすぎ」

「ごめんなさい。でもそれ本当なの? デヴィッド様は?」

 首を傾げたローラは「さあ」

「ジュド様がなるって言ったらデヴィッド様は何も言えないしできないんじゃないの? 継承権の順番があるんでしょう?」

 それはそうだ。継承権が上のジュドがなると言えば、デヴィッドの出る幕はない。

 だけど、あんなに嫌がってたのに。いったい何があったんだろう。


「じゃあ、私帰るわ。くれぐれも誰にも言わないでね」

 ローラは秘密工作員のように眉根を寄せた渋い顔をするとするりとドアから出て行った。


 狙われるなら、逆に前に出てしまえってことだろうか。

 そうすると、王太子妃は誰になるんだろ? ジュドはフェリシアを好きなはず。フェリシアも王太子妃、ゆくゆくは王妃になりたい野望を持ってるからジュドが相手でも文句は言わないだろう。

 でも順当にいけば候補の一番はレラだろうが。あのレラなら、ジュドがフェリシアを選んだら、わかりましたと身を引くだろう。

 てことはレラが命を狙われることも、原作通りに私やレラが罰せられることはなさそうだ。このまま、静かにしていれば。


「でも」

 デヴィッド側はどうだろう。

 ジュドの存在が今まで以上に邪魔になってきたわけだけど。


「やっぱり、まだまだジュドもレラも危ないのかなあ」

 そんなに王様の椅子ってほしいもんなんだろうか。庶民にはわからない。頭を悩ませつつ、2匹になった猫様用に寝床やお皿を用意していると。


 ガランガランガラン


 あわてて窓の下に隠れてそっと外を伺った。

 クロも私のそばで耳を後ろに引いていわゆるイカ耳で威嚇状態になっている。きなこと名付けた猫も部屋の隅でイカ耳で身を縮めてる。


 あのどでかい音は、外に設置した仕掛けの音だ。


 と、いきなりドアが開き、

「ミーガンさん!」

 レラが小屋に飛び込んできた。


「レラ様? こんなとこに来たら危ないですよ。気をつけるようにって連絡いってますよね」

 キョトンとしたレラは、

「それなら大丈夫です」

 ドアから見ると、10人近いお付きの人というか騎士さんたちが小屋のそばに立って監視していた。


「それより、あれは何ですか? すごい音がしましたけど。私、つまずきそうになって近衛兵が3人、かわりに転んで」

「あ〜、ごめんなさい。あれは罠というか、誰か来たらわかる仕掛けになってて」


 ジュドのところからここに戻ったが。

 狙われたのはレラで私は間違われたのでは? という話になった。レラのところにしばらくは用心するようにとロックナー公爵から伝えることになったのだ。


 だから私自身の身の回りは大丈夫だろうと森に戻ったわけだけど。さすがにあんな目に合うと夜の森の中は不気味な感じがして。一応用心のために小屋の周りに紐や糸で仕掛けを作り誰か来たら音がなるようにした。


「やはり、あの方はジュド様だったんですね」

 レラはグレンのことを見たことがあるなあと悩んでいたが、面識のある王族の男だったわけだ。

 せっかく来てくれたレラにハーブ茶を出す。すぐさま、おつきのメイドさんメイベルが先にお茶を口にした。命を狙われてるかもしれないから気をつけろと言われてるんだから仕方がない。


「ごめんなさい、ミーガンさん。ロックナー公爵様からお話があって。みんな厳戒態勢になってしまって」

 眉を下げるレラに、ううんと首を横に振る。気をつけるようと提案したひとりとしては何も言えない。

 だが、レラは「私じゃないと思うんです」と背筋を伸ばした。


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