王子様のひとりが登場
道は大きな湖のそばをぐるりと続いている。暗かった夜も薄いオレンジが混ざっていく。
もうすぐ夜が明けそうだ。
さっきまでいた館も大きそうだったが。目の前に現れた館も驚くくらい大きい。これは館というか城?
圧倒されるぐらいの壁が続き、意外に細い橋を渡って小さな門をくぐり抜けた。
これは裏口にあたるのかも。
出てきた番人に馬を渡したグレンは、
「ロックナー公爵は起きてるかい」
「ジュド様、お帰りをお待ちしておりました」
出てきた執事のような人が城の中へと促してくれる。
私の腕から降りたクロは訳知り顔でさっさと進むけど、こっちはすっかり借りてきた猫状態だ。
「そんなに縮こまなくてもいいよ」
すたすたと進んだ先の部屋に通され、
「着替えてくる」
と取り残された。
ペルシャ絨毯のような赤を基調にした細かな植物の模様に織られた絨毯が敷かれ、高い天井に金とガラスできらきらと装飾を施された大きく豪華なシャンデリアが下がっている。
天井も壁も花や葉の模様が彫り込まれたデザインで、大きな人物画の絵画が掛けられている。そして大きな暖炉と、猫足のソファ。テーブルにはお茶のセットがすでに置かれていた。
何なの、この貴族の部屋は!
ゲームの中かマンガの中、映画の中でしか見たことないわ。
ミーガンとして婚約破棄を言い渡されたお屋敷も立派ではあったけど規模がだいぶ違うみたい。
そんな高そうな部屋の中で椅子に座るのも座りにくく、立ったまま壁にかかる絵を眺めていた。
家族の肖像画なのか、主と奥さんと小さな男の子、これってグレンじゃなくてジュドの小さい時? 別の絵にはそのジュドと並ぶように2人の男の子。小さいながらも貴族の恰好をした子供だけの絵、みんな天使のようにかわいいけど。もしかしてこの3人は。
ロックナー公爵というと、リヒャルト・ルクルット王の弟だ。つまりグレンはロックナー公爵の息子。噂で聞いた家出しているジュド・ロックナー、ロックナー公爵子息で王から見れば甥っ子。王位継承権の3番目の男だ。
王様も弟の公爵様も一人息子しかおらず、王のお姉さんには息子と娘、2人の兄妹しかいないはず。
てことは、絵画の3人はジュドと王様の息子ディーンと姉であるロザリンの息子、噂のデビッド様かもしれない。
それにしてもあのグレンがまさかの王族だなんて。
髪を染めて、長い前髪で目を隠し眼鏡までして身分がわからないようにしてたわけか。村の子たちが言ってた女性のとこにしけこんでいたのではなさそうだが、そこまで王様になるのが嫌なのかしら。
「ねえ、クロどう思う?」
ビーナスだか何だかの像に挟まれた暖炉の前に置かれたソファに我が物顔でくつろぐうちの猫。
「あんたこそ、王子だわ」
と、ドアが開いてまさに王子様みたいな姿のグレン、ジュドが入ってきた。
本当に公爵の子息なんだ。実際に目の当たりにすると言葉がない。
フリルのようなフリフリの襟、細かな刺繍の入ったベストに丈の長い上着。まさに漫画やゲームで見る貴族スタイル。さっきまでの長めの髪もとりあえずくくっているようだが、白に近い金色のさらりとした髪に戻っている。そして、肖像画と同じ薄青の目がきらきら。
目を覆いそうなほどオーラが違うんですけど。
よほど見つめていたのか、
「何? かっこよすぎて驚いた?」
ってにやにやされた。
ったく。中身は変わらないらしい。
「髪はやっぱり染めてたんですね」
「まあね」
と金色の髪を指でつまむ。
「あ、それから丁寧な言い方しなくて大丈夫だから」
とにやり。王族の人にそんなわけにいかないんだけど。
そこにドアが開いて一人の男が入ってきた。
ジュドを歳取らせたような。ってことはバッハフ・ロックナー公爵、王様の弟だ。
「ジュド、元気そうだな」
「そんなこともないですが。お父上もお元気そうで」
ちょっとあきれ顔をしたロックナー公爵は、
「で? 幽閉されてたのは本当なのか?」
「そうですね」
「そのお嬢さんと一緒に?」
私に視線が向く。ジュドが間髪入れずに、
「村の近くに住む魔女のミーガンです。自分もレラ嬢やフェリシア嬢も世話になりました」
「ほう、魔女?」
「ち、違います。ただのハーブ売りです」
あわてて訂正し、ジュドを睨んだ。またにやにやしてるし、父親も同じような顔して面白そうに笑ってる。似たもの親子らしい。
王位継承権を拒否した弟の公爵、拒否して家出したその息子、2人揃って王位に興味がないとこまで似ているようだ。
なのに狙われるなんて。
「まさかこんなことまでするとはな」
ロックナー公爵が言うと、ジュドもうなづいている。
やはり王位継承権を巡って命を狙われたってことなんだろう。ってことは、デヴィッド側の人間がやったことだろうか。
お茶会にいたのは、デヴィッドの母親とフェリシアの叔母。
「ミーガンが狙われた訳はわからないけど、何か思い当たることある?」
私はぶんぶんと首を横に振った。
私が狙われた訳だけがどう考えてもわからない。
「レラ様とドレスがお揃いのように似てましたけど。まさか人間違いでしょうか」
「レラ嬢が狙われてたってこと?」
ジュドが声を上げ、父親のロックナー公爵は顎に手をやり首を傾げつつも、
「レラ嬢とジュドか」
「なんです?」
含み笑いなロックナー公爵にジュドが嫌そうに眉根を寄せた。




