貴族のお茶会に
あれから、村に行ってもグレンは隠れているのか姿を見せない。
「いったい何者なんだろ」
フェリシアの知り合いというと、ゲームの中では幼馴染か商家の跡取り息子がお相手として登場してた。そのどちらだろうか。
「真面目に仕事するのが嫌でギャンブルにハマってるとか。あのタイプは女癖も悪そうだし」
ハーブを刻みつつ言うと、クロが食べてた魚がつかえたのかげほげほとせき込んでいる。
「大丈夫? 水飲んで」
ほら、と皿を差し出しつつ、
「噂話に詳しかったじゃない。あちこちのお姉さんたちから噂話を聞いてるんだと思ったんだけど」
違うかなあ、とつぶやいた私は、クロをなでつつ、
「ほんとにただの遊び人なのかしらねえ」
「にゃあ」
答えたクロがドアのほうへと顔を向けた。
「ミーガンさん」
ノックとともにレラのメイド、メイベルさんが顔をのぞかせた。
小屋の外には小さな馬車も一緒に来ている。
「お手紙届いてますよね。ヴェルミリオ侯爵様もぜひにと」
レラとフェリシアがやってきた数日後、手紙が届いた。
この世界で暮らし始めて初めての手紙。
まさかのレラからで、お屋敷でのお茶会のお誘いだ。
レラとはあまり親しくならないほうが自分のためにいいはず。と思いつつも、レラもフェリシアも守らないといけないんじゃないかっていう気持ちに駆り立てられていた。
それに侯爵家の誘いを断るのはまずい行為なのかもと出席することにしたのだが。
「もう、ですか?」
「遅いぐらいですよ。お着替えは……」
私を上から下まで見たメイベルは、
「ドレスをお持ちしました」
大きな旅行カバンをどんっと床に置いた。
「え? やっぱりこれじゃあダメですか」
はっきり言って庶民暮らしの私に貴族のお茶会に着ていくドレスなんてものはない。
持ってる中でも比較的きれいそうなのを選んだつもりだが。
メイベルはカバンを開くとてきぱきとドレスやメイク道具やらを出していった。
黒一色のドレスは首元がフリルタイでパフスリーブに袖がついたジュリエットスリーブ。レースをあしらってあり、上品な印象だ。
「ゴスロリみたい」
とつい呟いてしまい、メイベルに「ゴ? 何ですか?」と聞かれてしまう。
髪はいつもはまとめているが、ゆるく巻いた髪を流し、髪飾りをつける。メイクもされて。
クロも驚いた顔してこっちを見てるし。
「コスプレみたい」
と呟き、またまた聞き返されていた。
馬車に揺られ連れていかれた大きなお屋敷。原作の漫画で見たのと似ていたが、実際目の前にすると威圧感がすごい。
円柱に支えられたバルコニー、その下に普通のドアよりもかなり大きな玄関ドア。縦に長い窓がずらりと横に並ぶ。白亜のお屋敷ってこういうのを言うんだろうな。
ため息ついて入った玄関だけでうちの小屋がまるごと入りそうだ。
メイベルさんから執事さんにバトンタッチされて、屋敷内から庭へと案内される。
庭には、テーブルと椅子があり、お茶の用意がされていた。
ティーポットにティースタンド。イギリスのアフタヌーンティーに似ている。
「ごきげんよう。いらしてくださってありがとうございます。クロさんもいらっしゃい」
クロは留守番かなと思っていたが、ぜひにと言うので連れてきていた。
「ミーガンさん、ステキです」
レラがにこにことしつつ囁いた。
「こちらこそありがとう。こんな素敵なドレスまで貸していただいて」
レラの着ているドレスも借りたものと同じような黒一色のドレスだ。花柄のレースがかわいらしく、やっぱりゴスロリ風に見える。こういうのが好きなのかも。
レラは「お揃いみたいですね」とにこにこしていたが、来客があらわれ「本日はお招きいただいてありがとうございます」と挨拶をし合う。
侯爵家のお客様ということはそれなりのお家、貴族のお嬢様ばかりのようだ。
私のこともレラが説明してくれた。
「魔女さんなんですね」
「匂い袋、持ってるんです」
「私もメイドに言って買ってきてもらったの」
みなさん、レラ様の取り巻きのはずなんだが。
原作は顔なしに描かれてたけど。そばかすの子、赤髪の子、スリムな子、ふくよかな子、と村にいる女の子たちと何ら変わらない気がした。
みんなして談笑中に、レラの父親、ヴェルミリオ侯爵が顔を出した。私の手を取りひたすらお礼を言われる。レラの怪我の手当のことだ。それを言うならフェリシアだと思うんだが。さすがに娘の恋敵って印象なんだろうか。だが、その場に恋敵の親族と三角関係渦中男性の親が現れた。
「レラさん、皆さんもこんにちは」
「フェルプス公爵夫人」
レラが立ち上がって挨拶をする。
王様の姉、ロザリン・フェルプス公爵夫人だ。その後ろには幾人かの女性。いずれも伯爵夫人なのか男爵夫人なのか、貴族には間違いなさそうだ。
挨拶を交わし合うその中に、
「ご機嫌麗しゅう、バロワン伯爵夫人」
と言うのを聞いて思わず見入ってしまった。
フェリシアを引き取った叔父さんの奥さん。ゲームには後ろのほうに小さく描かれるだけのキャラが目の前にいる。
というより、この人とデヴィッドの母親が一緒にレラの父親の屋敷に来るなんて。結婚の話で来たんだろうか。
それにしてもフェリシアが言っていたように美しい人だ。デヴィッドの母親、フェルプス公爵夫人は美顔の一族なんだろう、きれいなのはもちろんだが威厳というかそんなオーラがある。
かたや、ほかの婦人たちも着飾ってきれいにしているが、フェリシアの叔母さんは怪しい美しさだ。漆黒の髪をまとめ、大きな瞳に長いまつ毛、赤い唇が妖艶で。あまり飾りのないシンプルなドレスだが、スタイルの良さを浮き彫りにさせている。いったいいくつなんだろう。まさにあれだわ、年齢不詳の美魔女。
自分の中で納得しつつご夫人達を眺めていると、フェルプス公爵夫人が、
「レラさん、この方は」
青い瞳でじっとこちらを見つめてきた。
「こちら、ミーガンさんとおっしゃって。先日、私を助けてくださったんです」
レラの説明に私もあわててドレスの裾を持ち上げ頭を下げた。こんなお辞儀はなれなくてぎくしゃくしてしまう。そのせいか、フェルプス夫人の視線が刺さるように痛いんですけど。
レラは「お薬を塗っていただいて」と言いつつ、フェリシアの叔母さんに視線を向けた。
「フェリシア様にも助けていただいたんです。ありがとうございました。本日もいらしていただきたかったんですが」
伯爵夫人に頭を下げる。
「あの子は今日は来れなくて申し訳ございません」
伯爵夫人がにこりと微笑んだ。
そして私に視線を向けると、
「ミーガンさんとおっしゃるのね」
「は、はい」
じっとみつめられ、汗しか出てこない。
この人が、あのバロワン伯爵の奥さんなのか。きれいな人だもんなあ。男ならくらっとくるだろう。バロワン伯爵もくらっとしたのかな。つい伯爵の笑顔が頭に浮かびぶんぶんと頭を横に振った。はっとし視線を上げると、伯爵夫人の厳しい視線に気が付いた。




