キラキラもドキドキもないなんて
フェリシアは、にこりとすると、
「そのための結婚よ」
レラも私もはてな顔だが、クロだけが「ニャフン」と鳴いて丸くなった。
「私は地位がほしいの。地位があれば改革ができる」
まさか、フェリシアがこんなタイプだったなんて。
かっこいい。
レラも驚いてフェリシアを見つめている。
こんなふうに自分の意見を言い、やりたいことを語る女性を見るのは初めてなんじゃないかしら。
「フェリシア様」
レラは唇をきゅっと引き結んだ。
「私はお父様の言いつけを守らないわけにはいかないんです。ですがデヴィッド様がフェリシア様を選んだとしたらそれは仕方のないこと。お父様にもどうしようもありません」
「ありがとう、レラ様」
ニコリとしたフェリシアは、
「がんばって、ものにするわ。レラ様、デヴィッド様って何が好きか知ってる?」
マジですか。
女子の恋愛相談じゃないんだから。
あれ? でも。
「ちょっといいですか?」
私はまたしても質問体制に入る。
「デヴィッド様にお会いしたことあるんですよね?」
フェリシアは「そうねえ」なんて言いながら人差し指を顎にあて、上を向く。
「一度、王宮の図書館で会ったわ。近眼なんでしょ。眼鏡をかけてて」
思い出そうと頑張ってるようにしか見えない。
「もしかして印象ないんですか?」
悪そうな顔して苦笑するフェリシアも、デヴィッドのことをなんとも思ってないんだろう。
地位のための結婚ならあるかもだが。
「結局、おニ人ともデヴィッド様のことを好きでもなんでもないんですか」
何この話。
キラキラもドキドキもありゃしない。
これならレラが悪役令嬢になることも私が悪い魔女になることもなさそうだけど。
逆にフェリシアが悪役令嬢になりそうな。
「どうかしたの、魔女さん?」
顔を覗き込んできたフェリシアに、
「なんでもないです」
何だかデヴィッドがかわいそうになってきた。彼は、会ったことはないが、誰を好きなんだろう。
本来なら三角関係の一点であるはずのレラはうつむいていたと思ったらいきなり顔を上げ、
「デヴィッド様がお好きなのは自然だと思います」
さっきのフェリシアの質問を今まで考えていたようだ。フェリシアも思わず目を丸くしつつも面白そうに、
「自然って花とか木とかですか?」
「うーん、そういったものや石とか?」
「石?」
はい、と答えたレラは、「図書館でお会いしたとき、そういうご本を見ておられましたから」
それまでも、噂で木や花等などに詳しいとも聞いたらしい。
「そんな勉強はしないでしょうに。本当にお好きなのかも」
「だと思います」
真剣に答えるレラは、まるで、フェリシアを応援する親友のようだ。
にこ〜としたフェリシアは、
「レラ様って最高」
ぎゅっとレラをハグして、今度はレラが目を丸くしていた。
フェリシアがレラを連れて帰るから大丈夫と言うものの、フェリシアだって貴族のお嬢様だ。
2人のお嬢様をお供もつけず帰すわけにもいかない。
とりあえず、村まで私もついていくことにした。村まで行けば男手も借りれるだろうし、町まで連絡を頼むことだってできる。
クロも連れて村に行くと、レラのメイド、メイベルが慌てた様子で村にやってきたとこだった。もちろん、お付きの兵士も伴っている。
「お嬢様!!」
半泣きのメイベルはレラの姿に泣き崩れそうな勢いだったが、私を見、すぐそばにいるフェリシアを見て髪を逆立てた。
「あ、あなた!」
「メイベル、フェリシア様が助けてくれたのよ」
指さして突進しそうな勢いのメイベルにレラがはっきりと言った。
「魔女、ではなくてミーガンさんのところに連れて行ってくれて、手当をしてくださったのよ」
ニコッとした笑顔をこちらに向ける。
「手当って怪我されてのですか?!」
メイベルは卒倒しそうだが、レラは落ち着いた様子で、
「大丈夫」
と微笑で返してる。
「お薬も頂いたし」
私も頷くと、ハーブで作った薬を手渡した。
すぐに兵士が村の宿屋に停めていた馬車を運んでくるとフェリシアも一緒にお屋敷へと帰っていった。
「やっと帰ったか」
後ろからの声に驚いて振り返るとグレンが遠ざかっていく馬車を眺めていた。
「グレンさん、どこにいたんです。というか、泊まるとこは工面できましたか」
「心配してくれるの? ありがたいなあ。なんなら、あんたのとこに泊まらせてもらってもいいんだよ」
眉を上げニヤッとされる。そばにいたクロが、
「ニャー!」
とでかい声をあげた。
「おっ。お前も一緒がいいか」
なんて手を伸ばし間伐入れず引っ掻かれている。
「俺、赤い屋根のばあさんのとこで世話になってるから」
と引っ掻かれた手をさすりつつ差ししめした。あの家、私も世話になったクララおばあさんのとこだ。つくづく、流れ者の世話をさせられてるようだ。
「ねえ、フェリシア様って女性がもっと勉強や仕事をできるようにしたいって言ってた?」
目をしばしばさせたグレンは、
「ああ、言ってたよ。女だからって仕事をさせてもらえない、工房に雇ってもらえないなんていって」
本人が言ってた通りだ。
「だから、貴族になれたことはチャンスだって。王太子妃になれたらもっととか言ってたけど。何するつもりなのか。女たちってお姫様を夢見るもんだと思ってたんだが」
「そうねえ」
まさに童話の世界。めでたしめでたしを夢見ることもあるだろう。
「もともとの王太子がいたときだって、妃候補が山のように現れて大変だったんだ」
「へえ」
「それってデヴィッド様がじゃなくて?」
「ああ、ディーン。ディーン・ルクルット。デヴィッドとは大違いさ」
「そうなの?」
「ったくフェリシアもどうかと思うよ」
「そう?」
「デヴィッドと会ったこともないんだぞ。すごい変態になってたらどうすんだよ」
思わず吹き出した。
「そんなこと言ったら捕まるわよ」
ふんっと鼻を鳴らしたグレンは、
「社交的でもない。いっつも図書館にいるようなやつだぞ、小さいときはかわいくても、変態になったに決まってる」
無茶苦茶な言い分だが。
「グレンさん」
興奮して言い募ったグレンの顔が上気してる。
「ん?」
「あなた、誰なの?」
グレンは息をつめると、
「だ、誰って、俺はあれだよ、遊び人」
「そう。それにしてはよく知ってるのね」
「それは、ただの噂だよ噂」
あわあわと説明すると「じゃあ、俺、ばあちゃんの頼まれごとがあるから」と走って逃げた。
クロがグレンの背中を見つつ「ニャ」と呆れたような声を上げていた。




