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居候とライバル2人

「魔女?!」


「うわあっ」


 思わず声に出して魔女と言った途端、誰かが叫び飛び出してきた。


「グレンさん?」

 グレンがこちらを見、きまりが悪そうに眉を下げ苦笑顔。


「あなた、何して」

「ごめん、行くとこなくて」

「行くとこって家があるでしょ、ほら、あのアパートみたいな」

「いや、あそこは今はまずいから」

 いきなり頭を下げたグレンは、

「お願いします! しばらく身を隠れさせてください!」

「はあ?!」

 口をあんぐりと開けてる横でクロが猫らしからぬため息ついていた。


 グレンはアパートで襲われた後、食堂に向かう私のあとをついてきたらしい。

 私が食堂でジャックさんと話している間にこっそりと馬車の荷台に入っていたらしい。幌があるから全く気づかなかった。


「グレンさん、もう遅いから仕方ないですけど」

 狭い家の中。台所の隅でいいというので、毛布を渡した。


 ベッドに横になるといつもは一緒に寝ないクロが足元で丸くなる。

 強力なボディガードだわね。

「ねえ、クロ。あの人、やばいことしたんじゃないのかしらね」

 あんな怪しい連中に追われるなんて、これは間違いなくギャンブルだ。

 ギャンブルでお金を借り、返す見込みが立たない。そして怖いお兄さんたちが取り立てに来る。


 どこの世界も一緒だわ。

 そんな人とフェリシアを一緒にはできない。   


 やっぱり原作通り王太子妃になってもらうほうがいいかも。

 王太子候補のデヴィッドが真犯人かも、なんて考えたこともあったけど。本気で好きあっていたら、その仲を裂くようなことはしたくないしなあ。

 

 レラが王太子を本気で好きだとかわいそうだけど。レラと私はフェリシアを応援するか、まったくかかわらないようにするかしないと。

 レラがもし2人の仲を裂く方法を相談してきたら何とか説得するしかない。

 じゃないと、2人そろって断罪コースだしなあ。


 いまだいい方法は思いつかず、行き当たりばったりでいくしかない。


 ん? 待ってよ。グレンはフェリシアを好き、王太子との仲を裂きたいはず。

 そんな人間がノームの森の魔女と言われる私のとこにいる。

 これって人物はかわってるけど強制力が働いてるんじゃないわよね。

 私は薄気味悪い思いで台所の隅をうかがった。




 朝になり、パンとスープで朝をすませると、グレンにぴしりと言った。

「グレンさん、昨夜は仕方なかったですが、出ていってもらえます?」

「ちょい待って! 昨日も言ったようにしばらく身を隠させてほしい」

 すごい勢いで頭を下げてきた。


「村で頼めるとこを探しては」

「いや、村は」

 言いよどんだグレンは視線を床に落とす。

「知り合いもいないし」


 私とあなたは知り合いですかね?

 かなり不審げな顔していたようだ。グレンは、

「早めに出ていくようにするから。それに、絶対、変なことはしない! 神に誓って」

 と胸に手をあて天を見上げるポーズ。

 壁ドンしてきたくせに。


 私はニヤリとすると、

「想い人がいますもんね」

 目を見開くグレンに、

「ほら、フェリ……」

 わーっ! と叫んだグレンが私の口を手で塞ごうとした。


「ほんとのこほひゃ」

 もごもごいう私に、クロが飛びついてきてグレンの腕に噛みついた。


 ギャーっと叫ぶグレンと、逃げようと暴れる私に、噛みついたままのクロ。2人と一匹で大暴れしているその時、いきなりドアが開いて。

「魔女さん! 何か薬を!」

 声の方に顔を向けると、フェリシアが目を丸くして立っている。


「あら、お邪魔しちゃった? って、あれ? グレン?」

 はたと気付いた私は、グレンを突き飛ばした。

 実らない恋とはいえ、想い人に誤解されるのはかわいそすぎる。何より誤解されるのはこっちもごめんだ。


「フェリシア様、いったいどうされたんです」

「ああそうよ! 薬があるかと思って」 

 答えるやいなや、フェリシアはフードを被った女性の手を引いて中に入ってきた。


 フードを取ると。

「レラ様!?」

 なぜかライバル同士の2人が一緒にやってきた。しかも、フェリシアはレラの手をとって。


「ここから北に小高い丘になったところがあるでしょ。野原になってて。そこで転ばれて。ちょっと、グレンは外に出てくれる?」

 レラの足元を指さしたフェリシアにグレンは、

「ああ、そうか、ごめん」

 と嚙みついていたクロを抱えて外に出ていった。

 フェリシアには逆らえないようだ。出ていったのを見届けたフェリシアはレラを椅子に座らせた。


 ドレスの裾をそっと上げる。

 応急処置はしたのか、ひざにハンカチが巻かれていた。

「これは?」

「私のよ、血が出てたから」


「ちょっとごめんなさい」

 ハンカチをそっと取るとすでに血は止まっているようだった。

「消毒して、オイルを塗りますね」

 ハーブでオイルや軟膏も作っておいてよかった。

 棚からカレンデュラオイルの小瓶を出して傷口をきれいにしてから塗った。


「深くないしすぐ治りますよ」

 軽度の擦り傷だ。大したことがなくてよかったが、令嬢が野原で何をしてたんだろう。

「よかった」

 ホッとしてるフェリシアにレラは、

「ありがとう」

 と小声でお礼を言っている。


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