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片思い男と怪しい男

 まただ。

 またもや魔女呼ばわりされている。

 どこまで広まってるんだろう。


 ちょっとばかりムッとしつつ目を上げた。

「魔女ではないですけど、そんなもんです」


 小さく首を傾げた男性は、

「まあいいか、あのさあ、あんたのとこにフェリシアが行ったんだろ」

「はあ、来られましたけど」

 と見ると、男性は首の後ろに手をやりぼそぼそと小声になる。


「あ〜、あの、あいつ、恋に効くとかいうハーブを買っていったんだよな」

「そうですよ。匂い袋とハーブティも」

「そうだよな。それで、それは」

 ますます声が小さくなる。


「はい?」

「それは、誰のために」

「誰のため?」

「だから、恋に効くんだろ、相手がいることだろ」


 いくら鈍くても流石にわかる。

 クロも呆れた顔してるんじゃないかしら、と見ると、私の後ろからじっと男性を見ていた。

 なんだこいつ、とでも思ってんのかな。


 何だかかわいそうな気もしてきたが、男の顔を見上げると、

「フェルプス公爵家の」

 途端に手を広げ、

「あー、わかった」

 と一言。

 デヴィッドか、と言う声が聞こえた。


 恋敵ってことかな。

 この男性はフェリシアに恋してる。

 そういうお相手もゲームの中にでてきたっけ。もしかして大きな商家の息子? 幼馴染?


 あきらめきれないのか、男性は、

「フェリシアは、デヴィッドのことが好きだって言ってたか?」

「へ?」

「だから、デヴィッドが好きだから、ライバルに負けたくないから、ハーブを売ってくれって行ったんだろ」


 あのとき、フェリシアはなんて言ってた?


 レラと同じものを売って欲しい。

 デヴィッドは自分のことを物珍しいと思ってるんだろうと言っていた。叔母さんはデヴィッドはフェリシアを好きに違いないと思ってるみたいだが。

 フェリシア本人はデヴィッドを落としたいとは言ってはいたが、好きだとか愛してるだとかは。だけどそんなことは人前で言いにくいだろう。


 それに、

「なんとしても、王太子妃から王妃になるんだって」

 真剣に言い切っていた。

 まわりに勧められてなんとなくとかではなく、真剣に好きなのかもと思っていた。

それを聞いた男性は一瞬ぽかんとした顔をして、それからアハハと笑い出した。


「何かおかしかったですか?」

「あ、いや、すまん。ただ、フェリシアらしいなと思って」 

 何がおかしいのか、楽しげに笑いつつ、

「ありがとう、魔女さん」

 とウインクして去っていった。


 一瞬、めちゃくちゃイケメンに見えたんですけど。メガネ取ったら大変! なタイプの人だったのかも。

 まさか、クロも同じことを思ったんじゃないだろうが、すたすたと去っていった男の後を追っていく。


「クロ!」

 ジャックさんのとこに行かないといけないのに。クロを放っておくわけにもいかない。

 あわてて、その後を追った。


 マルシェのような町中は、大勢の人が行き交っている。クロはその中を縫うように進んでいく。


 クロの先に茶色いぼさぼさの髪が見えた。

 男は建物の間の路地に入っていく。


 建物と建物の間は人が行き違うぐらいの狭さだ。窓には洗濯物がひしめき合うように干してあり、中には向かい合う窓同士でロープを張って洗濯が干してあった。

 そんな住宅のひとつに男はすーっと入っていった。

 クロが男のあとについてドアから入っていってしまう。


 焦ってドアの前まで行ったが、どうやら集合住宅、アパートのようなものみたいだ。

 クロったらどうするつもりなんだろ。まさか、あの男が気に入ったとか。


 とにかく外に連れ出して家に帰らないと。

 しばらくドアの前でうろうろしていたが意を決して中に入った。


 薄暗い小さいホールの階段が見える。エレベーターなんてないし、階段をそっと上がっていった。


 2階には廊下を挟んで部屋が続いてる。

 多分、上の階も同じ感じなんだろう。

 何階なのかどの部屋なのかわからない。クロの姿を探して廊下をきょろきょろ。いなければ上の階に上がってまた探した。


 4階に上がった時、上も下も黒い服の細めの男がある部屋のドアをノックしていた。

 その男の後ろにももうひとり黒尽くめの大柄な男が立っている。

 どこから現れたんだろう。私の前に入った人いなかったのに。


「グレンさん、マニーさんのところに忘れ物されてましたよ」

 と声をかけている。


 忘れ物? 手には何も持ってない。

 なんだか怪しい。


 私は男たちに聞こえるように「クロ! クロ〜!!」とでかい声を張り上げた。


 驚いてこちらを見る男たちに、

「すいません、猫見ませんでした? 黒くてかわいいんです〜」

「何だお前」

「ここに猫なんて来てねえんだよ、よそに行けよ」

 大柄な男がズシズシとこちらに向かってくると肩を掴んで後ろへと追いやろうとした。

 そこにいきなり黒い塊が飛び込んできて。

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