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森の中の出来事

 森の中では大きな動物には会わないが、ウサギやシカの姿は見たことがある。

 そこで狩りが行われたってわけか。


 ひとり納得している私に全員が顔をしかめると、

「もう2年も前だし」

「知らないから森にすみ始めたのかなあとは思ってたの」

「だからあえて言わなくてもいいかなって」

「こんな話したら気にするかと思って」

 申し訳なさそうに眉を下げる。

「いいのよ、気にしなくて、ありがとう」

 と頭を下げた私は更に詳しい話を聞いた。


 隣国の式典に出席されたディーンとジュド、それにお付きの人たち。

 帰り道にこの森で狩りを楽しんだ。私が住んでいるノームの森だ。

 村で軽く食事もされたらしいが、女の子たちがうろうろするのはよくないと家の中から出ないようにさせられた。でもお姿は見たいし、で、馬上の姿を何とか見ることができたとか。

 なんともほほえましい気もするが、狩りの最中に大変なことが起こったわけだ。


 ディーンの姿が消え、馬だけが戻ってきた。

「それこそ、大勢の兵士さんが森を捜索に来て大変だったのよ」

「村からもお父さんや兄さんたちが駆り出されて探したんだけど」 

 王太子の姿はどこにもなかった。

 最悪、事故死しているのではと思われたが、その死体すら見つけることはできなかった。


「馬だけ戻ってきたんですって」

「だから落馬か何かあったんじゃないかって」

「大人たちはみんなして噂してたの」

「本当は、って」


 死体すら見つからないと言われてるが、本当は死体が見つかり秘密裏に処理されたんじゃないかとか。

「国民がショックを受けないように死んでない、行方がわからないだけだってことにしたんじゃないかって」

 無理がある話だが、一人息子の父親てある王様も認めたくはなかったのかもしれない。

 それでも、もう2年。自分の体も弱ってきて後を継ぐ人間が必要になってきたんだろう。


「なるほどねえ」

 とため息をついた。

「ねえ、あそこに住むの嫌なら村に出てきたら?」

 ハンナがそう言い、残り全員でうんうんと頷いている。

 思わず笑みがこぼれてしまう。

「ありがと。でも大丈夫。大事なハーブを育てるにはあそこがいいみたいだしね」

 教えてくれてありがとう、とお礼を言った。




「ミーガンさん!」

 村を通り抜けて森に帰ろうとしていた私に、野菜を荷車に積んでいたジャックさんが声をかけてきた。


「はい?」

「あさイチで隣町に行くんだけど、ミーガンさんのハーブティを」

「あ、そうだった。すぐ持ってきます」


 野菜や村で作ったものを隣町に運ぶジャックさん。

 以前、ジャックさんがハーブを多めに買ってくれたことかあった。どうするのかなと思っていたが、野菜を運んだ時に一緒に町に持っていってくれてたのだ。


「お店においてもらったらすぐ売れたよ」

 といきなり言われ、販路を広げてくれたことに驚いていた。

 それ以降毎回運んでもらうようになった。

 まさか、魔女なんて名前が広まってるなんて思わなかったが。

「朝に間に合えばいいから」

「わかりました」

 取るものもとりあえず急いで帰った。


 乾燥させ細かくしたハーブティを袋に詰める。

「匂い袋もいるって言ってたな、ジャックさん。恋愛目的の匂い袋は女の子に好評だから、きれいなレースを飾ればますます売れるかも」

 レラからもらった布やレースを駆使して匂い袋をかわいくしていく。


「ノームの森の魔女なんて有名になってるってレラもフェリシアも言ってたわよね。この際、ノームの森の魔女の名前を打ち消す方法ないかしら。野菜とか作った人の名前貼ってたりしたのあるわよね」

 前にいた世界ででスーパーで買っていた野菜を思い出す。

「商品に名前シールはれたらいいんだけど。そんなものないわよね。うーん、名前を書いた紙を入れとくか」

 わら半紙をカットすると、ペンを手に訂正する名前を考える。


「ノームの森の魔女じゃなくて、ハーブ屋さんってどうかな。ミーガンの名前を入れるのもなんだし。ノームの森のハーブ屋さんでいいか。かわいい感じだし」

 ぶつぶついいつつペンを走らせる。紙の端には黒猫のイラストもいれた。

「ほら、これクロよ。かわいくない?」

 ほらほらとクロに紙を見せる。ご飯をバクバク食べていたクロがこちらをちらり。当然だというように鼻を鳴らした。


 トントントン

 と、いきなりドアをノックする音がした。


 こんな夜更けに、真っ暗な森の中にやってくる人なんて。村の人でも朝や昼しか来ないのに。

 恐る恐るドアに向かう私に、クロが戦闘態勢を整えてついてきたが、ドアの前でふいっと方向転換して戻ってしまった。


「え? 何で?」と思う間もなく、ドアの向こうから「魔女のミーガンさん、私よ私、フェリシア。開けて」


 フェリシア? 


 なんでまたご令嬢がこんな時間にこんな場所に?

 あわててドアを開けると、大荷物が目の前にドドーンと現れた。


「フェリシア様?」

「ここ、ここ、荷物入れるわよ」

 大荷物の奥から声がして、そのまま部屋へと入ってきた。

 荷物をどんっと床に置くと、フェリシアがニマリとした顔を上げた。


「これ使って」

「はい?」

 ぐるりと部屋を見回したフェリシアは「あれ?」と声を上げる。

「あったのね。待って、来たときはなかったじゃない。あっ」

 レラ様ね、とベッドの上の毛布を指さした。


「あれは、フェリシア様が帰られた後にメイドのメイベルさんが」

「さすがレラ様ね。後れを取ったかあ」

 なんて言いつつ、大荷物をくるんでいた布をほどくと、中からはレラがくれた毛布と同じような暖かそうな毛布が出てきた。


「よかったらこれも使って」

「いいんですか?」

「森の中だと夜は冷えるでしょ。あと」

 と鍋に皿、カップにパンにワイン、タオルにガウン、果てはおいしそうなお菓子まで出てきた。


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