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ミランダ・ヴェルミリオの最高傑作ー6(最終話・完結)

 小説は出来上がった。


 そして、発表と同時に誰もが見れる演劇として、舞台にかけられた。

 貴族も行く大きな演劇場でも、町で見れる演劇場でも。


 今日、私も大きなお腹を抱えて、主人と一緒にロヒバズ・ルンタリオ劇場にやってきていた。

 見ている観客の楽しそうな笑い声や歓声があがる。見終わり、席を立ちあがり拍手をする人、人、人。

 大きな拍手の渦で会場が埋め尽くされる。

 私は今までにないぐらい感動していた。自分の書いたものが舞台になり、それをこんなに多くの人が喜んでいるなんて。


「ミランダ」

 せっかく人が感動の渦にくるくると回って浸っているというのに、心配げな声をかけてくる我が夫。

「何ですの?」


「これは、その、大丈夫かな」

「は? 何がです?」

「何がって、お前。この内容は」

 王の宰相でもある夫、ヴェルミリオ侯爵は目をあちこちに動かして忙しそうだ。


「あら、だって、ミーガンさんとの話を書いてくれと言ったのは王太子様ですのよ」

 そう返事をしたと同時に、ボックス席に変装した王太子様がずかずかと入ってきた。後ろからはミーガンさんが困った顔してついてきている。


「お二人で見にいらしてたんですね。お忍びで」

「夫人。これは、どういう」

「あら、どういうって、お聞きしたお話から脚色をして書きあげた作品ですわ」

「だが」

 声を潜めた王太子様は、

「魔法の存在は秘密だと申したはず」

「ええ、わかってます」


 私は王太子からミーガンさんとの出会いから結婚に至るまでの話を小説にしてほしいと頼まれていた。


 ミーガンさんはもともとは貴族とはいえ、婚約破棄をされたことは真実だ。今は無しになったものの刑罰も受けていたという話をこっそりと聞いた。なくなったとはいえ、調べる人が調べたらわかってしまうだろう。

 王太子妃の条件としては色々と問題がある。

 貴族の中にも不満を持つものが出てくるだろうし、そこを突かれるのは。


「自分に対してはいいのだが、ミーガンが矢面に立つことは防ぎたい」

 と仰った王太子は、

「ここは庶民を味方につけようと思う」

 と言い出した。それには、いまやロマンス小説の人気作家である私に、二人のなれそめを情緒とロマンあふれる小説にしてほしいと依頼があったというわけ。


 行方不明だった王太子を助けたのが森に住む女性だと言うことは貴族間でも知られることとなったが、どういうことがあったのかは、私もうっすらとした噂でしか知らなかった。


 森で怪我をして記憶喪失になった王太子をミーガンさんが助けた。献身的な介護とハーブの力で記憶も戻った、と言う話。


 だけど、小説を書くためにもと、取材を始めた私は、何だか、みんなの言い分がいまいちというか、納得できないものが多くて悩んでいた。

 こんなんじゃ、ロマンチックなお話なんて書けそうにない、と途中で筆は停まったままだったのだ。


 そんなときだった。

 レラとフェリシアのお祝いパーティを開催することになり、とんでもない事件勃発。剣で向かってきた伯爵家の息子を、魔法の力でウサギに変えた。

 あのクララさんとマルガリータさんが。


 信じられなかったが、目の前で見てしまった身としては信じるしかない。書き手としては、こんなにロマンチックなことはないでしょう?


「というわけで、お話に加えさせてもらいましたの」

「いやいやいやいや」」と王太子ではなく我が夫様が突っ込んでくる。

「それはダメだろう」

「そうですか?」


「だから、お前、書き上げたらチェックさせなさいと」

「嫌ですわよ、いくら主人とは言え」

 まあまあまあまあ、とミーガンさんが割って入ると、

「大丈夫ですわよ」

 と王太子様に振り返る。

「ほら、見てみればわかります」

「ん?」


 ボックス席から下を覗き込む。

 多くの観客席が並ぶ一階ホール。

 若い女性やご婦人が、頬を上気させ口々に言い合い笑いあっている。


「面白かったわ」「猫が王子様なんてすてき、うちの子もどこかの王子様ならいいのに」「あら、あなたのとこにいるのはアヒルとヤギでしょう?」「魔法があればねえ」「うちのをカエルにするのに」「あらあら」


 ミーガンさんが「ね?」と口角を上げる。王太子様とヴェルミリオ侯爵は顔を見合わせ鼻を鳴らした。

「魔法は伝説のようなものでしょう? いきなり魔法が存在し、こんなおとぎ話のようなことがありましたと言っても信じない人がほとんどですよ」


「その通り」

 にこりとした私は、

「それにかなり大幅に脚色を加えてわからないようにしてますしね」


 登場人物はすべてフィクションであり、お話も私の想像。その代わり、王太子と王太子妃のドラマチックな恋愛物語に仕上げている。

 魔法で猫になった王子様と森に住む元貴族のお姫様のお話。

 まさか、この通りのことがあったとは誰も思わないだろう。だが、王太子と王太子妃が森で出会って恋に落ちたという部分は本当なわけで、そんなロマンチックさが伝われば成功と言うわけだ。


「ありがとうございます、ミランダ様。素敵なお話。私、とても楽しくて感動しちゃいました」

 素直にお礼を言われてこちらが恥ずかしくなってきた。

「いえ、とんでもない。本当のお話の方がもっとロマンチックで、できたらいつか本当の話を書きたいぐらい」


 いきなり王太子と夫が、

「それはやめてください」

 と手を突き出して、吹き出してしまった。

「やだ、書きゃしません、あれ、やだ」


 思わずお腹を押さえると、

「どうしました?」

 ミーガンさんが顔を覗き込んできた。

「ミランダ様、お腹が?」

「そう、みたいです」


 それから、屋敷に運ばれ、数時間後。


 ヴェルミリオ家の跡継ぎは無事にこの世に生まれ出た。


 夫であるアドーリフは、またもやうれし涙で顔をぐちゃぐちゃにさせつつ、

「名前は決めてあるんだ、レオナードと、ファンティーヌ」

「男女とも決めてたんですのね」

「どちらが生まれるかはわからないだろう? まさかふたりとも生まれるとは、ありがとう、ミランダ」


 まさかの双子の男女の誕生。

 物語より、真実の方が想像を超えるものだ。


 私の側には男の子と女の子、二人の天使がすやすやと眠っていた。


 お疲れさまでした。

 ミーガンと他の登場人物たちのお話はこれで終了となります。

 こんなに長くする予定ではなかったんですが、書いているうちに悪乗りしてしまって

 長々とお付き合いいただきありがとうございました。


 また別のお話をあげていきたいなあ、とあれこれ考え中です。

 よかったらまたいらしてください。

 本当にありがとうございました。

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