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ミランダ・ヴェルミリオの最高傑作ー5

「剣!?」


「危ない!」

「逃げて!」


 叫んだのが誰なのか、私は咄嗟にレラとフェリシアを庇うべく走った。


 ミーガンさんもメイベルも焦った顔で二人に駆け寄る。

 デヴィッド様や王太子様が落ちていた木の棒を手に掴み、影に向かい走り出す。


 そして、クララさんとマルガリータさんが、手を前に突き出したのが目の端でわかったが。


 庇うべく、二人の前に立ちふさがった私の前にミーガンさんやメイベルが両手を広げる。

 そこに、何かが、丸い何かが頭上を飛んできて。


 がらんがらんと大きな音を立て、剣が地面に落ちてバウンドしている。

 丸いものは目をつぶった私の腕の中にすっぽりと納まっていた。


「な、なに!?」

 白くて丸くて耳の長いそれは、私を見つめ目を真ん丸にしている。


「うさぎ?」

 ミーガンさんもメイベルもそのウサギを見、ちらりとお互いに目を見合わす。


「ねえ、これ、ウサギ。待って、レラ? フェリシア?」

 振り返ると、二人も微妙な顔してこちらを、ウサギを見下ろしている。


「いったい何なの!」

 私はウサギを抱っこしたまま叫んでいた。


 訳がわからないまま、その日のパーティは、なぜか無事に行われた。

 半分気を失いそうになった私は、レラとフェリシアの家でベッドに寝かされた。


「お腹に無理させたらいけないから」

「大事をとって、ね」

 とウェディングドレス姿の二人になだめられ、ベッドで過ごす私。


 冷静になって考えるに、今さっき起きたことが何だったのか。あの人影はたぶん、あの人だし。レラを狙ったのか、フェリシアを狙ったのか。

 ミーガンさんが気を付けてと言ったのはこういうことだったのか。


 だけど、その人はウサギになった?

 ウサギに?

 まさか、まさか。


 と思っていると、ドアがノックされクララさんが顔を出した。

 手にはお盆に乗ったお茶が。


「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます」

 側に座ったクララさんはお茶を手渡してくれる。


「あの、ウサギ、は」

 私の想像通りなら、ウサギになったのは、レラに求婚してきていたデイモン・エクランド。

「ああ、彼は大丈夫ですよ」

 とクララさんは微笑んだ。


 デイモンはウサギから元の姿に戻されたが、一部の記憶をなくしており、暑さで倒れていたようだと言う言葉に納得したようなしていないような、首をかしげながら帰っていったそうだ。悪い夢を見たと思っているだろう。


 そのあとは、子供たちや、ご近所の人たち、多くの人が顔を出してくれて、二人を祝ってくれた。とてもいいパーティになった。


 クララさんは、ベッドの側の椅子に座ると、

「もう気づかれていますよね?」

 と言ってきた。


 人をウサギに変えれることなんて。

 誰かが魔法をかけたから?


 その魔法は、目の前にいる、クララさんと。

「マルガリータと私、魔法使いの生き残りなんです」


 そこから聞いたお話は、私が謎に感じていたことをすべて氷解してくれた。


「このことはみんな知っていたんですか」

 クララさんは申し訳なさそうに眉を下げた。

「王室でも一部の人しか知りません。もちろん、お嬢さんやミーガンさんたちは当時者だから」

「はあ、なるほど」

 なんともはや、蚊帳の外とはこういうことか。


「じゃあ、このことは大きな秘密ということですよね」

「そうですね。きっといつかわかるときが来るかもしれませんが。今はまだ魔法の存在は伝説みたいなものですから」


 肩をすくめたクララさんに、私は、

「伝説」

 とつぶやいた。


 が、頭の中では小説の構想がむくむくと湧き上がっていた。



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