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ミランダ・ヴェルミリオの最高傑作ー4

 ふたりのウェディングドレス姿を見たいという私のわがままは、二人の家でパーティをしましょうという形で叶えられることになった。


「こんなに早く叶うなんて」

 ドレスが出来上がり次第、パーティをしましょう、とミーガンさんが音頭を取ってくれたのだ。

「私もおふたりのドレス姿見たかったんです」

 と母親の私よりも嬉しそうだ。

「メイベルさんとデヴィッド様もバロワンご夫妻も来てくださるし、よかったですよね」


 ハームズワース伯やバロワン夫人の親戚だと言うクララさん夫妻も一緒に来ていて、今は台所で忙しそうだ。

 ミーガンさんもメイベルと一緒にクララさんの指揮のもと、お料理をがんばっていた。私はというと、花嫁の母ということで、夫とバロワン夫妻とともにじっとしているように言われたが、落ち着かな過ぎてバロワン夫人とお花で部屋を飾り付けていた。


「マルガレータ様」

「はい、何でしょう」

 伯爵の位はなくなったと聞いていた。何があったかは教えてはもらえなかったが、王太子が戻った時期と同じころに伯爵の地位がなくなり、ヘンカリー地方へと移ったことは何かしらあったのでは、と噂にはなっていた。


「ミーガンさんとはお親しいんですの?」

「え? あ、ええ、まあ」

「フェリシアさんとうちのレラと3人で仲がいいですものね」

「そ、そうです」

 ぎくしゃくとバラの花を花瓶に活けなおす。

 そこにクララさんというおばあさんが顔を出す。


「まあ、きれいだこと。そろそろ外にまいりましょうか」

 ほっとしたようにマルガリータさんがクララさんに寄っていく。

 まずはお庭で子供たちや皆さんを招待してパーティをし、中では家族で祝おうということになっていた。


 クララさんとほとんど話ができてないのよね。

 聞いた話だと、ミーガンさんは森に住むようになった時からクララさんと親しいらしいし。


「クララさん」

「はい?」

「ミーガンさんが森に住むようになってからずっとお親しいと聞いたんですが」

「ええ、そうですね。森の家に住むようになって、村の者とも親しいですよ」


 私は唇を少しなめると、

「あの猫はクララさんのとこですか?」

「猫?」

 クララさんは、ふとこちらを見つめると、

「猫がどうしました?」


「黒い猫と茶色い猫がミーガンさんのとこにいたとか。今は黒白の猫を飼っていらっしゃるらしいんですけど。森にいたときに通い猫がいたとか。今はどこにいるのかしらって思って」

 口の端を上げたクララさんは、

「あなたも猫がお好きなのねえ」

「え?! ああ、そう、そうです」


「大丈夫ですよ。黒い子も茶色い子も今は幸せに暮らしてますから」

 幸せに、ってことはどこかで飼われてるのか。

「そうなんですね。よかった。ミーガンさんもほっとしましわね」

「ええ」

 にこりとした笑みを交わしあう。横でマルガレータさんがえもいわれぬ表情で見ていた。


 うん、どうも、クララさんは侮れないと言うか、年齢的にも人生経験的にも負けている気がする。


 屋敷の庭には大きなテーブルや椅子が置いてある。もともと子供たちが勉強したり、習い事をしたり、ご飯を食べたりと、何でもできるようにかなり大きい低めなテーブルを大工さんに頼んだと、聞いていた。

 そこにサンドイッチや果物、ケーキやクッキーが並んでいる。


 今も、メイベルやミーガンさんが大きな鉢に入った飲み物を運んできた。デヴィッド様や王太子様が更に椅子を運んできていた。


「じゃあ、お嬢様方を呼んできましょう」

 と、クララさんが言い、マルガリータさんが、

「主人とハームズワース伯を呼んでまいります」

 ドアを開け、バロワン様呼ぶ。


 なんだかドキドキするわ、と胸に手をやって深呼吸をしていると、屋敷の裏手からウェディングドレスに身を包んだ二人が手をつないで現れた。


「レラ」

「フェリシア、きれいよ」

 思わず泣きそうになる私の横で夫のアドーリフは涙でぐしゃぐしゃだし、マルガリータさんもバロワン様も目頭を押さえている。

 

 ミーガンさんもメイベルも、みんなが感極まっていたその時。

 何か、嫌な空気を感じた。


 誰かがこちらを見ている。


 まだ子供たちを招待した時間ではないはずだが、もう来たのだろうか。

 でもそんなかわいらしい視線ではないような。


 振り返り、視線を上げると、屋敷から教会へと向かう野原になった道に人影が。

 と思った瞬間、その影がこちらに向かって走ってきた。


 その手には何か長い、あれは。

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