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ミランダ・ヴェルミリオの最高傑作ー3

「ヴェルミリオ伯爵夫人、よくいらしてくださいましたわ」

「いきなりごめんなさいね」


 城下町は他の町に比べて商店が多く集まっている。アクセサリー類のお店や帽子の店、スザンヌ夫人のドレスの店が並ぶ。

 こじんまりとしているが、飾られた一点物のドレスは行きかう人の視線を奪うほどだ。


「それで、今日はお嬢様方のドレスですか?」

「そうなんですけど、全員のウェディングドレスを考えててね」

 何も聞いていなかったというか、話してなかったレラとフェリシアが目を見開く。

「お母さま!?」

「どういう?」

 ミーガンさんは苦笑して見ているが、飾られたドレスに気づき「素敵」とつぶやいている。


 スザンヌ夫人は、3人を上から下まで見つめると、

「これはやりがいがありますわ」

 と手を叩く。


「フェリシア様には大き目なパコダスリーブで首元はゆるく大き目なV首にしましょう。レラ様はアンブレラスリーブ。首には同じ素材の幅広のチョーカーがいいわ。黒髪を流したままがいいかしら、とてもお綺麗ですもの」

 もちろん、プリンセスラインでね、と言った夫人は、ミーガンさんに目を移す。


「あの、こちらのお嬢様は」

 ミーガンさんが自己紹介するが、まさか王太子妃になる人だとはわからない様子だ。

 ここに来るとき、言わないでくれと言われていたので、私もレラたちのご友人だと紹介する。


 夫人は「あなたには、こういった感じがいいと思いますのよ」と楽しそうにスケッチを見せてきた。

 そこには、首から肩にかけては総レース。ドレスはプリンセスラインだが、胸元から下は真っ白で飾りや模様はなにもない。それが逆に清々しいほどの純潔さを表現しているようで、全員でため息が漏れる。

 素性は言っていないのに、さすがというか、これなら王室からの文句は出ないだろう。


 お願いしますと店を出た。

「メイベルにもいいものができそうですわね」

 とレラが言い、フェリシアが、

「ロザリン様も考えてくださったんでしょう?」

「相談を受けたんですけど、ミランダ様がこちらに誘ってくださったことを伝えたんです」

 ミーガンさんが説明する。


 メイベルはハームズワース伯のところにいる。まだ結婚式は挙げていないが、式だけするにしてもドレスはいるだろうし、私からも用意してあげたかったのだ。

 義理の母になるロザリン夫人から連絡を受けて、私も一緒に考えたというわけ。

 まあ、こんな感じと言うだけで、あとは裁縫師のスザンヌ夫人にお任せしたのだが。


「できあがるのが楽しみねえ」

 さて、馬車で帰るか、その前に、

「お茶でもして帰りましょうか」

 近くのお店に立ち寄ろうとしたとき、

「ヴェルミリオ侯爵夫人」

 と声をかけられた。

 見ると、派手な赤い上着に大きなジャボ、金の刺繍が派手さを強調している若い男性が近寄ってきた。


「あなた、デイモン、さん? エクランド伯爵の」

「ええ、お久しぶりです。レラ様も」

 とレラを見つめ微笑んだ。

 レラはとみると微妙な顔でにこりとして返している。


「お茶を飲みに出ていらしたんですか」

 と店の方を手で指し示す。

「ああ、いえ、あちらでドレスをね」

 と返す私に、デイモンはちらりと店に目をやり「あ」と口を丸くする。

「まさか、ご結婚、ですか」


 ちらちらと顔を見合わせた私たち。

「まあ、そんなとこかしらね、ねえ」

「はい」

 とミーガンさんが代わりに返事をし、デイモンは初めてミーガンに気づいたのか、

「あ、この方が?」

 こくりとうなづいたミーガンさんに、デイモンは「ああ、ああ、そうですか」と破願した。


「ミランダ様、そろそろ帰らないと」

 いきなりミーガンさんがこちらを向き、

「え?」

「そうですわ。執事さんが、お約束があるからと仰ってましたよ」

 フェリシアも急かすように言う。

「え?」


「ほら、馬車を待たせてますから。参りましょう」

 と有無を言わせない様子のミーガンさんが、

「それでは」

 とデイモンに頭を下げ、4人でばたばたと馬車に向かった。


「ねえ、執事がそんなこと言ってました?」

 馬車の中で言う私に、フェリシアが、

「言ってませんけど」

 とミーガンさんに目をやる。レラもミーガンさんに、

「ありがとうございます。何で分かったんです?」

 と聞いている。


「え?」

 と私はきょろきょろするばかり。

 レラは私を見やると、

「デイモン・エクランド様、かなりしつこく求婚してきたじゃありませんか」

 と渋い顔をする。


 レラが王太子妃にならないと言い出した途端、あちらこちらから求婚する声が上がった。

 最初、どなたか良さそうな相手をと、父親であるアドーリフは考えていたようで、何人か顔合わせさせたこともあった。そのうちのひとりが先ほどのデイモンだ。

 そういえば、お断りしてからも連日お花やお菓子を送ってきていたひとりだ。


「やっぱり」

 とミーガンさんとフェリシアがうなづいている。

「レラが私のドレスを掴んできたから、おかしいって思ったんです」

 とフェリシア。ミーガンさんは、

「レラ様を見る目つきが嫌だなあって感じがしたから。なんかねちっこいというか、しつこそうというか」

 ぷっと吹き出したレラとフェリシア。


「失礼ですよ」

 と2人を叱ったものの、ミーガンさんは真面目な顔をすると、

「ああいうタイプの方とはなるべく関わり合いを持たない方がいいですよ」

 と言われてしまったが。


 まさか、そんなに大変なことだとはその時は思っていなかった。


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