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ミーガンの結婚行進曲ー21

「今までの話だと、本当のミーガンもそっちの世界で好きな人ができて幸せになっている。ドリアーヌはこっちの世界の好きな人のとこに戻ってくることができた。英莉さんだったか? 彼女も向こうにお相手がいるんだろう? 話からするに、お相手は英莉さんを強く想っているようだし。そして、俺は君が思う以上に好きだ」

「うん、う?!」

 さらっと言われて焦ってしまう。


「君もそうだろう? それとも向こうの世界の元婚約者に会いたい?」

 ぶんぶんと首を横に振った。

 にこっとしたディーンは、

「もし仮に戻ってしまうようなことがあったら、俺は君の後を追う。なんとしてでも君とともに過ごす道を探すよ」

「ディーン」


「ありがたいことに、この世界には魔法が存在したんだよ、知ってるだろ」

 そうだった。その魔法でディーンは猫になり、元にも戻ることができた。

「魔法は今では継承されていないが、生き残りであるお二人の魔女から魔法のことを詳しく聞いて本にまとめつつある」

 その仕事はデヴィッドが担っていると聞いた。


「デヴィッドは人を増やして魔法の研究を続けると言っているんだ」

「そうなのね」

「ああ、つまり、君がいた世界にはなかった魔法の存在。もし君が戻ってしまったら、またこちらに戻れるような魔法や方法をなんとしても掴んで見せるよ」

 君に誓う、と騎士のように腕を胸の前に持っていく。

「ありがとう……」

 きっとディーンなら何とかしてくれるんじゃないだろうか。そんな気がするし、信じていようと思える。


 ふふっと微笑んだディーンは、

「さて、これでひとつは大丈夫になったかな」

 というと、

「もうひとつあるだろ」

 何でもお見通しみたいだ。


「はい、でもこれは私の覚悟の問題だから」

 やっぱりな、とつぶやいたディーンは、

「王太子妃になる覚悟、だろ」

 と言う。


 まさにそうです。と言うしかない。

 ディーンは、大きく黒い影になっているお城に目をやりつつ、

「どうも俺は外堀から埋めていくようなとこがあるんだよな」

 といきなり言い出した。


「外堀?」

「君が結婚しか道がないと思えるようにってことだよ」

 ああ、そうか。罪の解消や貴族身分の返上、王太子妃に慣れない状況は消されていった。


「ごめんね、ディーン」

「ん?」

「私、元に戻ってしまうのも怖いし、王太子妃になるのも怖いんだと思う」

 何といえばいいかよくわからないがこれが正直な気持ちだ。


「なんというか、レラもフェリシアも応援してくれるし、頼めば助けてもくれる。ロザリン夫人も助けてくれるって言ってくださるし、もちろんディーンが側にいる」

「うん」

「だけど、何というか、やっぱり怖いのよ」


「怖いか……失敗するかもとか自信がないとか?」

「そうよ、そう。失敗はするは。絶対。王太子妃なんて、ゆくゆくは王妃になるかもしれないって思ったら。覚悟も自身もないのよ」

 ディーンは「言い切るね」とふふっと笑った。

「だって、私、ユルゲンたちに罵詈雑言言って刑罰受けちゃって。そんな失敗するかもよ。それは王太子妃として問題でしょ?」

「あー」

 と上を向いたディーンは「だけどさ」と自分の手を見つめる。


「その失敗っていうのかな。その刑罰のおかげで、君は森に行き、俺と会った」

「それはそうだけど」

「もし森に君が来なかったら? 俺が君と会わなかったら? 俺はまだ猫のままかも」

「そんなことは」

 にこっとした笑みをこちらに向けたディーンは、

「わからない、だろ」

 こくりとうなづいて返した。


「そんなもんじゃないかな。たとえ失敗だと思っても、それがいい方向にいくこともある。失敗から学ぶこともある。生きてれば失敗なんて山のようにあるんだから」

「そうだけど……」

「王太子妃っていう立場が重いのはわかるよ。俺も王太子で後々は王になれと言われてきた。けど、怖いと感じないことなんてないんだ」

 いつも自信満々に見えるのに。ディーンは手のひらを空に向け、指の間から瞬く星を見ている。


「世の中には優秀な人間は山のようにいる。だけど、王太子と言う立場の俺を周りの人間は持ち上げる。近くに俺より優秀な人間がいてもだ。そんなの変だろう? 俺はだから、いつも失敗しないように誰もが立場に関係なく認めてくれるように頑張ってきたんだ。誰も文句が言えないように」

 手を降ろし、下を向いたディーンは「それでもさ」とつぶやくように言う。

「俺だって失敗はする。言わなきゃよかったってことを言ってしまって後悔することもある」

 それはそうだろう。人間なんだもの、と思ってハッとする。

 私は努力もしないで端からあきらめてるってこと?


「ディーン、私」

 にこりとしたディーンはうなづき、私の手をとると、顔をじっと見つめる。

「俺と2人で生きてほしい」

 真剣な表情から目が離せない。


「ミーガンが失敗しそうになったら俺が助けるし、俺が失敗しそうになったら援護してほしい。俺の側にいてほしいんだ、これからずっと」

 ディーンの目がまるで夜空の星のように澄んでいて綺麗だな、なんて思ってしまう。

「ミーガン・ボナート、俺と結婚してください」


 真剣な表情はいつになく緊張してる。なんだかとても愛おしくって、私は小さくうなづいた。

「ありがとう、ディーン。私でよければ」

 そっと肩を引き寄せられ、優しく抱きしめられた。

「ありがとう、ミーガン」

 抱きしめられたまま、ディーンは私の髪をなでた。


 何だか恥ずかしくて顔を上げられない。

 だが、ディーンは「そのかわり」と言い出した。


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