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ミーガンの結婚行進曲ー20

 お城に戻ってから、小さな家で過ごしていた私。

 夜になり、そっと家を出た。

 小さな星が瞬く空は今にも降ってきそうだ。


 小さな家のまわりには背の高い木、バラの垣根と一緒に小さな青い花をつけた草が生い茂っている。その間を歩いていくと、背の高い木のひとつから「ミャー」と声が降ってきた。

「ごましお?」

 木を見上げるが、どこにいるかはよくわからない。ただ、声からこの木かな? というのはわかるけど。


「ごましお、降りれないの?」

 登れないかと木の周りをぐるりと回った。

「はしごだ」

 木にかかる梯子。

 ふと、ディーンが木に登って星を見たという話を思い出す。

 さすがに小さな頃だから梯子を設置してもらったのかも。


「ちょっと待っててよ」

 梯子を使い木に登る。

「うわあ、いい感じ」

 太い枝に腰を降ろすと、ごましおが枝を伝ってやってきた。

「ほら」

 ごましおを抱っこして、

「私、どうしたらいいんだろう」

 ぼんやりと空をながめていた。


「ミーガン」

 いきなり声がして驚いたが、ディーンがこちらを見上げていた。

「ディーン? どうしたの?」


「家出したかと思った」

 笑いつつ木を登ったディーンは私の横に座る。

「ごましおも一緒?」

「うん、散歩してたら声がして」

「そうか」と答えたディーンは大きな手でごましおをなでる。

 ふたりして黙ったまま星空を眺めてた。


「ミーガン」

「……?」

 整った横顔が城の大きな影を見つめている。


「ミーガン、また悩んでるんだろう?」

「……」

「どれのこと?」

「どれって」

「もう罪人じゃないだろう? 貴族の身分も戻っただろう?」


 そうなんだけど。

 黙ってる私に、ディーンは、

「俺に言うことがあるんでしょう?」

 まっすぐ見つめられ、口をぱくつかせてしまう。


「あの、私」

 息を吸い込んだ私は、

「私がもし私じゃなくなったらどうする?」

「ん?」

「だから、今の私じゃなくて、中身が別の、いや本当のミーガンに戻ったら」


 少しばかり首を傾げたディーンは、

「つまり、ドリアーヌ嬢みたいになるってこと?」

 びっくりして目を見開いてしまう。

「そ、そういうことなんだけど。もしかして全部わかってる?」


 これまで、罪人じゃなくなったのも、貴族の身分や家を取り戻してくれたのも、すべて知らないうちに動いてくれていたからだ。

 もしかして、何もかもわかってるんじゃないだろうか。

 まさか、と思いつつもあいかわらず端正な顔を覗き込むように見つめてしまう。


「わかってるわけはない。が」

「が?」

「どこから来たんだろうと思ってた」

「どうして? 私、何か話したっけ?」


 勢い込みすぎなのか、顔が近い私に、ディーンはにこりとすると、

「キスする?」

「うわっ! 違うから」

 焦って顔を遠ざける。


 クスクス笑ったディーンは、

「俺、猫だっただろ」

 とごましおの頭をなでた。

「君は、俺が猫だからだろう、色んなことを話してくれたよ」


「そうだったっけ?」

「ああ」

 とうなづいたディーンは、

「たぶん、ほとんどが独り言みたいなもんさ。こっちは猫なんだから。でもその話の節々から、婚約破棄されたこと、元は貴族だったらしいこと。貧しかった父親、貴族の母親。刑罰を受けて森に来たことも」

「そんな前から知ってたの……」


 あんなに悩んでいたのに。

 待って、ということは。

「それから」

 と言ったディーンは、上を向いて何かを思い出すような顔をした。


「妙なことをよく言っていたな」

「そ、そう?」

「そうだな、ゲームとかいうものや、まんががどうのこうの。小説というのはわかるが、悪役令嬢がどうのこうの言っていたな」


 あのときだ。

 私が魔女で、レラが悪役令嬢で、罰せられるバッドエンドを回避させるべく悩んでいた時だ。


「悪役の令嬢って言うのは何だって思ったよ」

「でしょうねえ」

「それに」

「まだあるの?」


 肩をすくめたディーンは私の顔に指を突き付けると、

「ハーブだよ」

 と一言。


「植物のハーブの知識の多さは元が貴族令嬢だとするとどこで学んだんだ、とも思っていた」

 確かにおかしいと思うわよね。

 私は「あのね」とディーンの顔を見つめた。

「これは信じてもらえないかもしれないし、私の頭が変だと思ったら、私のことはもう放っておいてほしいの」


 ディーンは黙ってこちらを見ている。

 まさか自分のいる世界がお話の中だなんて知ったらショックなんじゃないだろうか。

 それより前に私の頭がおかしいと思われるのが関の山だろうけど。

 だけど、もしどこかで私と本当のミーガンの中身が元に戻ったら。

 その時、どうなってしまうのか。

 考えただけでも怖い。


「その時が来るか来ないかわからない、わからないけど」

「ミーガン、泣かなくていいよ」

 気付かないうちに泣いてしまっていたようだ。泣きながら訴える女なんて、異常だと思われても仕方ないが、ディーンは私の背中をやさしくさすってくれる。


「だいたいわかったよ。信じがたいことではあるけど、君の今までの言動や行動を考えると嘘ではないんだろう」

「信じてくれるの?」

 べそべそ言ってしまう私に、ディーンはうなづくと、

「きっと大丈夫だと思うけどね」

「どうして?」


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