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ミーガンの結婚行進曲ー18

 翌日、見慣れたお家にお邪魔した。


「ミーガン! 来てくれてありがとう」

 いまだベッドにいるドリアーヌが涙目で手を握ってきた。


「大丈夫なの?」

 起き上がってショールを羽織ったドリアーヌは、

「もう全然いいの。お父様が心配するもんだから、ベッドで過ごしているのよ」

 ドリアーヌも父親、エドゥ伯爵は子煩悩というか過ぎるというか。ドリアーヌがお嬢様中のお嬢様で天然気味なのも納得できる。


 メイドがお茶を運んできて、部屋を出ていくと、ドリアーヌはまた謝ってきた。

「それはもういいのよ」

「でも、私、ひどいことして」

「しょうがないわ、あなた、ユルゲンが好きだったんでしょう? 気づかなくてごめんね」

 頬を赤くすると、ううんと首を横に振る。


「あなたと婚約したのに。あなたが貴族じゃなくなったって父が聞いて、ユルゲンのお母さまに話を持って行ったの。私、ユルゲンと一緒になれるなんて思ってなかったから嬉しくて」

 なんとも正直な子。

 ユルゲンにしろ、ドリアーヌにしろ、嫌な奴だとばかり思っていたが。


「もういいのよ。気にしなくても。幸せになることだけ考えて……あれ、そういえば、結婚はしてなかったの?」

 ユルゲンに婚約解消されてから町追放になり色々とあったが、その間にふたりは結婚していなかった。

 だって、中身が英莉ちゃんのドリアーヌが婚約は解消したと言っていた。ということは、いまだに婚約中だったってことだ。


 途端、暗い表情になったドリアーヌは、

「それも私が悪いの」

 といきなりめそめそと泣き出した。

「どういうこと?」


「あなたが、町から追放になって。私、まさかそんなことになるなんて思ってなくて、聞いて驚いたわ。でも結婚の話は進んでいくし、ジュリアやソフィアにミーガンはどうしたのか聞かれたの」

 ジュリアやソフィアは、そうだ、あの二人だ、と頭の中に顔が浮かぶ。

 貴族令嬢の友人だ。

 ミーガンやドリアーヌとともにお嬢様の通う学校で一緒に学び、一緒に買い物に出かけたこともある。他にも友達はいたが、特に仲の良かったふたりだ。


「私、あったことをそのまま言ったの」

「へ? あの時のことを全部話したの?」

「そう」

「包み隠さず?」

 こくりとうなづいたドリアーヌは、

「やっぱりダメだった?」

 ああ、こういう子だったわ。ため息をついた私は、

「ふたりとも怒ったんじゃない?」


「そうみたい。ジュリアのお父様はうちの父の上司にあたるでしょう?」

 そうだった。国の機関である貴族院で法律関係の仕事をしているドリアーヌの父親、ジュリアの父も同じ場にいるが、どうやら地位が上らしい。

「ジュリアのお父さん、すごく厳格な方だったわね」

 ジュリアも父親譲りか曲がったことが大嫌いなタイプで、堅苦しいところもあったが基本いい子だった。


「あ、もしかして、だから?」

 というと、ドリアーヌはうなづき、うつむいたまま自分の手を見つめている。

「お父様、このまま結婚話を進めるのは難しいって。しばらくは花嫁修業中ということにしなさいって」

 さすがに立場がない、そんな状況になったのだろう。


「でもね、婚約中だったのよ。それを私ったら破棄するなんて」

 うつむいたままのドリアーヌは、がっくりと肩を落としてしまい、ベッドにのめりこみそうな勢いだ。

「それなんだけど。あなた、何も覚えていないんでしょう?」


 ばっと顔をあげたドリアーヌは、

「そうなの。でもみんな、私が王太子妃になりたいって走り回っていたって言うの」

 またもや泣きそうなドリアーヌの肩をさすった。


 あの時は中身が別人だったのだ。仕方ないと言っても私以外は通じないだろう。

「たぶん、結婚が先延ばしされるし、精神的に参っていたのよ。だから、本来のドリアーヌではなかったのよ」

「そう、なの?」

「そうよ、ほら、私だって、婚約破棄の時にいつもの私とは違っていたでしょう?」


 あの悪態をついた時のことだ。あれはドリアーヌではなく、転生しちゃった私だったんだが。

 ドリアーヌは口元に手をやると、「ああ、そうだったわ」と叫ぶように言った。


「あの時のあなたはいつものあなたじゃないみたいだったわ」

「でしょう? 経験のないようなことがあると人って気持ちが追いついていかなくなるんですって。私もあのときのことはあまり記憶にないのよ」

 完全に記憶にあるがそれはないことにした。そのうえで、まさかストレスのせいにしようとしているのだが、素直なドリアーヌは、

「ミーガン、頭がいいのねえ」

 と感心しつつ納得したようだ。


「でね、その時のことなんだけど。変な夢を見たって言っていたわよね」

「え?」

 と顔を上げたドリアーヌは、

「そうよ、あの時も話したけど、私、何かにぶつかったか何かで意識を失ったんですって。でもね、けがは大したことないから大丈夫だって。お医者様みたいな人がそう言うの。世話してくれる女の人もいたわ。みんな同じような白いお洋服を着ていたの。お部屋も真っ白で」

 たぶん、病院に入院したのだろう。何かにぶつかったというのは交通事故にあったのか。たいしたことはなかったみたいだが。


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