Episode 1
今となってはかなり昔の話になるが、Pippoと名付けたオパーリングリーンのセキセイインコを飼っていたことがある。
ン年ぶりに小鳥を飼おうと、駅前のペットショップでセキセイインコの雛を迎えたら、病気持ちで差し餌からシードに切り替わらないまま3ヶ月ほどで死んでしまったという傷心の中、仕切り直しで出掛けたペットショップで店主に薦められたのがオパーリングリーンの中雛(巣立ち直前から巣立ち直後くらいの雛)だった。
季節は秋で雛シーズンだったはずだけども、そのときのペットショップの雛ケースにはオパーリングリーン1羽、白青のハルクイン1羽のセキセイインコ2羽しかいなくて、どちらもかなり大柄だと思ったのを覚えている。
この時、2羽とも飼おうかと思ったりもしたのだが、万が一また病気持ちのコだったとしたら、世話が大変だろうなと一羽だけにした記憶もある。
その時にも思ったことだが、ペットショップのオーナーがオパーリングリーンの雛を私に薦めてきたのは、私が「元気なコ、羽の色は何でも良い」てなことを言ったからだと思う。当時の流行からして、ハルクインよりも売れ残る可能性が高いと思っていたんだろうなと……
その時の雛の印象は「厚かましそうなコやな~」。掌に乗せてみたら重みがしっかりとあり、確かに元気そうだった。
ペットショップから連れ帰って最初の差し餌はあまり食べないコも中にはいたりするそうだけれども(私はそういうコにあたったことがないもので……)、その雛はガツガツと元気よく、差し餌のスプーンまで食べる気か?と思うほどの勢いで食べた。
物怖じする感ゼロ。
名前は、その頃人気があった(らしい)サッカー選手の愛称にちなんで、Pippoとつけた。別にその選手のファンだったわけではなく、ピから始まるのが小鳥の名前に良いような気がしただけである。
Pippoは物怖じしないだけでなく、迎えた夜から差し餌して眠気がきたところで休ませようと、ケース(横30cmくらいの昆虫/小動物飼育用のプラケース)にそっと入れてカバーをかけたら、ココから出せ~!と暴れるコだった。そのうち諦めたらしく(睡魔に負けて?)静かになったが。
しかし、翌日、日曜の昼頃(だったと思う)、差し餌後暫くして……突如、吐き始めた!
差し餌で与えた粟が勢いよく口から飛び出すのを飼い主(=私)は目撃。
――まさかこのコも病気持ち?!
若干の疑念が頭をもたげたのはもたげたのだが、僅か3ヶ月で落鳥というのを経験したばかりである。
次の週末には小鳥を診ることで評判のよい動物病院へ健康診断に連れていこうと思っていたのだ。そこは日曜休診。
慌ててネットで日曜も開いている、且つ小鳥も診てくれる病院を探した。
幸い電車を三回乗り換えて一時間ほどで行けるところにそうした動物病院があったので、すぐにPippoをキャリー用の小振りなプラケースに入れて出掛けた。
電車の中でそっと様子を窺うと、Pippoは「あ~気持ちわる~」と、二日酔いにたえているかのように目を瞑りケースの壁面に凭れていた。
そう、辛そうな姿に飼い主はインフルとか発熱とかではなく、二日酔いを連想したのだ。
ちなみに当飼い主は一度しか二日酔いを経験していない。(一度は経験したと言うべき?)
さて、病院に着いて診察室に入ったらば、ガラーンと大きな診察室で、奥のテーブルでは爬虫類(結構大きなトカゲだったと思う)が診察を受けていた。テレビでは見知っていたけども、実際に爬虫類を飼っている人を見たのはそれが初めてだった。
鳥をこんな場所で診るなんて、飛んだらどーすんだ???雛ったって、これくらいになるといつ飛び上がるか分からへんのに……と、病院の設備に不安を感じる中、若い先生がPippoの診察を始めた。
身体検査にそのう検査をやってみて……
「食べ過ぎじゃないですか。どこも悪くないですよ」
あ、やっぱり……
吐いたのを見た直後に抱いた疑念も、辛そうにしている姿に二日酔いを連想したことも正しかったのだ!
つまり、自 業 自 得。
医師「いつから飼ってるんですか?」
私「昨日からです」
医師「えっ?!……良い手乗りになりますよ~(笑顔)」
病院の診察室でも物怖じ度ゼロで医者に何すんねん!みたいに怒って刃向かっていたPippoであった。
食べ過ぎによる気分の悪さがおさまったのか、診察が終わる頃には、はやくも、懲りずに、用心でケースに少し入れていたムキ粟をPippoは食べていた。
振り返ってみれば、Pippoが吐いたのは、そのう一杯に差し餌を食べた上に、練習用にと、プラケースの底に撒いていたふやかしていないムキ粟や殻つきシードも立て続けにばくばく食べたから、なのであった。とてつもなく食いしん坊……
後に飼い主により「懲りない、めげない、気にしない」がキャッチフレーズとなるPippoの、それが最初に本領を発揮したエピソードである。
そうして昼間あれだけ辛そうにしていたのに、夜の差し餌をばくばくガツガツと食べたものだから、飼い主がレフリーストップをかけた。(成鳥用の殻つきシードまで拾い食いしてたからもう必要ないかなと思いつつ、念のためと行った差し餌であった)
更に寝ている様子をそろーっと確認したら、水入れとして入れていた浅い陶器の中で、両足を水に浸けた状態で眠っていた……
翌日、飼い主は慌ててカゴ(止り木)を用意しましたとさ。
そんなこんなで始まった「懲りない、めげない、気にしない」をモットーとするPippoの我が家での生活だが、二週間後にはおもいもかけない試練か待ち受けていたのである。(大げさ)
続く(?)