9:今後、少しずつ。
第二王子殿下にエスコートされ、到着したのは王城のバラ研究園。
ここでは日々バラの交配研究がされているのですが、研究者と王族しか入れない規則です。
入り口で足を止めて殿下の方をちらりと見ましたら、考えていたことが伝わったかのように、しゅんとしたお顔をされてしまいました。
「許可は得ているし、私も王族だが?」
「それは知っていますが…………」
「ならば行こう」
殿下がエスコートしていた手をスルリと離し、指を絡めるように手を繋ぎました。
これは、いわゆる恋人繋ぎではないのでしょうか?
なぜでしょうか、手のひらや指間の汗が急に気になりました。そっと引き抜こうとしますが、ガッチリと握られました。
「ついてきて」
そう言われても、ついていくしか出来ませんが。だって、指がっ!
第二王子殿下と指を絡めながら、無言でバラ園内を歩いていましたら、ところどころ綺麗さっぱり刈り取られているところがありました。
「四季バラの剪定か何かでしょうか?」
「…………そのようなものだ」
ふと、隣で満開になっている赤いバラを見て気付きました。先日殿下からもらっていたバラの花束、それと全く同じ品種。
危うく、犯人はお前か!と言いそうになりました。淑女としては『犯人は貴方ですのね!』くらいにとどめて置かねばならないような気がします。
「ここだ」
連れてこられたのはバラ園の奥にあるガゼボ。
そこには様々な色の四季バラが溢れ返るほどに咲き乱れており、華やかな甘さと瑞々しい青さが入り混じった生花特有の匂いが辺りを包んでいました。
「素敵なところですね」
「ん。母上のお気に入りの場所だ」
すぅっと息を吸い、バラの匂いを堪能します。
太陽が夕陽になりかけている空、様々な鳥たちの囀り、サワサワと草木を揺らす風、どれもが幻想的に感じる場所です。
そんな場所で第二王子殿下が私の正面に立つと、スッと片膝を突きました。
この後に続く展開はなんとなく……というか百パーセント察せます。
「プリスカ――――」
「お断りいたします」
「……まだ何も言っていないだろう?」
苦笑いしてそう言われました。第二王子殿下のこのような表情は珍しくて、ついじっと見つめてしまいます。
「そうですが……」
「プリスカ、今後少しずつこういった二人の時間を設けさせてくれないか(棒読み)」
「なぜ、そこでそうも棒読みになるのですか!」
「っ、いや……緊張して」
耳まで真っ赤にして言い訳する殿下がちょっと可愛くて、仕方ないなぁと思ってしまいました。
「…………仕方ないですね。いいですよ?」
「っ! ん! ありがとう」
殿下は本当にズルい。
こういう時はちゃんと笑顔で言えるんですから。