8:なぜか。
◇◇◇◇◇
図書室に出勤し、貸し出しの対応。
「――――あの! 聞いてます?」
「へ? あ、はい! 貸し出しですね」
「いえ、返却です」
「……申し訳ございません」
返却の受付をして、本は返本用の箱へ。
箱が一杯になるか暇になったら、本棚へ戻しに行くという仕事の流れ。ふと箱を見るといつの間にかパンパンになっていました。
箱を持ち上げ本棚に向かおうとしたのですが、予想外に重たくてヨタヨタとたたらを踏んでしまいました。
「んっもぉ! ぼぉーっとしちゃって! そんなの持てるはずないでしょう? ほら、渡しなさい――――」
「私が持とう」
カーライル様に軽く注意をうけていましたら、カーライル様とは別の聞き慣れた少し低めの声。
その声の方に視線を向けると、燃えるような赤い髪の第二王子殿下が、こちらに腕を差し出していました。
「ほら――――」
「っ! か、カーライル様、行きましょう。これは私たちの仕事ですのでっ!」
「わっ、ちょ、ちょっとちょっと、いきなり引っ張らないでちょうだいよぉ」
返本の箱を持ってくださっていたカーライル様の右腕をがっしりと掴み、引っ張って本棚の方へと向かいました。
なぜこのようなことをしたのか、良くわかりません。が! とにかく、第二王子殿下のそばにいたら、なんだか『危ない』と感じたのです。
「プリスカちゃん……顔、真っ赤よ?」
「っ……気のせいです」
「いや、無茶な」
何時もは上ずったような高めの声のカーライル様が、普通に男性のような声を出しました。いえ、男性なのですが、なんというか……明言は避けましょう。
「昨日までは普通だったわよね? 何かあったの?」
また上ずったような高めの声に戻りました。声帯に悪影響などはないのでしょうか?
「っ、何もございません」
「やだっ、ちょっと! 何かあったのね!? なに何ナニ!?」
「何もありませんでした! カーライル様、早く本を戻しますよ」
「その顔、その反応。ぜぇぇったい何かあったし! 殿下の寂しそうな顔を見なさいよぉ」
何もないと言っているのに、カーライル様がやんややんやと煩いです。『その顔』とか言われましても、いつも通りの普通の顔です。
あと、第二王子殿下の方は……見ません。いまは就業中ですから。
ニヤニヤ、ニタニタしたカーライル様のしつこい質問攻めを掻い潜り、どうにか勤務を終えました。
やっと逃れられると思いながら図書室を出たところで、第二王子殿下が待ち構えており、捉まってしまいました。
「少し、いいか?」
「…………はい」
なぜでしょうか。
いつもなら『忙しいです』や、『終業しました』、『家に帰ります』などとズバッと断れるのに、今日はなぜか言えませんでした。