7:あわよくば。
久しぶりに第二王子殿下と話すのが楽しいと感じていましたら、いつの間にか雨が止んでいました。
外は夜の帳が下りる直前の幻想的な空色。雨は強めの夕立ちだったようです。
「そろそろ、お暇いたしますね」
「ん……あわよくば、と思ったが今回は我慢する」
――――あわよくば? 我慢!?
殿下が何を言いたいのか、いまいち分からずにきょとんとしていましたら、苦笑いした殿下が立ち上がり真横に来られました。
右手を差し伸べられ、立ち上がるためのエスコートなのだと思い左手を伸ばしましたら、なぜか左手首をがっしりと掴まれました。
「へ?」
ぐいっと引っ張り上げられ、立ち上がったものの、バランスを崩し殿下の胸に飛び込む形になりました。
「ほえぇぇ?」
左腕で腰を抱き寄せられ、まるで抱き合っているような状況に。
殿下の胸は、厚くて熱い。そして、なんだか暑い。
ドクンドクンと心臓が破裂するような音が聞こえますが、これはいったいどちらの音なのでしょうか? それとも二人ともから響いている?
どれくらいこうしていたのでしょうか。
熱に浮かされたように、ぼぉっとしたままで、殿下の胸に身体を預けていました。
「――――好きだ」
ぽそり。
とても小さな声で、そう呟かれました。
それから、どうやって屋敷の私室に戻ってきたのか良く思い出せません。
ただ息切れが激しく、とても苦しい思いをしながら馬車に乗ったのは覚えています。
「っ…………なんなの……」
安い芝居小屋の新人男優が初めてやった、棒読み三文芝居のヒーローのような第二王子殿下だったはずなのに。
『――――好きだ』
脳内に何十回目かのリフレイン。
低く抑えた抑揚のない声。なのにどこか甘く締め付けられるような声。
耳元で囁かれた一言は、この日からずっと私の調子を狂わせるようになりました。
✧ ✧ ✧ ✧ ✧
つい。
そう、つい。抱きしめてしまった。
そして、つい。口から思っていたことが漏れ出た。
その瞬間は忘れられない。
顔を真赤にしたプリスカが、ぐいっと私の胸を押し返し、一歩下がった。
私の顔を見ながらはくはくと口を動かし、更に耳やドレスから覗く肩や腕までも真っ赤に染めていった。
何かしらの文句を言われるかと覚悟したのだが、プリスカは予想に反してそのまま走り去ってしまった。
この反応は、脈アリなのか、脈ナシなのか……全くわからない。
明日また、人気のある求婚方法を選んで試してみるかなぁ?
ではまた明日。