6:雨宿りにかこつけて。
恐ろしいほどにピッタリサイズの、いつから用意していたのか謎すぎる『プレゼント』という名のドレスを纏いました。土砂降りで仕事着のデイドレスが濡れたので。
そして、現在は王城の客室にて第二王子殿下とテーブルをはさみ、お茶をいただいています。
王城キッチン謹製のガトーショコラは、滑らかでいて蕩けるような舌触り。頬が落ちそうです。
「んっ、美味しいですね」
「っ――――そんな顔もするのか」
第二王子殿下が、急に手の甲で口を押さえてそっぽを向かれました。
吐きそうになってます? 甘いのが苦手だったのでしょうか? でしたら、何故に一緒にお茶をされていたのか。
そもそも、雨宿りをするだけなのに、何故に忙しい第二王子殿下がずっと一緒にいらっしゃるのでしょうか。
「第二王子で――――」
「――――ルァンメルトォ!」
「……ルァンメルトォ、様」
また『名前で呼べ』のやつですね。ただ、今回はなかなか特殊な愛称だなぁと思いつつお呼びしましたら、第二王子殿下が両手で顔を覆い、勢いよく俯いてテーブルに額をゴンッと打ち付けていました。
「ごめんなさい。『ランメルト』と呼んでください」
「え……えぇ………………あの、ランメルト様」
「っ! ん!」
よくわかりませんが、懇願されましたので、お名前をお呼びしました。すると、殿下が勢いよく起き上がり、額が真っ赤になっているのにも関わらず破顔していました。
痛くないのでしょうか?
「外の様子を見て適当なところで帰りますので、ランメルト様はお仕事に戻られてください」
「……いやだ」
――――い、いやだ!?
今度はプイッと顔を背けられました。
嫌だと言われてしまえば、『はい』としか言えない立場ではありますが。こんなところで油を売っていていいのでしょうか。
「今日の勤務は終わった。プリスカといる」
「そうですか」
「……なぁ、プリスカ」
「はい。何でしょうか」
「私はプリスカに嫌われることをしただろうか――――いやまて、何も答えるな」
第二王子殿下が左手で自身の目を覆い、右手の平を私の方に向けて、制止のポーズを取られたので口を噤みます。
「嫌われることしかしていない、ということに気付いた。そうだった、今日は雨宿りにかこつけて、距離を近づけたかったんだった。舞い上がっていて忘れていた。私の作ったドレスを着たプリスカが尊くて色々と吹っ飛んでいた。とりあえず今日の目標はプリスカに微笑みかけてもらえることだった。ガトーショコラを食べて微笑んでいたが、あれはカウントして良いのだろうか? なあ、プリスカ、あれはカウントして良いと思うか?」
謎の独り言から、急に質問に変わっていました。
意味がわかりません。ほんっとうに、意味が分からなさすぎて、笑いが込み上げてきました。
「ふふっ、あははははっ! それはカウントしたら、駄目ですよ」
「っ! プリスカが笑った!」
今回も微笑みと言うよりも、可笑しくて笑っているのですが、第二王子殿下的にはカウントしていい『笑み』のようです。少年のような笑顔で殿下が喜ばれていました。
今日は殿下の色々な顔を見ているような気がしますが、なんでこんなことになっているんでしたっけね?