5:悪天候のち。
ある朝、室長からステファニー様が戻ってくると伝えられました。
私はとっても嬉しかったんです。これで図書室の外へ行く雑務が減るので。
ステファニー様は、他部署へのお使いには必ずと言っていいほど手を挙げてくださっていましたので。
私は単に図書室内での作業の方が好き。カーライル様は彼の特性上の問題で、あまり他人と関わりたがらない。
図書室には他にも司書や文官がいますが、王族や地位の高い方々のお部屋には怖くて行きたくないと遠回しに言われてしまいます。
「壊れものがいっぱいありますからね」
「そういう意味じゃないわよ」
「へ? では、どういう意味ですか?」
「んー……プリスカちゃんには理解できないかもぉ」
理解できないのなら、今は知らなくていいこと、と思うことにしています。
「では、お疲れ様でした」
カーライル様に終業の挨拶をし、馬場に向かっていました。
ふと空を見ると、どんよりとした重たい雲が地上に近寄ってきています。空が近いというか、空が低いというか。
――――雨が降りそう。
気持ちは晴れやかなのに、空は真っ黒。
もうあとちょっとで降る。そんな匂いがします。
小走りで中庭を抜けて馬場に向かっている最中でした。
「プリスカ――――」
後ろから声をかけられた瞬間、眩く光る空。
空気を切り裂く雷鳴。
そして、『バケツをひっくり返したような』という言葉の意味が理解できるほどの雨。
「――――雨が降りそうだから、その、急いで帰らずに雨宿りをだな?」
「降ってますけどね?」
「……まぁ、そうとも言うな」
「そうとしか、言いませんけどね」
土砂降りの中、馬車を走らせるのは危ないだろうとのことで、王城の客間で雨宿りをするように言われました。
髪も仕事用のデイドレスもびしょ濡れになってしまいましたし、少しだけでもタオルドライをしたいと思い、ありがたくお誘いに乗りました。
「……で、なんですか、このドレスは」
第二王子殿下にエスコートされ、客間に到着しましたら、部屋にドレスが用意されていました。その横には上級侍女が三人も。
侍女は、とびきりの笑顔で構えていました。『さぁ、着替えさせるぞ』と言わんばかりの圧で。
そして、抗うことなく着替えさせられてから、初っ端から思っていたことを殿下に投げかけました。
「…………プレゼントだ」
――――プレゼント。
「いつの間に私のサイズを?」
「侯爵から」
まさかのお父様ですか。
私を裏切っていたとは思いも寄りませんでした。屋敷に帰ったら、問い詰めましょう。泣くまで。