3:貸本と騎士団。
図書室で貸し出しの対応をしていました。
「お願いします」
「はい。お預かりしま――――なにかメモが挟まっていますが?」
騎士様が妙に乙女チックな小説『あなたの胸に飛び込みたい』を借りたいと、差し出してきました。
挟まっていたメモ紙を引き抜くと、そこには『I』だけが書かれていた。
「ええと?」
「差し上げます」
――――いらないんですが?
「はぁ、どうも」
「これ借りたいんですが」
「あ、はい。お預かり…………凄くはみ出してメモが挟まっていますが?」
今度は別の騎士様。本のタイトルは『あなたと永遠に』。はみ出したメモを引き抜くと、今度は『LOVE』と書かれていた。
「これ……」
「差し上げます」
「………………どうも?」
――――いらなさすぎます。
そして次に来た騎士様は『あなたに一生の愛を捧げます』。物凄く粘着質な愛憎劇の小説だった気がします。そしてメモには『YOU』。
――――ほぉん。
「こここここれを借りたい(棒読み)」
貸出台の上に置かれたのは、『愛を紡ぐ詩集』そして、一本の赤いバラ。
「……」
「……」
「…………」
「………………やっぱり、いい」
数十秒、貸出台を挟んで無言で見つめ合っていましたら、第二王子殿下が踵を返して足早に立ち去っていきました。
「「でんかぁぁぁ!」」
棚の陰でこそこそとこちらを観察していた、先程の三人の騎士様が溜め息を吐きながら、第二王子殿下を追いかけて走って行きました。
図書室内で走らないでほしいです。
あと、ちゃんと返しに来てくれるのでしょうか?
来なかったら、騎士団の塔まで乗り込まなければならないのですが、面倒です。
いつもなら、喜々として騎士団の塔まで行ってくださるステファニー様が、先日から長期休暇を取られているので。
「ステファニー様、早く戻ってきてくださらないのでしょうか」
「…………ランメルト殿下しだいじゃがな、ちと酷じゃなかろうか」
「なぜです?」
室長が顎ひげを弄りながら、苦笑いで立ち去ってしまいました。理由を述べてから去ってほしいです。あと、ステファニー様が戻られないのなら、早急に求人を出して欲しいのですが。
ずっと図書室に籠もっているイメージの強い司書は、成り手がとても少なく、ステファニー様はかなりのレアキャラでした。
いないよりマシな程度の仕事量でしたが、本当にいないよりはマシだったのです。
「もぉ、プリスカ様は本当にツンよね、ツン!」
「ツン?」
「知らないの? 最近流行りのツンデレよ。ツンツンしてるかと思ったら急にデレて、心臓を鷲掴みにしてくるってヤーツよ! プリスカ様は、そのツンだけなの!」
ツン、とは、つまり突っ慳貪な様ですね?
私はそんなにツン、なのでしょうか? 普通に対応しているだけなのですが。
同僚である伯爵家御子息のカーライル様が「もぉ、やぁねぇ!」などと言いつつ私の背中をバッシンバッシン叩いてきました。
地味に痛いです。あと、仕事をしてください。
「ハイハーイ。で、そのバラはどうするの?」
「……花に罪はありませんので、部屋に生けます」
「っ、もぉ! ここでデレても意味ないのよぉぉぉぉぉ!」
――――デレ?
私いま、デレましたかね?
デレの判定基準がよくわかりませんでした。
では、明日。