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Radius/ラディウス  作者: 野郎
season 1
3/4

第三話 磁石

何事にも『始まり』と『終わり』が存在する。

生命を授かった俺たちは死を迎える為今日も命を消耗する。

それは避けることのできない事実であり、必然的なものだ。


もしも、俺の人生がまだ『始まり』を迎えてないのならば。

今ならそのままでいたいと強く願ったはずだ。



「日高修一…さんで合ってますよね?」



椅子に腰掛けていると、医者に声をかけられた。 

今から父と母に会うのか。


「…はい。合ってます」

「分かりました。ではこちらに」


部屋を案内され、304号室とかかれた部屋の前まで来た。

この扉を開けてしまえば、消えたと思っていたはずの親と会ってしまえば。

俺は『始まり』を迎えてしまうのではないか? 


…しかし、このタイミングで俺の親が姿を表したのにはきっと意味がある。

どこかで全てが繋がっているんだ、きっと。


震える手強く握りしめ、扉開ける。



「久しぶりだな、修一」




忘れていたはずの、忘れようとしていたはずの父と母の姿が目に映り込む。

父はベットで体を倒し、母は部屋の隅で俺をじっと見つめる。

その顔は全て俺の記憶通りで、何一つ変わったところなど見当たらない。



「大きくなったもんだな、立派だ。」



怒りが沸々と湧き出す。それを抑え込むかのように脳で思考し、口に出そうとするがしかし、思うように口が動かない。



「何も言わなくて良い、修一。こっちへ来い。」



どうして俺を捨てた、どうして姿を消したんだ、お前らは親失格だ。

そう何度も心に唱えるが、父の声は心地よく、俺は言われるがまま足を動かす。



父との距離はもう数センチだった。

心の距離感が縮まったと感じたことは一度もないのに。



「どうしたんだよ、親父」



やっとの思いで出た言葉だった。

深い意味などない。



「よく聞け、修一。俺はもうすぐ死ぬ。」



だからどうした、今更心配して欲しいのか?

俺を捨てて居なくなったくせに。

堪えていたはずの涙が込み上げる。



「なぁ親父!なんなんだよ!どうしていなくなった?どうして俺を捨てていなくなったんだよ!その癖自分がもう死ぬからって俺を呼びつけたのか!?」



近くの机を怒り任せに叩く。

答えが欲しい。真実を知りたいだけなんだ。



「…物事には何事にも意味があるのだ。

私がお前の父であり、お前は私の唯一の子なのだ。」



心電図のフラット音が警報を鳴らす。



「そうだな……私たちは…磁石だ。

切っても切れない関係、いわばお前がN極で私たちがS極だ。」



分からない。何もかもが分からないんだ。

今からの行動と言動に答えなどない気がしてくる。



「速報です。先程T町で男性一名の遺体が発見されました。頭部に酷い損傷が確認されたことと、『S』という文字が現場から発見されたことから、一連の事件は全て同一犯だと警察が発表しています。」

「黙れよ!」


俺は近くにあったテレビのリモコンを手に取り、テレビに投げつける。

醜い轟音と共にテレビにはヒビが入る。


「なぁ…質問に答えてくれよ…!。あんたはもう…死ぬんだろう?」

「大丈夫だ、修一。俺を見ろ。」


俺の頭を掴み親父は俺の目を見た。

ただ、ずっと。

その目は1人の男として、1人の父親としての目だった。



「…その力を解放しろ、全て終わらせるのだ。私たちは失敗したからな…。」

「… 私たちって?」

「…『歴史』だよ。全て繋がってるのだ。だから、終わらせろ。真実だけを見て、この歴史を終わらせるんだ。」



奴の言葉を思い出す。『レギオン』だ。

俺の中で何かが繋がり始める。

しかし、父はその場で酷く咳き込み、吐血した後、その場で唸り始める。

更に警報が鳴り、医者達が駆けつけてきた。


「おい…死んじゃだめだ!なぁ…教えてくれよ!」

「…真実に押しつぶされるな、自分だけを信じろ。そして…受け止めるんだ。運命を。」

「だから!運命ってなんなんだよ!」

「どいてください。」


医者に押され、俺は後退りする。


「おい…!だめだだめだ、まだ逝っちゃだめだ親父!」

「早くLEDを!急いで!」


医者が部屋へと駆け込んでくる。

次第に視界がぼやけていく。

この涙にはどんな意味があるのだろうか。




「だめです!呼吸が戻りません!」


気づけば廊下に出ていた。

静かに扉を閉め、窓に顔が反射してることに気づき、視線を移す。


赤い怪物の顔が視界に飛び込んだ。

…俺の中から出て行けよ。なぁ、消えろよ。

消えろ、消えろ。

その内、扉の奥からただ一つ声が聞こえた。


「…9月14日、午後5時21分、死亡確認しました。」



「うぐあああああああああああああ!」



単純で、男か女の区別すらもつかない怪物のような叫喚を上げ、壁が粉々になる程何度も殴り付ける。

その拳は既に人の様ではなく、血などは無論出ていなかった。


俺は、俺は、俺は怪物なんだ。

簡単に人を殺すことができる怪物だ。

何かに気づいたかのように男は殴るのをやめた。

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