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Radius/ラディウス  作者: 野郎
season 1
2/4

第二話 導き

「ただいま速報が入りました。

午後2時48分男女二名の遺体が発見されました。女性は腹部に複数の切り傷、男性は頭部にひどい損傷を受けている模様です。」



吐き気と震えが止まらない。頭が割れるように痛い。

ここは現実か?夢なのか?

傷一つない腹部が俺を嘲笑うかのようにこっちを見てる気がする。



「警察では現在、近頃の連続殺人事件の容疑者、『S』との関連性を考え、鑑識含め住人の聞き込みを行っています。

また、詳しい情報が入りましたら随時報道いたします。」



あの中年男を俺は殺した。

サンドバックにパンチするよりも簡単に殺した。

何度も、何度も殴り続け、俺に指示するあの声を肯定するかのように頭をぐちゃぐちゃに壊した。


『ラディウス』と名乗るあの声はもう聞こえない。

奴が何の目的で俺を助け、あの男を殺すよう指示したのか。

あぁ、俺はおかしくなってしまったんだ。



ベットの上で寝返りをうつ。

何度も昨日の記憶を辿る。しかし、あの男を殺した後の記憶には靄がかかったように思い出すことができなかった。


その時、扉を激しく叩く音が聞こえた。

警察だ。警察に違いない。

体が震え、息が荒くなる。



「修一?どうして学校を休んだの?大丈夫?」



未沙の声だ。そう分かるとすぐに震えが治った。

待て、今は何時だ?流れるように時計を見ると、針は3時を指していた。

…あれから11時間。

俺はずっとベットにいたらしい。


「寝ているの?ねぇ、大丈夫?」


あぁ、まずい。彼女に返事をしなければ。

唾を飲み込み、声を口から吐き出す。


「あぁ、ごめん。今行くよ」



ベットから立ち上がり、一歩ずつ玄関へと足を運ぶ。

目眩と吐き気は止まないが、もう気にしないことにした。

ドアノブに手をかけ、扉を開ける。



「ああ、よかっ…て大丈夫!?顔色めちゃくちゃ悪いよ?」

「あぁいや、どうってことないよ…ただ少し体調が優れないだけだ。」



嘘は苦手だ。


「そう…良かった。連絡にも返信がなかったし、何かあったんじゃないかと心配してたのよ」


彼女は一息つき俺の目を見る。


「それに…昨日のニュースもあるからもしかしたら…って」

「昨日のニュース?」


思わず聞き返してしまう。

答えは分かりきってる筈なのに。


「えぇ、そうよ。近くで男女2人が殺害された事件のこと。

私は『S』の仕業だと考えてるけどね。…勿論、知ってるよね?」

「あぁ…し、知ってるよ。心配かけてごめん。明日には気分が良くなると思うからさ…俺は大丈夫だよ」



俺の日常が崩れる感覚が再び襲う。

もしも俺が犯人だとバレたら、一人の人生を終わらせた張本人だと気付かれたら。


「はいこれ。今日の授業のプリント。来週の月曜日には学校に来れそうなら良かった!」



どうすればいい。この恐怖からどうすれば逃げれるんだ。

いや、もう逃げることはできないのか。この脳内を蝕む怪物を殺さない限り…。



「ちょっと、本当に大丈夫?ぼーっとしてるけど…」



彼女の声で現実に戻される。

まずい、平然を装わなければ。



「あぁ…ごめん。なんともないよ。ただ朝飲んだ薬の副作用が効いてるのかも。今日はもう寝るよ」

「そう…お大事にね。何かあったらすぐ連絡して。いつでも駆けつけるから。」



とびきりの笑顔を俺に見せる。

あぁ、彼女は優しい。きっと誰にでもだ。

軽い会釈をし、ベットへと戻る。

半ば諦めの気持ちで俺は寝転んだ。

望んでいた非日常がこんなにも居心地の悪いものだなんて知らなかった。


全ては長い夢で、これはその一部。

そんなありもしない話を頭で妄想する。

逃げてしまいたい。

現実逃避をしている自分に嫌気が差しながらも目を瞑った。






「はっ、今度はいい顔をしているではないか」



やはりここに繋がるのか。

『あの』場所だ。

暗闇の中、ただ赤い魂のようなものが浮いている。


お前は誰だ。何が目的だ。

俺の体は一体どうなったんだよ。


「まぁまぁ、そう焦るな。お前が何を言いたいかは分かる。何故かって?簡単だ。俺はお前だからな」


その言葉はもう聞いた。無論意味など分からないが。そもそも意味などあるのだろうか。


「俺は人を殺したい、この世にある生を奪いたいんだ。

だからお前に寄生した。それだけだ。」



不思議とパニックにはならなかった。

昨日の一件のせいだろうか。



「だが…お前にも意思はあるだろう?だからこうすることにしよう。

俺とお前の意思が一致した時、いや、お前が俺の力を求めた時、俺の全ての力を貸そう。」


意思が一致した時?

何を言ってる、笑わせんな。

そんな時など一生来ない。俺が来させない。



「そう睨みつけるな。言っただろう?これは宿命でもあり定めだ。

お前が俺の力を求める時はいずれ来る。

その時は力を貸そう。代わりにお前は俺に体を貸せ。俺たちは二人で一人なんだよ。」




違う。違う。俺とお前は何もかもが違う。

俺は人なんて殺さない。

血なんて見たくない。人を傷つけたくもない。


「もう俺から離れてくれ。二度と姿を表すな。

「その言葉はきっと後悔するぞ。この先お前は俺の力がないときっと困るだろうからな。」



頼む、消えてくれ。

落ち着いていた筈の呼吸は乱れ、足の震えを感じる。

醒めろ。この悪夢から解放してくれ。

早く、早く、早く。








着信音で目が覚める。

非通知だ。

普段なら出るはずのない非通知の電話だが、不思議とスマホに手が伸びる。



「もしもし、どなたで」

「修一、よく聞いて。」



俺を遮る声を聞いた瞬間、全てが分かった。

母の声だ。もう二度と聞くことはないと思っていた声が再びスマホ越しに流れている。


「簡潔にまとめるわ。お父さんが…お父さんが危険な状態なの」



聞きたいことが沢山あった。

それでも、今は導かれるまま母に問う。



「…何処に行けばいい。」

「一番近い病院に来て。304号室よ。受付は顔を見せれば通してくれるはず」

「…分かった」



そう答え電話を切る。

考えなければいけないことだらけだ。

しかし、今は会わなければならない。

男は病院へと走り出した。


本日は二話公開しましたが、基本的には週1.2を予定しております。

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