3-6 もしかして、私?
「お待たせしました、美空奏音さま。隠り世へ、御案内します。」
「はい。よろしくお願いします。」
お気に入りを鞄に詰め込み、奏音は旅立った。
生まれてから死ぬまで、正確には死後も暮らした我が家を離れ、妖怪養成所に入ります。ワクワクと、ドキドキが止まらない!
私、外泊したコトない。キャンプも修学旅行も、校外学習は全て欠席。合宿なんて、生まれて初めて。合格して採用試験に通れば、代官所の女性寮へ。
「映画のセットみたい。見たコト無いけど。」
目を輝かせながら、心の中で大はしゃぎ。
「養成所は、大部屋です。」
今日から大部屋。目指せ、大女優! なんてネ。ふふっ。
隠り世、妖怪養成所。築百年越えの、木造二階建て。合宿所は、お江戸長屋風。男女別棟、守衛付き。
個室は無いけど、鍵付き個人ロッカー有り。話すのは今の日本語だけど、貨幣は金銀銅貨。
金貨は、大判小判。銀貨は、丁銀豆板。銅貨は和同開珎っぽい、銭貨。五十円くらいの大きさで、五円くらいの輝き。
大判一枚、百万円。小判一枚、十万円。丁銀一枚、一万円。豆板銀一つ、千円。銭貨一枚、百円。隠り世の物価は、現世のスイスくらい。って、マジ?
現世日本は貧しいから、物価が安い。経済成長率、低いモンね。
同じ日本なのに、隠り世は絶好調。過労死とかサービス残業とか、ゾンビ企業とかブラック企業とか、全く無い。
代官所の取り締まりが厳しすぎて、真っ白なんだって。違反者は漏れ無く、地獄行き。白洲では有罪率、99.9% って、ソコだけ同じなの?
日本隠り世の統治者は、はじまりの隠神で在らせられる大蛇様。国会議員に当たるのは、古の隠神様。都道府県知事に当たるのは、大妖怪。各奉行も妖怪。
「はぁぁ。覚える事、多すぎて泣く。」
キラキラ女子が、ゲッソリしてる。
「妖怪免許が取れなきゃ、地獄行きでしょ?」
ギャルの目が、虚ろだ。
「お化けには学校も、試験もナイんじゃ無かったの?」
それ、アニソン。
「地獄かぁ。閻魔大王の補佐官、金魚オタクなのかな。」
それ、アニメ。
隠り世って、イイ所だなぁ。誰も私を虐めない。
養成所の授業料、無料。それどころが、お給料が出る。少ないけど貰えるよ。金魚の貯金箱、持ってきて良かった。
・・・・・・三途の川、渡ってナイ。
私、死んだよね。親より先に死んだけど、賽の河原で石積み? しなくてもってアレ、小さい子だけか。
「えっと、ひばりサン?」
・・・・・・。
「違うって。何か、音符っぽい。」
・・・・・・。
「そうそう。音楽の時間に聞いた、ような?」
ひばり、音符、音楽の時間。・・・・・・もしかして、私? あっ、目が合った。
「美空奏音です。」
「そうそう、カノンちゃん。」
運転免許の合宿所も、こんな感じなのかな。年齢バラバラだけど、妖怪免許取得を目指して、頑張ろうね。