3-33 美空奏音と申します!
虐待サバイバー。笑い方を忘れた子。はじめ聞いた時、何ソレと思ったわ。
子どもを折檻する親なんて、珍しくない。愛想が悪い、何を考えているのか分からない、そんな子もね。
美空奏音、享年十六。交通事故に巻き込まれ、即死。
家族に遺体の引き取りを拒否され、冷蔵保存。死んだ事に気付かず、家事を担い続けた。
警察から何度も説得され、やっと火葬されるも放置。気の毒に思った職員により、骨を拾われ骨壺へ。遺骨の引き取りも拒否され、火葬場近くの寺に、引き取られた。
葬儀、未だ出されず。数名の知人や近隣住民、警官など、親族以外の関係者により、供養される。
何なの!って、思ったわ。褒められたくて、認められたくて、ひたすら耐えた。耐えて、耐えて、耐えて、笑えなくなった。なのに『人の役に立ちたい』って。
私には、無理ね。
妖怪になった亡者は、鬼化しやすい。心が爆発したら、制御できない。角と牙が生えて、力を使い果たすまで暴れ続ける。
代官に言われたのよ。『美空奏音を支えられるのは、吉田朔。ただ一人』って。
まぁ、確かに。他の鬼には、難しいでしょうね。
「カノンちゃん。あなたはね、闇を照らす光なの。」
課は違うけど、同じ代官所。部署が変わっても、寮は変わらない。私たちは、ずっと一緒よ。
「うぅぅん、よく寝たぁ。」
ノビィ。
いっぱい泣いて、モリモリ食べて。お風呂に入ってグッスリ寝たら、スッキリした。今日も一日、頑張るぞ!
さてと、支度しますか。何を着ようかな。フフッ、ワクワクする。スーツでオシャレなんて、夢みたい。
あのね。代官所も奉行所も、洋装でも和装でも良いんだよ。お給料が出たら、古着屋さんに行ってみようっと。
写真立てには、笑顔の五人。みんなで撮った、とっておきの一枚。文箱の中には、手紙が二通。すべて、奏音の宝物。
「サクちゃん、おはよう。」
「おはよう、カノンちゃん。」
数か月後。
「はじめまして。代官所送迎課、美空奏音と申します。」
「お迎え?」
「はい。隠り世へ、お連れします。手続きが済み次第、地獄へ。」
「地獄。」
「ご心配なく。死後裁判を、受けるためです。」
「閻魔さまの?」
「はい。亡者の皆さん、地獄行きです。」
ニコッ。
「・・・・・・そう、ですか。」
「転生の可能性も、ございます。」
「そうですか。」
パァァ。
送迎車には、若葉マーク。今日もニコニコ、安全運転。亡者の不安を取り除き、笑顔で送り届けます!
報われナイ努力の方が多い。それでも、奏音は諦めない。
・・・・・・マブシイ!