3-31 彼の有名な
亡者からの取り立ては通常、現世で行われる。隠り世に送られる前に、清算される。
搾り取られるのは現金でも、金目の物でも無い。光だ。
抜かれた光は、現世で破損・破壊された物品や、植物などに吸収される。悪霊化すると現場が荒らされ、足の踏み場もない。それを正し、清め、整える。
「ゼンクレが、透けて見えます。」
「この者は奪いすぎた。生者からも、亡者からも。」
人と他の動物の違いは、欲の深さにある。人は底無し。死んでも意志が残る。私欲、我欲、煩悩。物欲、食欲、性欲、獣欲。願望、希望、悲願、宿願。
もっともっと。ずっとずっと。そうして奪い、貪り、求め続ける。いつまで経っても満たされず、いつまで待っても止まらない。それが、光の正体。
「これだけ搾り取っても、まだ残るとは。」
掌の上に・・・・・・。バランスボール?
「真、恐ろしい。」
アシスタントを務めた青柿、シミジミと語る。
「他にも、ありますよね。」
猫型ロボットのポッケみたいなのに、素早くポンポン、投げ込んでました。体操服入れサイズの、キレイでかわいい袋に。
あの中、四次元空間ですか。そうですよね!
「あら、見てたのね。」
ホホッ。
「朔係長。」
青柿が奏音の目の前で、和モダンな手提げ袋を広げる。すると朔が、ポイッ。吸い込まれるように、光の塊が収納された。・・・・・・スゴイ。
さすが隠り世。もしかして、あの机。引き出しにタイムマシン、格納してます?
「取り立て、完了。」
「お確かめください。」
「ありがとう。」
手提げ袋を受け取ると、袂から包みを出し、青柿に手渡した。包みの中身は、黍団子。
彼の有名な、『袖の下』ですね!
「カノンちゃん?」
ワタワタして、カワイイけど。
「誰にも言いません。」
キリッ。
「お礼だから。賄賂では、ありません。」
「はい。」
いや、違うから。
机の上に包みを置き、青柿が奥へ。大きな段ボールと梱包セットを持って、戻ってきた。小上がりで寛いでいた狛犬。トコッと下りて、お手伝い。
「さて。」
「始めますか。」
当番妖怪。稲山神社の狛犬、白が牢の中へ。猿轡を噛ませ、縛り上げる。その間に分離管理部、青柿。段ボールを組み立て、亡者袋をセット。
二妖で運び出し、ミイラなスケスケをイン。チャックを閉じ、段ボールも閉じ、ガムテープを貼る。仕上げに紐で縛り、記入済み伝票をペタッ。梱包完了! 息ピッタリ。
現世では『犬猿の仲』なんて言うけど、仲良しね。