3-29 脱獄不可能
悪霊化した亡者の場合、正常化するまで清算できない。
半昏手善伎、通称ゼンクレ。それはイロイロ、やらかした。梱包される時には、鼻血も出ないだろう。
更生課清算係が査定し、請求書を作成。サクちゃんの査定は、とっても厳しい。
仕事とはいえ、緊急徴集されたのだ。しっかり上乗せ、じゃない。特別料金が加算されている。それから、清算報告書を作成。
更正課は、亡者身上報告書を作成。生まれてから悪霊化するまで。いつ、どこで、なにを、どうしたか。洗い浚い、書き記す。
特殊作戦隊は、作戦報告書を作成。依頼を受けてから作戦終了まで、冷静に判断し、的確に纏める。
送迎課は急ぎ、悪霊正常化申請書を作成。これが無いと、分離管理部に依頼できない。
何れも書式が決まっているので、サクサク書ける。
悪霊正常化申請書に、必要書類。清算報告書、亡者身上報告書、作戦報告書を添付し、提出。
「だぜぇぇ! ごごがら、だじやがれぇぇぇ。」
ガタガタ、ガタガタ。
悪霊化し、捕縛連行された亡者は、悪霊特別牢に入れられる。牢は特別仕様。看守を務めるのは、当番神使。
隠り世にも神は御坐すが、祝は居ない。清められるのは神、祓えるのは祝。祝の力を持つ妖怪は、とても珍しい。そこで採用されたのが、当番妖怪制度。
悪霊を分離するのは、神社関係妖怪。亡者から悪霊を剥がし、壺に投げ込む。直ぐ蓋をして、隔離。悪霊入りの壺は社に持ち帰り、責任をもって清める。
「煩い。」
稲山神社の狛犬、白。小上がりから一言。
ちゃぶ台の上には、急須と湯呑。座布団に座り、頬杖ついて溜息。ちょっぴり湿った煎餅を齧り、緑茶を啜る。
帰りたいのに、帰れない。仕事しないと、恐ろしいコトに。冗談抜きで、お取り潰し。
神は御隠れ遊ばすか、妖怪化。その前に放たれれば、他の社に転職できる。放たれなければ、住所不定無職。
「コンが、生きていればなぁ。」
浄化判決が下り、速やかに処刑された。
「使わしめを募集しても、応募妖怪なし。」
真っ黒認定、されたからネ。
「狛犬だけじゃ、イロイロ大変なんだよ?」
急須に話しかけ、ズズッ。
「お寛ぎのところ、失礼します。手続き、終了しました。お願いします。」
分離管理部長、利有は元、神使。妖怪の蛇である。
「はい。喜んで!」
神と社のため、白は務めを果たします。
分離書に署名捺印し、悪霊を魂から剥がす。ポイッと壺に入れ、蓋をして隔離。残った魂の正常化を確認し、作業完了。次の方、どうぞ。
「よっじゃー! ガッ。痛っでぇ。」
ゼンクレよ。特別仕様だ、脱獄不可能。諦めろ。
「ごごがら出ぜぇぇ!」
鉄格子を握りしめ、大暴れ。




