3-25 天職なのよ
朔さん。じゃなくて、サクちゃんも元、人間。享年十九って、三つしか変わんないの?
「あれ。」
私も鬼なの? 角は無いけど、そのうち生える?
「なあに。」
「サクちゃん、どうして鬼なの?」
・・・・・・隠で、姿が見えない。それが鬼。鬼も妖怪も、同じ隠。同じだけど、恐れられている。強い力を持っているから。
私が鬼になったのは、隠り世に来る前。夫を守って、刺された。
犯人は、私を売った両親。包丁を両手で握って、『死ねぇ』って叫びながら、二人でズブリ。でヤツら、言ったのよ。『邪魔するな』って。
久しぶりのデートが、最後のデートになるなんてね。あの人、『オレを残して逝くな』って。そんな夫を、刺そうとした。
命は一つしか無い。もう守れない。でも、守りたい。だから願った。『鬼でも悪魔でも、何でもいい。この人を守る力が欲しい』と。
殺して無いわよ。鬼の力で、追っ払ったダケ。
驚いたわぁ。傷口は塞がってるし、力は漲るし、お迎え来ないし。そのまま家に帰ったら、皆びっくり。『姐さん。それ、何ですか』って。
「立派な角ですモンね。」
一瞬、動けなくなりました。
「そうなの!」
思わず、鏡を二度見したわ。『何これ、角?』って。
死んで、鬼に生まれ変わった。もう人じゃ無い。地獄へ行こうにも、黄泉平坂の場所が、サッパリ分からない。
どこへ行けば良いのか、誰を頼れば良いのか、全く分からない。
この体、丈夫でね。傷一つ付けられない。もう、お手上げ。そのうち迎えが来るだろうって、のんびり待つ事にしたわ。
ただ待つのも暇だから、同じように過ごしたの。角は、被り物でね。
三年よ、三年。やっと来たと思ったら、坊やでね。何だかんだで、地獄行き。
死後の裁判を受けるため? 違うの。『地獄へ移住してください』って。『費用はコチラで持ちます』って。
「サクちゃんも、裁判受けてないんだ。」
「えぇ。」
「地獄に、鬼の養成所って。」
「無いわね。」
地獄で生活するために、現世と同じ仕事を選んだわ。天職なのよ、取り立て。
まさに、波瀾万丈の人生。鬼生?
「奉行所では無く、代官所を選んだのは。」
「給料が良かったから。」
警察が嫌だから。とかじゃ、無いんだ。
「あらぁん?」
「えっ、とぉ。」
ポリポリ。
サクちゃんは更生課、清算係の係長です。臨死者が生き返る前に、貸し借りの結末をつける。それが、清算係の仕事。お金じゃ無く、魂から回収!
・・・・・・鬼って、スゴイなぁ。




