3-23 お別れだけど、お別れじゃナイ
公務員試験合格者、全員の配属先が決定した。新任者は九月中に入寮、十月一日から勤務開始。
公務員には転勤が付き物だが、隠り世の公務員の転属は、ハイシーズン以外。三月と九月に辞令が出るコトは、まずナイ。
隠り世は二学期制、新学期は十月。義務教育の学び処も、高等教育機関の学問所も、各種養成所も同じ。
十月は門出の季節。入学や就職、新学期に合わせ、引っ越す。これは仕方ない。企業も倣うため、引っ越し難民が出てしまう。よって公務員だけでもと、相成った。
『引っ越しクマさん』は、選べる三種類。荷が少なければ熊さん便、多ければ熊くま便、引っ越しラクくま便もオススメ。良心的な価格で、丁寧に運びます。
『引っ越しニャンコ』『ぱんだセンター』『ポッケ便』など、競合他社は高級路線。火花バチバチ、負けないゾ。
・・・・・・引っ越し屋さんが、アツイ。
「カノンちゃん、良かったね。おめでとう。」
「私たちは奉行所だけど、連絡してね。」
「恵さん、令子さん。ありがとう。」
隠り世に来てから、二度目の引っ越し。思えば、イロイロあったなぁ。
死んだのに気付かず、学校に通って家事もして。仮免が出て、妖怪養成所へ。初めての寮生活、楽しかったな。
養成所から、新妖怪専用の集合住宅へ。この部屋とも、お別れか。お金の心配する事なく、勉強に集中できたのは、転生した皆さまの御蔭です。
お給料が出たら、私も寄付しよう。いっぱい救うぞ! マリンちゃん、キララちゃん。応援してネ。
恵さんと令子さんは、十月から奉行所員。代官所は一つ。奉行所は町奉行、勘定奉行、寺社奉行の三つ。分課数の多さは、町奉行が断トツ。
恵さんは町奉行所、分析課に配属が決まった。医学・心理学・科学など、専門知識を応用した捜査を行うの。
現世で言えば警視庁、科学捜査研究所。科捜研の女だね。
生前、外資系企業で研究職に就いていた、薬学博士だもん。ピッタリ。『またコレ着て、働くのかぁ』って言ってたけど、白衣姿もカッコイイ!
令子さんは勘定奉行所、調査課に配属が決まった。納税者から提出された申告書などに基づき、申告・納税が適正に行われたか、調査を行うの。
現世で言えば、税務官だね。
生前、銀行に勤めていた、経済学博士だもん。親族が経営する会社に転職して、経理を担当。ドラフト制なら、一位指名だヨ。きっと。
「寂しくなるわね。」
「ずっと一緒だったものね。」
養成所の寮では、みんな同室。ここでは、お隣さん。恵さんは、町奉行所の女性寮。令子さんは、勘定奉行所の女性寮。私は代官所の女性寮に入る。
「お休みの日が合えば、会えます。会いましょう。」
「そうね。その通り。」
「会いましょう。みんなで。」
お別れだけど、お別れじゃナイ。生きていれば、また会える。きっと会える。
新妖怪の荷物は、段ボール一箱くらい。引っ越し屋さんに頼まず、宅配便で送りました。




