3-2 透明人間です
虐待児の自己評価は、驚くほど低い。愛されないから、愛し方を知らない。愛せない。
頭では分かっている。恋は求めるモノ、愛は与えるモノ。どんなに本を読んでも、分かるのはココまで。
私は勉強する。勉強して、大学へ行く。
成績が良ければ、給付型の奨学金が得られる。心が折れそうな程、倍率が高いけど。この頭でも、可能性は有る。
虐められっ子はボッチ。ロクデナシでも、教師は教師。どんな授業でも、得る物は有る。シッカリ受けて、叩き込む。
予習と復習を欠かさないから、問題点や課題が見えてくる。休み時間に、サクッと片付けよう。この学校から、旧帝大を目指すんだ。一秒だって無駄に出来ない。
帰宅したら直ぐ、家政婦を演じる。弟妹が部活を終えて帰宅するのは、十九時前。両親が帰宅するのは、早くて二十時前後。一家の夕食は、二十時半。
家事の合間に勉強する。ヤツらに邪魔されず、集中できる時間は貴重なのだ。
ガチャガチャ、ドサッ。ドンッ、ドタドタ。バンッ。
ある意味、分かりやすい。帰ってきましたよ、猛獣が。
夕食の準備をする。風呂は自動で沸くので、楽だ。洗濯機も、全自動にして欲しい。乾燥機能付きだと、有難いなぁ。
ウチは部屋干し。家族が花粉症に加え、中途半端な潔癖症だから。外干しだと排気ガスや、いろんなモノが付着して気持ち悪い。らしい。
その結果、私の個室が洗濯部屋になった。代わりに宛がわれたのが、物置。
窓、無いんだよねぇ。
「じゃぁ、次の問題。美空奏音。」
ザワザワ、ザワザワ。
「せんせぇぇ。美空さん、死にましたぁ。」
プゥゥ。
「そっか、そうだったな。」
ギャアハハハァ。
・・・・・・葬式ごっこ?
腐ってるとは思ってたケド、ここまでとは。オイ担任、教諭だろう? 正規雇用だろ、注意しろよ。
いくら何でも、やりすぎ。ココ、高校よね。小学生でも解るよ、悪い事だって。
・・・・・・もうね、何て言えば良いのか分からない。不登校になっても、責められないと思う。大学受験に内申書、関係ないし。
定期試験だけ受けて、休もうかな。って、ダメだぁ。出席日数が足りなけりゃ、進級も卒業も出来ない。
そっか。何も考えず、気配を消せば良いんだ。透明人間になったと思えば、楽しいかも。ヨシ、それで行こう。
チリリリリン、チリリリリン。チリリリリン、チリリリリン。
電話、鳴ってますよ。私、透明人間なので。どなたか出てください。フフッ、たっのしぃ。
あれれぇ? 出るんだ、父さん。明日は雨だ。いや雪か。
「はい。美空です。・・・・・・え? 知りませんよ。・・・・・・だから、お任せします。」
ガチャン。