3-11 最高ランク
「今年度の仮免は、優秀ですね。」
隠り世奉行所、町奉行。妖怪免許課主任、ご隠居こと古田貫。陰ではフルダヌキって、呼ばれてマス。
「そうですね。特に若手、素晴らしい。」
同じく、妖怪免許課主任。長老こと、朗甲斐。陰ではロウガイって、呼ばれてマス。
御察しの通り。免許取得がエベレスト級に難しいのは、この二妖の所為。ご隠居も長老も、『後進に道を譲る』という考えは、無いのでしょうか。
人の世も隠り世も、高齢化が進んでいます。
とはいえ隠り世の出生率、なんと右肩上がり。少子化対策大臣なんて居ないけど、少子化対策バッチリです。
日本隠り世の統治神、大蛇神は御考え遊ばす。少子高齢化を止めるには、二つ。労働時間短縮と、所得倍増。これしか無い! と。
時間とお金に余裕が出来れば、趣味やら何やら楽しめる。好いた妖怪と結納を交わし、婚姻を結ぶ。幸せな結婚生活を送れば、家族も増える。
子宝に恵まれない夫婦には、養子縁組を。二妖でラブラブ、暮らすのも良い。決して強制しない。
ただ、特別養子縁組という制度が有る事を、広く認知させる。
独身だろうが妻帯者だろうが、片親だろうが両親だろうが、安心して暮らせる環境も整える。
週二四時間労働、週休三日制。時間外労働に対する割増賃金、五割以上。各種保険への強制加入。非正規の給与は、正規の三割増し。三か月 勤めれば、正規雇用。
充実した健康な生活を図るのは、雇用主の義務である。従業員は勿論、その家族の生活を充実させる。そのために設けられた施設には、補助金を出す。
斯くして。日本隠り世の幸福度は、最高ランク。
移住希望者が殺到し、てんやわんや。とまぁ、そういう理由で難しいのです。妖怪免許の取得は。
「この論文、良く出来ています。」
隠り世町奉行、妖怪免許課の一妖、屋久新。生前、大学で新薬研究をしていた。
「著者は?」
同じく、妖怪免許課の一妖、大倉達人。生前、経理の専門家として大活躍。
「鈴木恵。生前は外資系企業で、研究職に。」
「で、死因は?」
「・・・・・・過労死、です。」
屋久も大倉も、仕事人間でした。屋久は病死。大倉は無念の死を迎え、妖怪化。
「大倉さん。気になる論文、ありましたか?」
「はい。この論文、素晴らしいと思います。」
「著者は?」
「佐藤令子。生前、経理を担当。死因は、あぁ。」
上司の横領を暴き、逆恨みされた。帰宅途中、歩道橋の上から突き落とされ、死亡。犯人は逮捕され、公判中。
「この論文も、ナカナカですよ。」
同じく、妖怪免許課の一妖、江洲波彩人。元、パイロット。頭脳明晰、運動神経抜群。
「著者は?」
尾久、眼鏡をクイッ。
「美空奏音。虐待サバイバー、十六で事故死。」
「優秀だったのでしょうね。」
大倉も、眼鏡をクイッ。
「はい。シッカリ書けています。」




