3-10 一人じゃない
私、結構ギリギリだったからさ。怒りと絶望の中で、我を忘れたんだ。
高速で突っ込んできた車に、撥ね飛ばされた。それでも息してた。痛かったケド、生きてた。
なのにアイツら救急車、呼ばなかったんだ。『どうする』『逃げよう』『バレるって』で結局、『どっかの山奥に、埋めよう』だよ。
生き埋め。撥ねられて痛い。埋められて苦しい。逃げられない。助からない。
イロイロあったけど、バイトして貯金して、独立する。そのために頑張ったのに。学校の勉強も、資格取る勉強も、仕事も・・・・・・。
「キララちゃん? ねぇ、シッカリして。戻ってきて。」
・・・・・・。
「大丈夫だよ。ほら見て。カノンちゃんも恵さんも、令子さんも頑張ってる。」
・・・・・・あぁ、そうだ。
「山田輝さん。こちら、お飲みください。霊水です。」
・・・・・・はぁい。
「ありがとうございます。私、飲ませます。だから、浄化しないで。」
「安心してください。さぁ、急いで飲ませましょう。」
マリンちゃん。先生も、ありがとう。
妖気に飲まれれば、悪霊化する。仮免妖怪は不安定。暴走したら、浄化されるまで止まらない。心を静めて、体を覆うようなイメージで。私は私、他の誰でもない。
妖力を調整しながら生活する、その訓練を受け続けた。息をするように自然に、食事中でも睡眠中でも、決して欠かさない。
「私は一人じゃない。大丈夫。」
ただ、生きてきた。求められるまま家事をして、学校へ通う。虐められても我慢して、耐えて耐えて。家で受ける虐待に比べれば、学校の虐めなんてカワイイもの。
思えば私、おバカよね。逃げれば良かったのに。
日本の教育って、無責任。能力では無く、年齢で区切る。一日も登校しなくても、テストで0点しか取れなくても、義務教育ってダケで卒業させてもらえる。
高校卒業しなくても、高認を取れば良い。そしたら国が、高卒認定してくれる。専門学校も大学も、受験できる。一発逆転できる。それが日本の教育。
「はい、そこまで。」
・・・・・・フゥゥ。全力、出し切ったぁぁ。
仕上げた論文を持って、朝礼台へ。千枚通しで孔を開けて、麻紐を通して括る。バラバラにならないように、シッカリと。力作だからね。
「お願いします。」
受験票の裏にある論文提出欄に、受領印をもらう。肉球スタンプだ。可愛い。
質疑応答は、明日の九時から。お腹すいたぁ。寮に帰って、ご飯を食べよう。
今晩の献立は、何かな? 食堂に行けば、ご飯が出てくる。セルフ式だけど、贅沢だなぁ。料理を作るの、好き。でも、作ってもらった料理を食べるのも、好き。
「カノンちゃん、おかえり。」
「キララちゃん、マリンちゃん。ただいま!」
キャッキャ、ウフフって、こんな感じ?




