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06 フェンちゃんの正体

06 フェンちゃんの正体


 プラチナゴールドの長い髪は輝きながらも透き通り、肌は一点も曇りもない。

 澄んだ青い瞳は、見つめられるだけで静かなる海をたゆたっているような気持ちになる。

 すらりと通った鼻筋に、穏やかな笑みをたたえる唇。


 長身ですらりとした身体、背中からは純白の後光が差し、足運びは川の流れのように淀みがない。

 その身を現すだけで、場の空気を独り占めするほどの、圧倒的な存在感。


 あれほどうるさかったアイシスや聖機卿様すらも二の句を継げずにいる。

 周囲の者たちはきっと、「なぜあなた様がこのような場所に!?」と問いたいに違いない。

 でも誰もが酸素の足りない金魚のような表情で、口をぱくぱくさせるばかり。


 神の降臨というのは、それほどまでに絶対的で、不可侵なるものだった。

 オーディン様はあたりをゆったりと眺めまわすと、わたしのところで視線を止める。


「邪獣を殺すのは、フレイアさん……あなたがなすべき必然です」


 その宣告はわたしにとって、死刑宣告にも等しいものだった。

 でも声音は天上からの音楽のように、心地良くわたしの中に響く。


「邪獣を殺すのです。そうすれば、あなたの罪は赦されるでしょう」


「は、はい……」


 わたしは、見えざる手をさしべられたかのように立ち上がった。

 人形のように立ち尽くすアイシス、その足元に転がっていた聖剣を、わたしは拾いあげる。


 暗闇のなかを、一筋の光を求めるように、フェンちゃんの元へと歩いていく。

 フェンちゃんは暴れていたけど、鎖に繋がれているせいで、わたしには風に揺れるロウソクの炎のようにちいさく見えた。


 わたしはフェンちゃんの前で、ゆっくりと聖剣を振り上げる。


「ごめんね……フェン、ちゃん……。これで……永遠の、お別れ……」


 わたしはロウソクに、ロウソク消しを被せるように、聖剣を振り下ろす。

 弾けて飛び散る鎖の音に、わたしは信心をかなぐり捨てるように叫んだ。


「に……逃げて! フェンちゃん!」


 聖機卿様と、アイシスが同時に我に返る。


「きょうっ!? あ、あの女っ!? 観念したフリをして、邪獣の鎖を切るとはっ!? せっかくオーディン様がお慈悲をくださったのに! やはりあの女は悪魔だっ!」


「ぎゃはっ!? 神の前でも鉄仮面を被ってただなんて……! なんてヤツなのぉ!? 悪魔悪魔悪魔っ! あくまーっ!」


 もう、わたしはどうなってもかまわない。

 フェンちゃんが助かるのなら、たとえ悪魔と呼ばれようと、かわりに斬首されようと。


 わたしは声をかぎりに叫んだ。


「走って、フェンちゃん! 誰の手も届かない、遠くまで! そして、わたしのぶんまで生きて!」


「や~だね」


「えっ」


 フェンちゃんが、しゃべった……?


 空耳かと思った次の瞬間、フェンちゃんの身体は黒炎のようなオーラに包まれていた。

 それは炎の柱となって噴き上がり、聖堂の天井を吹き飛ばして天を焦がす。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 落盤が降り注ぎ、聖機卿様とアイシス、衛兵たちが下敷きになっていく。

 その場で何事もなかったのは、フェンちゃんとわたしとオーディン様のみ。


 炎の向こうに浮かび上がっていたフェンちゃんの影が、人の形をなす。

 オーディン様とは真逆の、漆黒のオーラをまとって現われたのは……。


 悪魔のように美しく、オオカミのようにワイルドな、男の子だった……!


 も……もしかして、フェン……ちゃん……?


 わたしのその言葉は、声にならなかった。

 なぜならばその男の子が、オーディン様と比肩するほどの美しさと、真逆の邪悪さを兼ね備えていたからだ。


 一匹狼のようなプラチナシルバーのウルフカットに、肌は小麦色。

 血に沈んだ宝石のような瞳は、見つめられるだけで刃物で斬りつけられたみたいにゾクッとする。


 人さし指で鼻をこするいかにも生意気な仕草、カボチャのランタンのように不敵に吊り上がった口からは、牙のような八重歯が覗いている。


 長身で筋肉質な身体、背中からは日蝕のような黒い影がさし、足運びは風を切り裂くように唯我独尊。

 その身を現すだけで、なにをしでかすのかとハラハラさせられるほどの、暴力的な存在感。


 いったい何者なのか正体を確かめたくてたまらなかったけど、わたしが声を取り戻すより早く、その男の子は動いていた。


「フレイア、もう俺様に命令できると思うなよ」


 男の子は言うが早いが、疾風のようにわたしを抱き寄せる。

 いきなりのことに、わたしは「ひゃっ!?」とシャックリみたいな悲鳴をあげてしまう。


 びっくりしたけど、おかげで声が出るようになった。


「や、やっぱりあなた、フェンちゃんなの!?」


「なに言ってんだお前。こんなカッコいい男、俺様以外に誰がいんだよ」


「やはりフェンリルさんでしたか」


 こんな時でも穏やかな問いかけは、他ならぬオーディン様。


 でもフェンちゃんって、フェンリルっていう名前だったの?

 わたしは鳴き声から適当にフェンちゃん付けただけなんだけど、まさか愛称を呼んでただなんて……。


 フェンちゃんは「あぁん?」とガラの悪そうな声で、オーディン様を睨み返していた。

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