1話 色のない世界
———いつからだっただろうか。目に映るすべてがたった2色の色に変わったのは。あの人たちがいなくなってからだっけ?それより前からだっけ?気付いたら視界の端から端まで全部白黒に染まっていた。わかるのはただ1つだけ。この移り行くことのない世界が共に在るということだけだ———
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「雅兄さん、本当にそれで行くの?」
「ああ、別におかしいわけじゃないんだろ叶美」
住宅街のとある家の前に話し込む制服姿の男女の姿があった。
男の方は平均より頭半分くらい高めでぼさっとした少し長めの黒髪をしていた。突出はしていないが目鼻立ちはそれなりに良い。
男を兄と呼ぶ女は平均よりちょっと低い身長に肩までの長さの焦げ茶の髪を1つに結んでいる。男とは違い、10人が見れば10人が美少女と言うような容姿をしていた。
「おかしくはないけど、黒髪黒眼だと雅兄さんっぽくなくて違和感がすごいんだよね」
「違和感はもはやしょうがないだろ。中学ん時みたくなんも悪いことしてないのに問題児扱いされるの嫌だしな」
「そうだけどさあ」
兄妹は兄の方の容姿について話し込んでいた。2人は兄妹にしては似ていないが、特段おかしいところはなさそうに見える。しかし妹の方はいたって普通な兄の見た目に強い違和感を感じるらしい。要するに兄の眼と髪は本来黒ではないらしい。
こんな会話をしているのは兄の方が今日高校の入学式だからだ。ちょっとした確認をしていたらしい。
「別にいいじゃないか叶美。家ではいつも通りにするしこんなん着けてくのは学校にだけだって」
「…………ならいいけど」
一応兄妹による兄の見た目問題は収まったようだ。このまま話し合っても時間の浪費でしかないことに妹も気づいたのだろう。兄の言うことに渋々だが頷いた。
「あ、そろそろ行かないと初登校だってのに遅刻したら先生に目付けられるから気を付けないと」
「それもそうだね。私もそろそろ行かなくちゃ。雅兄さん、幸福くんと咲苗ちゃんによろしく言っといてね」
「ああ、もちろんだ。じゃあ行ってくる。昼飯トロたまにするつもりだから寄り道せずに帰って来いよ」
「ホント!ならダッシュで帰ってくるよ!」
妹の方はまだ中学生なので妹の方が学校から帰ってくるのが遅い前提なのは兄が新入生で妹が在校生の立場だからだろう。在校生は入学式の後片付けがあるのでどうしても新入生に比べると帰りが遅くなってしまう。
ちなみに兄が言っていたトロたまとは、妹の好物のトロロかけ釜玉うどんのことだ。とても簡単に作れておいしいことからこういう午前中で学校が終わる日にはよく食べている。
「雅兄さんこそたとえ学校内であっても寄り道せずに帰ってきてよね!」
「わかってるよ」
兄妹は言葉を交わして反対方向に行く。2人の学校は正反対の方向にあるので道中話すということができないため、家の前で話していたのであった。
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「お、来た来た。おーい、こっちこっち!」
「雅樹くんこっちだよ」
大きな声で雅樹を呼んでいるのは小学校高学年からの同級生もとい親友の佐々木幸福。彼は所謂爽やか系イケメンで結構モテる。運動が得意だが勉強もそこそこできるという万能性を備えている。
少し控えめに呼んでいるのは幸福の幼馴染で小学校高学年から一緒の小坂咲苗。女子の平均くらいの高さでショートの髪をしていて活発な印象を受ける。見た目とは裏腹に細やかで面倒見がいい。
2人は昇降口で雅樹を待っていた。
「おはよう、幸福、咲苗」
「おう、おはよう雅樹」
「おはよう雅樹くん」
「雅樹、今年も全員同じクラスだったぞ」
「そうか。俺の周りは賑やかな1年になりそうだな」
雅樹が昇降口の扉に貼ってあるクラス分けを見ると確かに3人とも1-2だった。
3人は小学校のころからよく同じクラスになるからいつも通りぐらいにしか考えていない。だからもし友達作りに失敗しても大丈夫とすら思っている。
そうして雅樹の高校生活は幕を開けた。
かれのめにうつるけしきにあざやかないろは1つとしてなかった。
若山雅樹 7月10日生まれ 蟹座 15歳
趣味 作曲、演奏
好きなもの 音楽、ギター、ハーモニカ
嫌いなもの 実親、しつこい人、暴力的な人
特徴 白髪赤眼 平均よりは高めの身長 少し細い体付き




