始まりは一人称……
なあ……そこの君……
そうだよ……そこの通りすがりの君だよ……
ちょっと、俺の話を聞いていってもらえないかい?
……なあに……時間は取らせないよ……
次の列車が来るまでには終わらせるからさ……
そうさ……そうでなくちゃ……
まあ……話と言っても、何て事はない……
俺の……ちょっとした昔話さ……
普段の俺は……そう……何処にでもいるしがないサラリーマンだった……
朝早く起きては、この駅から列車に乗って、何時もの様に出勤しては、何時もの様にこの駅から帰って来る……
……そんな、特に変わりばえもしない毎日を送っていた……
でもな……? そんな毎日でも、家に帰れば妻やふたりの子供が、俺を出迎えてくれて……とても幸せだったんだぜ?
……だけど……だけどな……そんな幸せな毎日が、突然変わったんだ……
それはある日、俺が何時もの様にこの駅に向かって出勤している時だった……
その人は、全身血だらけで、道端に倒れていた……
普通なら、直ぐにも逃げ出しそうな光景だが、俺は、何故か吸い寄せられるように、その人に話かけた……
……大丈夫かってな……
だが、その人は全然大丈夫じゃ無かった。今にも死にそうだった。俺はすぐに携帯電話を取り出して、救急車を呼ぼうとした。
……その時だった……その血だらけの人物が、突如、俺の手を抑えて話しかけて来たのは……
俺は何故か……救急車を呼ぶのを止めて、その人の話を聞き入った……
……どんな話だったかって……? それはな……
「俺は、今まで沢山の人を殺して来た……それもこれも、全部この、呪いの鉈のせいだ」って言ったのさ……
そして、そのあとこうも言ってたな……「この鉈は、持ち主が死ぬ間際に、選ばれた者を引き寄せて、そいつを新しい持ち主としてとり憑く」と……
俺は、そいつからその鉈を受け取った後、何の躊躇いもなくそいつの首を切り落としたんだ……
……何の気持ちも湧かなかったなあ……
なあ……ここまで言えばもう分かるだろ……? お前が、この呪いの鉈の新しい持ち主に選ばれたって事が……
……俺はもうすぐ死ぬ……さあ、その手を差し出してこの鉈を受け取ってくれ。
まあ……どんなに嫌がっても、お前は必ずこの鉈を受けとるんだけどな……
……そうだ……それで良い……
これでやっと……俺は……呪いから解放される……
……次の瞬間……男は、首が切断された状態で横たわっていた……