忘れられない印象を持った人
本作はいつも空を見ている①②に続くお話です。③から読むと筋がよくわからなくなると思いますので、①か②からお読みください。最後までお楽しみいただけたら幸いです。
汪海妹
主な登場人物
メイン
樹君
千夏ちゃん
サブ
戸田さん(友情出演 高校回想シーンにて)
部長(2人の上司)
里香さん(千夏ちゃんの親友)
トレーシー(千夏ちゃんの部下)
梨花ちゃん(樹君の腹違いの妹)
修平さん(樹君のお父さん)
直子さん(梨花ちゃんのお母さん)
せいちゃん(千夏ちゃんのお父さん)
なっちゃん(千夏ちゃんのお母さん)
太一君(千夏ちゃんの弟)一家
真理子さん(翔子さんの妹、樹君のおばさん)
春樹君(お楽しみ)
忘れられない印象を持った人
戸田桜
高校の時にわたし戸田桜が好きだった男の子、長谷川君。長谷川樹君。ぱっと見たら目が離せないくらい顔だちの整った子で、でも、むちゃくちゃそっけない人だった。基本、用がなければ女子とは口きかない。部活とかしてる子じゃない。帰宅部。仲良くなろうにもきっかけつかむのが難しい人。
でも、つれない態度をとる男子が好きな女子というのはそれなりにいるもので、長谷川君はコンスタントに女子に人気があった。
自分に自信がなくてずっと足踏みばかりしていたわたしも、高2のバレンタインのときに一念発起してチョコレートと手紙用意して、学校の門から出て駅へ向かう彼にこっそりついて行った。周りを歩く学校の人たちがまばらになったのを見計らって、
「あの、長谷川君」
後ろから声をかけた。彼が立ち止まって振り返った。
「戸田さん」
あ、わたしの名前知ってた。驚いた。同じクラスになったことないのに。
「あの、すみません。これ、もらってください」
手紙とチョコが入った小さい紙袋を差し出す。彼はじっとわたしとその小さい袋を見る。
「あのね、今日は全部断ってきてるから、戸田さんのだけ受け取れない。ごめんなさい」
大人のサラリーマンがするみたいなきちっとしたお辞儀をして、踵を返すとすたすた歩き始めた。
「え?ちょっと待って」
「なに?」
「あの、気持ちに応えることはできなくても、話聞くぐらいだめなの?」
「中途半端に期待させるの好きじゃないんだ」
憧れていつも遠くから見るだけで、まともに口きいたのこの時が初めて。噂では聞いていた。告白するとこっぴどく振られるって。でもまさか、ここまでとは思ってなかった。
「渡せたからって期待しないし、チョコに罪はない。ついでに時間かけて書いたのに読んでもらえない手紙がかわいそう」
「手紙?君じゃなくて物がかわいそうなの?」
「ええっと」
言い間違えた。
「戸田さんって妖怪とか信じるタイプ?物に魂が宿るみたいな」
「なにそれ」
笑った。
「じゃあ、他の女の子には秘密にしてください。公平性が保てないので」
紙袋受け取って、そのまま持つと目立つと思ったのか、学生かばんの中に押し込んで去って行った。
***
彼は正しかったと大人になってから思う。渡せたからって期待なんかしないと言ったけれど、確実に想いがつのった。渡したら、きっと食べるだろう。自分が用意したものが好きな人の体の中に入るというのは、一種独特の感じがあった。食べる時は、少なくともその時だけは、わたしのことを思い出す。自分がいないところで彼が自分のことを思い出す。彼とつながる。
ひとつ想いがつのると、それが叶わない辛さもひとつ心の中につまれる。
だから、応える気のないものには、最小限のことばを交わしてそっけなく冷たく断るのが、それが大人びた優しさだったのだと今では思う。彼は年齢よりも大人だった。あの時。
バレンタインデーの後、長谷川君の話が噂で回って来た。彼が当日言っていた通り、数人の女の子が見事に玉砕したらしい。受け取ってももらえずに。鬼のようだという評判がたった。でも悪評など気にしないかのように、以前と変わらず彼は淡々としていた。
わたしは心の中で自分はもらってもらえたという優越感にひたった。ひたったけど、それは本当に小さな優越感だったなぁ。だって、見事に何も変わらなかった。遠くから見つめて、でもその視線は一方通行で、彼と目が合うことはない。
それでもあの人、わたしの名前は知ってたなと思いながら。
あれをきっかけにして、わたしからもっとチャンス見つけて話しかけたりするべきだったんだと思う。でも、わたしにはできませんでした。
手紙を入れた。気持ちを伝えた。それでもしわたしを少しでもいいなと思ってくれるなら、向こうから何か言ってくるって。何もないのが返事だ。大体、当日にも期待するなと言われた。
そこで、考えるのをやめた。このまま片思い。見てるだけ。わたし頑張ったよね。できることはしました。きりのいいところで現実的な路線へ乗り換えよう。
***
「こんなとこで何してんの?」
「驚いた」
「驚いたのはこっちだよ」
ピッ
「236円になります」
「うちの学校、バイト禁止だよね」
「買うの?買わないの?」
ごそごそお金出した。
「毎度ありがとうございます」
立ち去らずにじっと見る。
「他のお客さんの迷惑になるんだけど」
周り見渡す。
「他のお客さんなんていないじゃん。ほとんど」
そう。混んでなかった。高校三年生になる前の春休みのコンビニ。桜が咲きそうな季節。あからさまにやな顔されて、ため息つかれた。
「戸田さんって家ここらへんじゃないよね。なんでこんなとこいんの?」
「お姉ちゃんちに遊びに来たんだよ」
ちょっと年が離れててもう結婚してるお姉ちゃん。長谷川君ふいと横向いて、レジ奥の小さな控室に向かって声かける。
「すいませーん。店長。ちょっとだけレジ離れていいですか?」
コンビニの外へ2人で出る。
「詳しい話してる暇ないけど、バイト中だから。でも、ちゃんと説明するからさ。学校に言おうとかやめて」
そう言ってわたしの携帯の番号聞いた。
心が躍った。躍ってしまうのを自分で止められなかった。
コンビニで頼まれて買った牛乳を振り回しながらお姉ちゃん夫婦のマンションに戻った。いつ、かかってくるんだろう。いつ?そわそわと携帯ばかり気になる。
「桜、あんたどうしたの?」
夕飯一緒につくってご飯食べてから、帰ることになっていた。お義兄さんが仕事から帰ってきたら送ってくれることになっていて。それまでは彼と同じ街にいる。春休み中は、彼の姿を目にすることはできないと思ってたのに。
「買い物行こう」
姉とスーパーでお会計をしてる時に携帯なった。着信見る。登録されていない番号。
「はい」
「もしもし」
勢いごんで出すぎてしまった。しまったと後から思う。
「長谷川ですけど」
コール一回で出てしまった。普通よっぽどのことないとないよね。コール一回って。
「まだ近くにいるの?もう帰っちゃった?」
「いや、います」
「どこ?」
スーパーの名前つげた。
「ああ、知ってる。ちょうどよかった。時間ある?」
「うん」
「すみません。ちょっと待ってて」
切れた。お姉ちゃんとこ戻る。
「何、電話?」
「ごめん。お姉ちゃん。先に帰ってて。ちょっとしたらすぐ帰るから」
「ええ~」
お姉ちゃん怒った。
「あんたが一緒だって思ったからいっぱい買ったのに」
「ごめん」
ぶつぶつ言いながら先に帰った。しばらくすると長谷川君が来た。ちっちゃいバイク乗ってた。うちの学校、バイク禁止。なんかいろいろ見ちゃったな。今日。
「ごめん。あの、買い物しながらでもいい?」
「へ?」
出てきたばかりのスーパー入った。
「なに?」
「夕飯の買い物」
手馴れた様子で野菜やお豆腐とかカートに入れてく。
「戸田さん、知らない?うち、母子家庭だからさ」
「あ……」
噂で聞いて知っていた。
「母親働いてるから、こういうの全部俺がするの。うちは」
驚いた。正直。
「え、じゃあ、料理も長谷川君がするの?」
「うん」
「毎日?」
ふいとこっち見た。やっぱりきれいな顔。ため息出るわ。
「うん」
いや、長谷川君が料理するの?全然そんなふうにみえない。だって、それ、親がすることじゃん。
「バイクのってんのも、駅までだから。学校までは乗ってかない。バイトも家のこともあるし忙しいから、移動に時間かけたくないの」
「……」
わたしの顔を見てくすりと笑った。
「同情するなら言わないで。学校には」
「うん。わかった」
ほっとしたみたいだった。
「戸田さんって、でも校則があるからとか、もっとうるさく言う人かと思った」
「そうなの?」
「うちの学校の女子って、いい意味でも悪い意味でも真面目な人が多いじゃん。生真面目っていうの?」
頭の中でうちの学校の女子を思い浮かべてみる。そうなの?
「バイトのお金って何に使うの?」
「聞いてもつまんないよ」
そう言いながら、豚肉薄切り選んでる。ちょっと黙った後に、
「夏休み始まるまでに夏期講習とか塾のお金が欲しいの。バイトはそれまでで多分やめる。受験あるからさ」
塾のお金、塾のお金って親が出すよね。普通。
「絶対に浪人するわけにはいかないから」
「大変だね」
そんな言葉しか出なかった。おざなりな言葉。そう言ったら、ふっとちょっとばかにするように笑われた。
「戸田さんが知らないだけで世の中には僕なんかよりもっと大変なやつ、いっぱいいるよ。僕なんて全然幸せなほう」
その言葉と嘲笑は、チョコを一旦拒絶されたとき以上に、わたしを傷つけた。
「長谷川君がどんな子に告白されても断っちゃうのってさ」
「なんで急にそんな話?」
しかめ面された。食パン、カートに入れてる。うちのと一緒じゃん。
「どうして?」
ため息つかれた。
「正直、バイトして金稼いでるほうが有意義。女の子と過ごすより」
ヨーグルトのコーナー曲がる。ビール6缶一塊になってんの入れてる。
「え?買えるの?」
「制服じゃないし。今日」
買い物は無駄なくてきぱきとあっという間に終わった。
「じゃあ、また、新学期に学校でね」
夕方きれいな雲が空に浮かんでた。白に近い淡い様々な桃色が、刻一刻と変化してく。わたしはまだ、ショックを受けていた。知らなかった彼のこと、それと、さっき彼が見せた嘲笑に。
でも、空と雲を背景に彼が笑った。その笑顔は優しかった。学校でも見たことがない。
「言わないって言ってくれてありがとう。戸田さん」
そして、軽く手をあげてバイクまたがってヘルメットかぶって行っちゃった。
まだ、10代で子供でそして純粋で。告白なんてしたけれど、恋人になりたいみたいなそんな気持ちでもなかったんだと思う。友達になりたい?というか、嫌われたくない。知ってほしい。話したい。拒絶されたくない。
もしかしたら、彼よりもっと無自覚に楽して生きている他の同級生たちを彼は軽蔑しているのかもしれない。だけど、わたしは他の人とちょっと違うって思ってほしかった。帰り際に見せた屈託のない笑顔にそれを感じた。勝手にそうこじつけたのかもしれないけど。
わたしはこのとき、彼の特別になりたかった。それは、軽蔑対象からはずれるという特別だったのだけれど。
わたしたちの学校は県でも上から10本の指に入る進学校で、こんな言い方すると失礼だけど、家庭に問題のある子ってあんまりいない。両親そろっていて、お金持ちではないけどお金に困ってはなくて普通に恵まれた家庭。その中で彼はちょっと異色だった。
片親の場合、やっぱり大学とか行かせるのは大変なのか。塾のお金っていくらだったっけ?考えたことなんかなかった。当たり前のように出る物だって思ってたよ。自分で働いて塾のお金出すなんて。信じられない。
親が行けっていうから行くもんじゃないの?塾なんて。
長谷川君って、成績はそんな目立つほどいい子じゃなかったけど。バイトしたり家のことしたりしながらあの成績をキープしてるのってすごいと思う。だって、わたし何もしないで彼と成績たいして変わらないじゃん。
顔がきれいな子だから気になっていたんだけど、この日から彼に対する見方が変わった。
***
3年生になったとき、長谷川君と同じクラスになった。3年目にしてやっと。
あのスーパーでの一件があったからか、クラスの女子の中でわたしとだけは彼、ほんの少し話した。みんなには羨ましがられたし、不思議がられたけど、その理由については言わなかった。秘密を守った。
彼の第一志望はわたしの第一志望と学部が違うけど、同じだった。
わたしとしては、結構背伸びしていた。志望校。彼もわたしと同じような成績だから、合格の可能性は同じぐらいのはずだった。本来は。
でも、バイトをやめて勉強に集中した夏以降の彼の成績はぐんぐん伸びていき、ときどき見せてもらう模試の結果、秋ごろにはA判定出てた。
「すごい」
自分はよくてB、わるくてC。
「戸田さんももっと、本気でやりな」
普通だったら怒るところだけど、長谷川君に言われると言い返せない。
「夜中の2時、3時とかまでやってるの?」
「まさか」
きょとんとする。
「ちゃんと寝ないと頭疲れて逆効果だよ」
「そうなの?」
「時間じゃないよ。短い時間で集中して量できるようになったほうがいいよ」
こういうところも、他の同級生とちょっと違うんだよね。長谷川君。
「やっぱり料理とか毎日してんの?」
小さい声で聞く。
「最近は冷凍食品とか、週末に作りだめすることが多いよ」
ため息が出る。
「えらいなぁ」
つとこっち見た。冷たい目で。
「言わないで、そういうこと。褒められたいからやってるんじゃなくて、そうしないと食べるものがないからしょうがないんだよ。うちは」
そういうふうに言われてしゅんとした。
「俺をほめるくらいなら、親にありがとうっていいなよ」
「え?」
「毎日ごはんつくってくれて、お母さん偉いなっておもったことある?俺がしてるのは戸田さんのお母さんがしてるのと同じことだよ」
「うちのお母さん、でも、働いてるわけじゃないし」
「当たり前だと思われて、ありがとうって言われないの、かわいそうだと思わない?」
頭を軽くがんとぶたれたような感じ。その日、わりと素直なわたしは家に帰ってお母さんにいつもありがとうと言った。
「なに?桜ちゃん急にどうしたの?」
「わたしが勉強だけに集中できるのは、お母さんがいろいろしてくれるおかげだから」
母親びっくりしてた。でも、その後にとてもいい顔で笑った。
受験のプレッシャーでぴりぴりしていて、自分のことばっか考えてた。でも、周りに当たり散らしはしなかったし、自分なりにさぼらず勉強してた。
当たり散らさずにさぼらずに勉強してることを褒められたかった。
それと、勉強させてくれて大学行かせてくれてありがとうと思いながら生きている彼と、立ち位置が違う。本当は世の中には彼みたいな人がやっぱりいるのかもしれない。自分の視野が今まで狭かっただけ。言われるまで気づかなかった。ほんとは簡単なことだったのに。
彼の言う本気は、夜中の2時、3時まで起きていることではなかったんだと思う。勉強に向かう姿勢だったんだと思う。
わたしは長谷川君を尊敬した。
それに感謝した。大事なことを大事な時に教わった気がしたから。
***
2学期が終わって、学校に来なくなる3学期があって、受験本番があって、わたしは運もあったんだろうけど、ぎりぎりで第一志望に合格した。
卒業式、学校へ行くと卒業生の名前と合格した大学の名前が一覧で張り出されていて、自分の名前より先に彼の名前を探した。あった。大丈夫だろうと思ってたけど、長谷川君も同じ大学、合格していた。
紙に黒く毛筆で書かれた彼の名前を見たときに、絶対浪人するわけにはいかないからと言っていた彼のことばを思い出した。よかったなぁと思って、胸がじんとした。
「おめでとう。長谷川君」
「戸田さんもね」
「同じ大学だね。これからもよろしく」
一瞬、間があった。透明の無表情。でも、受験の重圧に耐え第一に合格した結果、自分は万能であるという自信がこのときのわたしにはあって、わたしを堂々とさせた。
「よろしく」
彼にそう言わせた。これから始まる新しい大学生活に大いに期待した。
でも、大学は大きかった。高校なんか目じゃない。人がたくさんいた。そして、わたしの世界はあっという間に広がった。
長谷川君とは学部が違って、そして、ほとんど会わなかった。同じ大学でも。
最初寂しくて、でも、すぐに気にならなくなった。新しい友達ができて、そして、恋をして、彼ができて、毎日を過ごした。
大学2年とのときに偶然、ほんとうに久しぶりに長谷川君と会った。学食で。きれいな女の子と一緒にいた。
「長谷川君、久しぶり」
にこにこ挨拶した。わたしのこと、しばらくじっと見た。そして、隣のきれいな子が変な顔でわたしを見た。
「え?やだ、忘れちゃった?」
その時、気づいた。なんか、長谷川君。別人みたい。雰囲気が違う。
「戸田さん」
近寄りがたいような冷たさは前からあったけど、長谷川君ってすごい礼儀正しくて話しかければ一定の温かさを持っていた。
「その名前で呼ばないで。俺、名前変わったから」
その温かさがない。他人を見つめる冷たい目。作られる見えない硬い壁。
「え?」
「今、長谷川じゃないの、上条って名前だから」
「どうして?」
名前が変わる理由なんて、そんな軽い話じゃない。だから、どうしてなんてほんとは言わない方がよかったのかもしれない。後から思った。
「母親が死んで、父親にひきとられたんだ」
何も言えなかった。
「樹、行こう」
隣の女の子が彼の腕に腕をからませた。
「それじゃあ」
わたしは知っていた。直接言葉で語らなくても、彼と過ごした短い時間、交わしたいくつかの会話。スーパーで、食べ物をカートに入れる様子。彼は、自分の母親を大切にしていた。彼がわたしに母親にありがとうと言えと言ったのは、それはつまり、彼が自分の母親にしてることをわたしにもしろと言ったわけで。
それがあの、冷たい暗い目。まるで、底なしの穴のように見えた。虚ろな顔。
彼は大丈夫だろうか。彼の辛い話を聞いて支えてくれる人がそばにいるんだろうか。
さっき傍らにいた女の子?
わからなかった。わからなかったけど……。
大学でもよろしくってわたし、言いました。あのとき、長谷川君、無表情にわたしを見た。あれは無責任なことばだったなぁ。わたしは徹頭徹尾、彼の前に登場してから退場するまで、無責任で軽い女だ。彼のことは尊敬するけど、きれいな顔に魅かれて好きだと手紙も書いたけど、でも、彼がいなくてもわたしは生きていける。今、楽しい。
抱えているものが違う人、興味本位で近づいて、でも、本当に誰かが支えてあげなきゃいけないとき、わたしは何の役にも立たない。そこで踏み込む勇気がなかった。
愛も恋もなかった。
罪悪感が残った。苦い経験。
今、26歳になった。思い出すこともほとんどない。誰かにわざわざ話すこともないと思う、わたしの思い出。きっとある程度の年齢になったら多くの人が1つや2つは持っている、こういう思い出。忘れられない印象を持った人。
彼がどこで何をしているのか知らない。でも、元気で幸せでいてくれたらと思う。