魔族領 魔都
■■■ 魔都 郊外にて ■■■
「さて、久しぶりに魔王領まできたことだし、魔都に着くまでに変わったことでも教えてくれよ」
前回訪れたのは200年ほど前だったか。
その時の四天王はカレンとカトナ、クラマの他にゴウという男の魔族が務めていた。
ゴウは魔法においてはクラマに遅れを取らず、格闘においても本気のカレンに引けを取らない実力者だった。
ゴウとカレンを同時に相手にするのはかなり大変だった記憶がある。
そんなゴウが四天王をやめた理由がよくわからない。
「そんなことよりカレン様とクラマがすごい勢いで蹴飛ばされていきましたよ!!カレン様はともかくクラマはまずいんじゃ・・」
「問題ない。見たところあの二人は魔王城に飛ばされている。魔王様が受け止めているだろう」
カトナがそうアギトをなだめていた。
「なぁ、あの二人よりゴウはどこに行ったんだ?正直アギトなんかよりゴウの方がずっと適任だろ」
正直ゴウを含めたあの時の四天王が強すぎて今のアギトでは少し頼りないというか。
「貴様!・・っしかし俺が劣っているのも事実。・・それよりも魔王様の名を軽々しく呼ぶな!失礼だぞ!」
「ゴウは魔王になっていたのか!?」
「む!そういえばアストラは言っていなかったな。ゴウは魔王になったのだ。」
忘れていたと自分の兜を叩くカトナ。ゴウは魔王になったのか。
魔王になるのに特別な試練とかは必要ない。
魔王とは魔族の王。一番強い、頼れる。そういう人が魔王になる。
前回俺がきた時の魔王は露出狂の幼女だった。本人は体を覆うものが嫌いらしく服を着ようとしなかったが、側近の者たちや大臣たちが全員であつまって素材からデザインまで考えた。それが本人もギリギリ着ていてもいい服だったようで一年中着ていた。正直あれを服と言えるのかどうかわからないが。
そんな幼女でも戦えば強いから魔王になっていた。
「アストラの知っている前魔王様は旅に出たいと言ってゴウを魔王に推薦して出て行ってしまった。我々に異論はないのでゴウが魔王になったわけだ」
「ゴウが魔王か。仲間を守るためなら死すら厭わないやつだからな。無茶しないといいが」
「逆だ。我々四天王でも力が及ばない時しか魔王は動かん。暇になったと嘆いておる」
なるほど、それならゴウは暇だな。
「なぁ。このまま歩き続ける気か?丸一日かかってしまうぞ?」
早くも飽きたのかアギトが飛んで行こうと提案した。
「一日すら我慢できないか。アストラも飛んで行くか?」
呆れたようにカトナが呟いたのち俺に聞いてきた。
「飛ぶでもいいけど俺は最初に魔王城へ向かおうと思っているんだよ。だからそこまで転移してもいいか?」
そう聞くとカトナとアギトが無理だと首を振った。
「魔王城の周りにはカレンとゴウとクラマの3人で作り出した結界が張ってある。外部から魔法の干渉を防ぐ魔法壁だ。転移などでの侵入は厳しいぞ」
「その通りだ。カレン様が考案した結界が貼られてから誰一人魔王城に魔法を打てなくなったのだ」
そんな物を作ったのか。無理矢理膨大な魔素を押し付けて破壊する方法があるけど問題になりそうだから飛んでいこう。
というか今まで城に魔法を打つ奴がいたのか。
「そうなのか。ならさっさと飛んでいこう」
俺たち3人は空を飛んで魔都に向かった。
■■■ 魔都 にて ■■■
「やっぱり変わってないな、ここは」
空から魔都を眺めながら呟いた。
魔都の特徴といえば、魔王城にある広い湖を中心に放射城に伸びている16本の水路だろう。そしてその水路同士を繋ぐ小川がある。水路と小川に囲まれた土地に家が乱立していた。上限は決まっているのだろうが、どの家も高さが統一されていない。それぞれが自分たちの住みやすい家の高さになっている。
遥か昔からこの姿だった。
それと魔都は街全体を囲う壁が存在しない。わざわざ大陸の遥か北にある魔族領に行く人がいないからだ。魔物は魔王の放つ覇気により近づいてこない。
「相変わらずいろんな種族がいるな。」
水中だと人魚族や魚人族。地上だとゴブリン族やオーク族はもちろん、小型のコボルト族から大型のサイクロプス族までいる。空ではハーピー族や鳥人族が飛んでいる。
「おかげで小さな問題が絶えないのだがな」
四天王のところにまで問題として上がってくるのか。
「頑張ってくれ。カトナはともかくアギトは真っ先に手が出るタイプだと思うが」
後ろを大人しく飛んでくるアギトを見て不思議に思った。殺意満々だったあの初対面はなんだったのか。
「アストラの覇気にびびってしまったのだろう。普段は温厚で大人しいぞ」
俺は普段覇気を出したりしないのだが。蟲型魔人の危険センサーにでも反応してしまったのだろうか。そんなものがあるか知らないが。
「もうすぐ着くから降りるぞ」
そう言って俺たちは魔王城の門の前に降り立った。
「久しぶりじゃないですか、アストラさん!!今回はどうしたんですか?」
漆黒のマントをたなびかせながら一人の好青年が歩いてきた。
「目的地に向かう近くにここがあったからな。久しぶりに顔出しておこうと思ってな。
それにしてもなかなかの覇気を放っているじゃないか」
ゴウが一歩進むだけで水面に波が立ち、草木が揺れている。俺たち以外誰も近づけていない。
「魔王になったら魔物を近づけないようにするため必要なことなんですけどうまく制御ができなくて。普段は魔王城にいるので問題ないですけど。なんとかなりませんかね」
うまく覇気が制御できないのか。
「そんな魔王におすすめの品物があるぞ」




