彷徨う踊り子
「思いの力って何?」
たくさん運動した後にウルやリウスなどの子供たちを引き連れてご飯を食べている時にウルから聞かれた。
「思いの力?なんでそんなことが知りたいの?」
「魔術は思いの力が大きいとやりやすいって先生が言っていた。ウル、魔術苦手」
なるほど。確かに魔素という実感しずらいものを使って行う魔術において思いの力は重要なことだ。
まぐれでも魔術を発動するという体験を経て子供たちは魔素の動きを感じるようになる。その最初の数回はどうしても狙って起こせることではない。
「そうだな。例えばウル、動けない仲間に敵が襲ってきたとしよう。ウルは助けに行こうとするが間にあわない。
こんな時どうする?」
「・・・?」
ウルは困り顔になっていた。
まぁ、小さい頃から一緒に訓練していたリウスだけでなく、一緒にチームを組んでいるであろう紅の海賊団の娘、蒼熊団の双子もそこそこ動けるので、想像できないのだろう。
ここで例えを出してしまうと、ウルの想像できる範囲が減ってしまうので何も言わずに答えが出るまで考えさせる。
「ところでお前たちは輝虫を知っているか?迷子を導いてくれる虫だ」
今夜は好きなだけ食べていいと言ったせいなのか、みるみると空の皿の山を作っていく5人に聞いてみた。
好き勝手に森へ行ってしまうこの子達には必要な知識だろう。もっとも迷子になるとは到底思えないが。
「輝虫は頭が光る虫だ。森の中で迷子になるとどこからともなく現れて、人の住んでいるところまで送り届けてくれれる。忘れるな」
育ち盛りの子供たちなのだろう。普段どれだけご飯を我慢しているのか心配になるほど子供たちは食べ続けた。
普通の飲食店で銀貨が数枚も消えるとは想像もできなかった。
「失礼するぞ」
ドアをノックしながらドアを開けた。
「勝手に部屋に入らないでちょうだい!ノックの意味がないじゃない!」
深夜、一人で校務に勤しむ学園長の部屋に訪れた。
学園長は深夜であってもピンピンとしている。まるで夜こそが自分の活動時間と言わんばかりに。
「それにしてもとんでもない子供たちのグループができたな」
帝王の血筋、紅の海賊団と蒼熊団の子供たち。何か問題が起きた時の親への説明が大変そうだ。
「全くだわ。一人でも大変なのに。あの子たちが集まると何しでかすかわからないわ。
この前なんか小遣い稼ぎって言ってキングオーガが治める集落を壊滅させてたのよ」
随分苦労しているようだ。
「苦労かけてるな。ほれ、お前さんの好きなブラッドトマトだ」
「ありがと〜!最近これを取りに行く時間がなくて食べたかったのよね!」
ブラッドトマト
夜にしか実を作らないトマト。朝には砂のようにサラサラと消えてしまう。血のような色をしているためそう名付けられた。
しかし、発見者の人族は普通のトマトと違いがわからないと述べた。
「今日は何しにきたのよ。トマトもらえたし面倒ごとはいらないから帰っていいわよ?」
「実はな、ウルたちで頭を抱えている学園長のために俺がとってもいいものを紹介しにきたんだ」
そう言って俺は指でつまめるサイズのスズを見せた。
「これは風の導きという魔道具だな」
風の導き
鈴のような見た目をしていて、二つ以上ある時に効果が現れる。
片方の鈴を鳴らすとそれに対応している鈴も鳴り始めて、おおよその位置がわかる。
「へぇ、便利じゃない。それで、ここに一個しかないってことはあの子たちにつけたのかしら」
「もちろん。あいつらにはバレないように、そして体から離れないようにつけたからな」
「ありがたいわね。けどこっちが鳴らすと向こうにも聞こえてしまうのかしら?」
「それも大丈夫だ。この学園で鈴の音が聞こえるのはお前だけだろう」
「それは便利ね。早速鳴らしてみるわ」
学園長が鈴を振って鳴らすが、俺には聞こえない。しかし彼女だけは満足そうに頷いた。
「いい音だわ。それにちゃんとあの子達の部屋から聞こえたわ」
「それはよかった」
「素敵な物をありがとね。これであの子達を探す手間がなくなるわ」
「ただでやるなんて言っていないぞ?」
笑顔だった彼女の顔がどんどん曇っていった。
「言ったろ?紹介してあげるって。
俺は旅する商人なんだ。金をもらわないと生きていけないぜ」
「はぁ。なんか損した気分」
実はこれはるか昔に迷宮で見つけたものだ。その時からぼっちだった俺は2個あろうが何個あろうが無用の長物だったのでアイテムBOXに眠らせていた。
ただで見つけたもので金を稼ぐ。これに勝る快感はないだろう。
「まぁいいわ。学園の予算的に・・そうね、銀貨10枚が限界かもね」
明らかに少ない。魔道具だと金貨が基準で払われる。それを銀貨で、しかもたった10枚ときた。
もしかしていらないものを押し付けているってバレている?
「おいおい。これはしょぼくても魔道具だぞ?銀貨10枚は少なすぎるだろ」
「そうかしら?それならいらないわ。別に探すのは大変だけど、それほど辛いわけではないしね」
「それでも・・・」
「普通の人には扱えない魔道具を私が買わなかったらどうするつもりなのかしら?
またアイテムBOXの肥やしにでもするの?」
完全にバレてるな。銀貨10枚かぁ。まぁいいかなぁ。
「金貨が数枚もらえると思ったのになぁ」
「いつもぼっちなあなたがそんな物持つ意味がないからね。ほら銀貨10枚」
ニコニコ顔で彼女は俺にお金を渡してきた。
「どうも。ところでサウニーナって人知っているか?」
俺は手紙に載っていた人の名前を聞いてみた。あの寂しそうに一人で踊る少女が気になってしまうのだ。
「サウニーナ?あなたが彼女の名前を知っているなんて意外だわ」
「有名なのか?」
「知ってて聞いたわけじゃないのね。サウニーナは200年前に有名だった子供の踊り子よ。各国からお偉いさんが見ようとやってきたわ」
へー。200年前か。
憑依 時の神
頭に布が巻き付き、腕が4本に増えるも一本も体と繋がっていない姿となった俺の後ろに巨大な円盤が浮かび上がり、時計のように動いていた針が逆方向に高速で回転し始めた。
「目標は200年前だ」