彷徨う踊り子
学園都市 エルネーヨ
それは世界各地から子供が集められて勉強するところだ。
身分の上下は子供の頃から学ぶというスタンスのため多少親の地位による扱いの差はあるが、国ごとの差はない。
絶対中立の学園だ。
「さてウルはどこだ?」
俺はエルネーヨ全体を見渡せる高さまで飛んでウルを探し始めた。
今日は確か休日のはずだから授業はないはず。
体育館 商店街 寮 どこを探してもウルの気配がいない。
「あれ?どこ行った?近くの森にも気配ないし。攫われたとか絶対起きないしなぁ」
周囲3キロメートルほど探してみてもいない。
「相棒がいないな」
もしやと思って厩舎を覗いてみたらドナドナがいなかった。
「あいつらどこまで行ったんだ」
「あなたこそ、そこで何をしているのですか?」
突然後ろから剣を突きつけられた。
そこには子供とは思えないほどの体の少年とその後ろに白くて長い髪をしている制服をきている少女がいた。
「少年、剣を下ろしてくれよ。俺は怪しいものじゃない。ウルの親だよ」
「怪しいかどうかは私が決めるものではありません。先生をお呼びしましたので言い訳はそちらで」
だめだなぁ。まぁ俺の顔は知れ渡っているのですぐに解放されるだろう。
俺は剣を構えたままの少年とその奥の少女を見た。
白を基調とした制服、おまけに少女が偽装の魔法をかけていてリボンに見えるが神石だ。
おそらく皇国からの生徒、というか神女の娘と護衛隊隊長の息子だろう。
「その神石もっと上手に偽装させたほうがいいぞ。それじゃ」
「な?! 逃がさないで!!」
言い終わる前に剣が飛んできたが、すでに転移した後だ。
「相棒見っけ!」
のんびり寝転がりながら草を食べている相棒の気配をやっと見つけたので転移したのだった。
俺の中では相棒のちょっと上に転移したのでそのまま驚かせてやろうとでも思っていた。
しかし転移した直後に槍が飛んできて俺は緊急回避をせざるを得なかった。
「ファッ!?」
槍の飛んできた方向に顔を向けると、猛スピードで籠手を構えたウルが突っ込んできた。
そしてそのまま強烈なパンチ!!
が当たるはずもなく、空中で体勢を変えてウルを避けたついでに蹴り上げた。
「うっ」
うめき声をあげて空に飛んでいくウルを追いかけて飛び上がった俺に待ち受けていたのは一緒に空を飛んできた竜人族の娘の強烈なハンマーだった。
「うりゃ!!」
その娘は自分の身長はありそうなハンマーを軽々と振り回して俺にぶつけてきた。
大きい音を立て、派手に土埃をあげて俺は地面に落ちた。
「やったか?!」
「まだ。こんなに煙でない」
俺は地面に落ちる際に思いっきり地面を叩いた。そして派手に砂埃を立てたのだ。
そして今、ウルの言うとおりウルたちは砂埃に覆われて周りの状況が全くわからない。
だから俺がこっそりと上に移動すると、お互い背を合わせて警戒している二人に気づかれない。
「そい!」
気配を消して近づき、上から攻撃をする直前でわざと声を出してあげた。
ウルはその瞬間には離れているが、竜人族の子はまだのようだ。
なんとか直後の一撃は避けれたが、その後の追撃は避けれなさそうだ。
すぐに近づいて張り手による衝撃波をくらわせた。
その娘はかなり吹き飛ばされたようだが、まぁ大丈夫だろう。多分
おそらくさっきの娘を守るためであろう、槍を構えて突撃する少年をちらっと確認して、俺はさっきの娘が飛んでいった方を確認した。
「あれ?見つからない。無事なはずだけどかなり効いたと思うんだけどなぁ」
少年の高速な槍捌きを感覚だけで避けながら、飛んで行ったはずの子をさがしていた。
「随分と巧みな槍さばきではないかリウス!」
「こっちを見ずに言われても!」
まぁ見ずに避けれるからな。あとほんとにどこに行ったんだ。
「隠れているつもりの二人はもう出てもいいぞ!」
先ほどからこちらを観察している気配があったのは感じていた。初めは上手に気配を隠していたの微かに見られていると言うことしか分からなかったが、砂埃で視界がなくなった時二人とも微かに動揺した。そのおかげでばっちり位置まで把握できた。
「こないのか?それならこちらからいくぞ?」
「避けろ!!」
俺が話し終わる前にリウスが指示を出した。
話し終わった直後には先ほどまで二人がいた場所の空間を爆発した。
やはりリウスは状況判断が早いな。的確に今必要なこと、後のために必要なことを瞬時に判断できる
到底一人じゃ行動の阻害すらできないとわかると隠れていた二人と同時に3人で攻撃を始めてきた。
「獣人か。しかも白虎の幻獣種。あいつが言っていた双子のことか」
獣人の兄妹は完璧なコンビネーションで攻撃をしてくる。
一人が右からならもう一人は左から。一人が少し下がるともう一人は前へ。
「いいコンビだが完璧すぎてわかりやすいな」
言葉のとおりセオリー通りの完璧すぎる3人のコンビネーションは簡単に予測できてしまう。
少し本気を出して攻撃を避けるだけでなく、隙ができるたびに反撃を与え始めた。
しばらく3人に付き合っていたが、ウルと竜人族の娘に動きがないのが気になる。
一体何をしてくるのだろうか。
「おりゃ!」
大きな掛け声とともに竜人族の娘がハンマーを振りかぶって頭上に飛んできた。
俺は張り手による衝撃波で3人を吹き飛ばしハンマーの一撃も横にずれることでかわした。
その直後に砂埃の中からウルが拳を構えたまま現れたのでまた横にかわそうとしたら2本の槍が左右に飛んできた。
「おぉ。しっかりと退路を防ぐ。いいやり方だ。
しかしああまいな」
何もせずに上空に逃げると、ウルの追撃や槍が飛んでくるだろう。
なので俺は上空に逃げる前にすれ違いスレスレのウルにチョップをして地面に叩きつけてから上空に飛んだ。
吹き飛ばした3人、思いっきりハンマーを地面に叩きつけた竜人族の娘、叩きつけられたウル。
誰も追撃はしてこないだろう。
「なかなか良かったが、まだま・・・」
まだまだだな。と言い終わる前にドカンと何かが爆発する音が聞こえて、ハンマーの娘が飛んできた。
「な!」
おそらく叩きつけた地面を爆発させて、その反動で飛んできたのだろう。
完全に油断していた俺は避けるのが間に合わない。
すごい勢いで近づいてくる娘を傍目に必死に回避を試みるが。
「間にあわない!」
靴に攻撃が当たってしまい靴が飛んでいった。
「「やったー!当たった!!」」
大喜びする子供の声が聞こえた。
「ちょっと!ウル!!門限はちゃんと守りなさい!
そしてアストラ!勝手に学園に侵入しないでちょうだい!おまけにこの子達と何したの?みんなボロボロじゃない!」
夜遅くまで子供達と動き回ってから帰ると、鬼の形相をして校門にいた学園長テリアに怒られた。