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7: 深海の沈没船と掬いの手

資格試験のための勉強と一人称視点で書くことの難しさのため大分間が空いてしまいました。

続きを待っていてくれた方、大変申し訳ございません。


5/10色々訂正しました。


8/25 サブタイトル付けました。

「…なんで話さなきゃいけないの?」


あの忌まわしい記憶を掘り起こしたくはないのだが。


「では、お主の話を聞く前に軽く自己紹介と行こうか。我の名は“運命の変化”を司る神 ディースクルド=ファナントゥーナ。これからはディー神と呼んでくれると嬉しい」


いやいや、先に説明をしろよ!


それにしても、神、ですか。


私は今、神と対話をしているらしい。


本当に私は普通の人間で居られるのだろうか。


それにしても、ディー神はダサすぎる。


せめてトゥーナ神だろう。


呼ばないけど。


「やだよ。これからもチロちゅんて呼ぶから。」


「この際、呼び方なんぞなんでもいい。それより、我が何故お主の昔話を聞こうとしているのか理由を話してやろう。」


はよはよ。


「ちゃんとした理由があるの?」


「この前、例の場所で会ったとき我はお主に身が危ないと話したことは覚えておるな?」


例の場所?夢のことかな?


「うん、なんとなくだけど。」


「それと関係があるはずなのだ。お主の運命は、必要以上の罰を受けているようだ。普通、運命線は罰と報いの間を波打っておる。しかし、お主の物は今、断片的な曲線が不連続に点在しているような状態であり、これは前例なき異常事態なのだ。過去から計算していき、お主の運命が狂った時間に検討をつける必要がある。」


言っていることの半分くらいが分からないが、どうやら私の状況は危ないようだ。


でも、私の過去とどう繋がるのかが全く分からない。


「???教えたら、私の、その運命線とやらは安定?するの?」


「我ができる事は、過去から原因と解決策を提示する事だ。そのあとに関してはお主次第の部分があるのだが、安定はするだろう。」


自分次第と言うのも分からないが、私に利益がある話らしい。


でも、本当に治す必要のあることのか?


「それって安定してたほうがいいの?」


「そうだな。 大きな事件とか事故そういった事態に巻き込まれることが少なくなる。」


それはとてもいい事ではないか。


でも、使い魔を使って繋がれるより上位の存在が一介の女子高生にそんなことをしてなにになるのか。


「なるほどね。でも、それをしてあんたは何を得るの?」


「簡単に言ってしまえば世界の平和だな。」


急に突拍子もない事を言いだす。


私の中のチロちゅんの話の信憑性評価がガクンと下がる。


訝しげな顔で私は思わず呟く。


「何その胡散臭い話は。」


「まあ、そうなるのもわかる。お主は魔法使いだから分かっていると思うが、魔法の行使とは運命の劇的変化をもたらす行いだ。」


「はあ。」


そんなこと聞いたことも考えたこともないというため息が出る。


「それと同じで、その様な力を持つ人間が居るというのは、その世界に運命の劇的変化が起こる事を意味する。その人間が強いほど運命の変化も大事になる。膨大な知識を独り占めし、周囲に共有しないことも運命の変化に影響する。」


「ほお。」


分かっている風な相槌を打ちつつ、疑問が浮かぶ。


(えっ、でも昔のあの偉大な魔術師はそれをして余計な犠牲を生んだって習ったんだけど?!)


「強い魔法を使うと使用者のオドが汚れ、打った魔法は他人や周囲のモノの運命を書き換える。書き換えた運命の質に応じて、さらに代償を払わなければ世界の運命の質は一時的に上がり続ける一方だ。」


言葉面だけを聞くといいことにしか聞こえないんだけど。

「いいことなのでは?」


「むしろ逆だ。世界の運命線は、基本的に直線に戻ろうとする。幸福が生まれたら災悪を生み出す。」


待って。さっきの話と合わせると私はとんでもない事を聞かされているのでは?世界平和って言うのは嘘で、私を使って何か企んでる?


「つまり、今、私にこの過大な知識を与えて災害を起こそうとしていると?」


「忘れたのか?今、我はお主を、そしてこの世界を助けるために教えているのじゃ。この知識はできる限り多くの人と共有するのだ。我が言いたいのは、既に、お主に過大な知識が潜在していてこれから大変なことになるぞ、と言っているのだ。お主の場合は、既に巻き込まれているといった方が正しいがな。」


チロちゅんは怒涛の勢いで多くを語っているが、私の脳みそは一部を理解するのがやっとだった。


そして何よりも聞き捨てならないことに、


「ちょちょちょ!ちょっと待って!もう何かに巻き込まれてるの?!」


「今、正にそうだろう。自称神の蛇と話している現実をどう見る?」


「……確かに、異常だわ」


「そういう訳だから、話を聞かせて貰えないだろうか。」


恐らく申し訳ないと思っているのか、少し控えめな声色でそう言うチロちゅん。


「その前に質問したいんだけど、神なんだから全人類の記憶くらい把握できないの?」


「先ほども言ったが、我が司っているのは運命の変化だ。生成や記憶は出来ない。それに、管理している世界も一つではないからな。出来るだけ厄災を起こさせないようにするのが我の役目だ」


神にも色々事情があるらしい。


正直今聞けた話を理解するのには時間がかかりそうだし、思っていた以上に意味が分からないので話すとしよう。


「……そうなのね。仕方ないから話してあげるわ。」







 私、宮椋仄葉は、世界力学という学問の世界の中心に居る人物、宮椋椋平の第二児、長女として命を授かった。


母親は私を産んでから体調が悪くなり、私に物心がつく前には他界してしまった。


でも、私はお父さんとお兄ちゃんから大きな愛情を受け取りながら元気に育った。


幼稚園から一緒の咲と、楽しい小学生生活を送っていたと思う。


私達は中学受験をし、私立のそこそこ高偏差値な学校に入学するとこになる。





 中学生になって間もなく、私は所謂浮いた存在として認識されていた。


出会って数週間でその認識となった。


始めこそ、珍しさに話しかけてくれる子は多かった。


多分その時から、私はズレていた。


多分考え方が大きく違ったのだろう、一切話が合わない。


趣味も合わない。


中学生になると、ほとんどの学校で適正者向けに魔法の授業が始まる。


その中でも私は端的に言って異常だった。


自分でも怖くなるくらいに。


それでいて、日本人なのに銀の髪色。


なんと言っても、“あの”宮椋椋平の娘であるというこのプロフィールは、周りから浮くのに充分な理由だった。


この内の幾つかは私をいじる為の要素から虐める為の要素へと発展していったと思う。


〖銀色お化け〗〖兵器〗〖キモい〗〖宇宙人〗〖魔女〗


“持ち物の隠匿”“机に悪口”“黒板に悪口”


咲も同じクラスだったので私を守ってくれてた。


始めの内は我慢出来てたけど、徐々に当たりは強くなる。


辛くなってお父さんに相談した。


でも、


『そういうのは反応すると余計虐められるようになる。虐めは、“自分と違いすぎる存在に恐怖したり、気に入らない存在を排除しようとする”、とか、“反応が面白いので自分の快楽・ストレス発散のためにする”とか、要は他人の事を考えられない阿呆がやることだ。気にしない方が良い。軽いいじりなら“恋心がある”っていう可能性もあるがな。何かあったらまた相談しなさい。』


と淡々とそれだけ言って話を切り上げられてしまった。


理系なお父さんらしい分析的なアドバイスをくれた。


根本を解決して欲しかったけど、お父さんは忙しそうでそれ以上相談できなかった。


リビングから自室に戻るお父さんはブツブツと


『全く、煩わしい。高偏差値な学校だからそういう輩はいないと思っていたのだがな。』


とか言っていた気がする。


勿論、先生にも相談した。


誰も相手にしてくれなかった。





 いじめに発展してから2ヶ月が経った。


その頃には、私を庇っていることを理由に、咲まで虐められるようになっていた。


私に対する虐めは初期の頃を考えると、天と地の差ほどにエスカレートしていて、暴力的で躊躇いのないモノとなっていた。



〖死ね〗〖消えろ〗〖視界に入るな〗

[撲る][蹴る][ゴミを投げつける][数人がかりで縛る・擲る]

“机の中にゴミ・虫を詰める”“机ごと無くなっている”“机に唾が吐いてある”



 暴力に対しては魔法の素養が高い分、無意識に抵抗することになる。


傷は治るし、痛みもほとんどない。


自分の体を護ろうとバリアが出来る事くらいは中学なりたての女子にでも出来た。


でも、痛くなくても怖い。


恐い。


苦しい。


心は痛い。


心臓を直接触られているような恐怖と四苦に埋もれていた。



 異常なほどの虐めと、魔法使用で思春期の女子のオドなんて簡単に汚れてしまう。


自分の受けていた虐めと、私を庇ってくれてる咲が虐めを受けているそのこと自体も心を傷つけていく。


勿論、というべきか、そんな精神ダメージに中学生になって間もない幼い精神が、そんな巨大な負荷に耐えられるはずもなく、私はある日壊れた。


よく覚えていないが、咲曰く、


『灰色の煙みたいなのを体に纏いながらクラス中をめっちゃめちゃにしてた』


らしい。


私の裏人格は、クラスの奴らに多くの大怪我人を出した。


そして、その事件から“灰色”の渾名が付けられた。


そんな大事件があったのにも関わらず、虐めは止まなかった。


むしろ、激化したといってもいい。


私にとっては身に覚えのない事実と共に“灰色”と呼ばれ続け、その後も二週間で計3回似たような事件を引き起こした。


たちが悪いことに私はその裏人格を発症した後、ストレスが軽くなっていて、そのせいで余計に自分の置かれている状態が解らなくなったり、混乱したりした。


そのこと自体も更に虐めの火種となり、意味も分からないまま“灰色”と呼ばれ続けた結果、“灰”とか“色”という言葉を聞くだけで取り乱してしまうほどになった。


冬休みになって、私は咲と共にお父さんによって、今の学校の中等部に転入することになった。



 海璃和と竜とシェアハウスをする事になったのもこの時だった。


入りたて当時は分からなかったが、時間が経過して、これが更生プロジェクトのような物だと気付いた。


気付く前から海璃和の事情は聞いていたのだが、聞かされた訳に気付いた時でもあった。


と同時に私達はそれぞれ何かしらの致命的な欠点を持っている、と私は思った。


そして咲の致命的欠点を見つけた時、虐められてる咲が全く抵抗してなかった事を思い出し、一つ合点がいくことがあった。


ズバり、“服従姿勢”。


精神的にやられてしまった咲は、やられるがままにやられていた。


私と咲は、不幸なことに席が離れていて、お互いに助け合える状態でもなかった。


私がお父さんに教えられた、反応してはいけない、って言うのを咲にも教えていて、それを守っているだけかと思っていたが、そうではなかったとその時に気付いた。

 


 シェアハウスが始まっても大変なのは変わらなかった。


二重人格ばりに演じているとはいえ、元気すぎる犬みたいな海璃和と、無口で表情も少なくまともなコミュニケーションを取る事すら大変だった堅物の竜と暮らすのは困難を極めた。



 その結果というか状態だったので、家事をやるのは基本的に私だった。


咲は積極的に手伝ってくれた。


海璃和も手伝ってくれてはいたが、後が大変になることが多かったので、


『このシェアハウスの太陽として明るく照らしてほしい』


とだけ伝えて、手伝ってもらうのは控えて貰っていた。



 正直、楽しかった思い出はない。勿論、魔の4ヶ月よりは断然気楽なのだが。

 


 まず、簡単そうな海璃和から手懐ける事にした。


能力の見せあいっこをしたり、素の海璃和に驚いたり、趣味の話とか身の上話をしたり、ゲームしたりして、ざっと1週間くらいで知り合い以上友達以下の関係性にはなれた。


 

 問題は、竜だった。


協調性がないというか、一緒に住んでいるという感じがなかった。


特別、迷惑が掛かっているわけではなかった。


むしろ、本人は“自分の分はしっかりやっているし”ぐらいの感覚で、兎に角一人でいることが多かったと思う。



 この問題を解決するべく、私は家事を当番制と担当制を掛け合わせたシステムを持って役割を回すことにした。


大変なことになりにくいお風呂掃除は海璃和と竜の担当に、料理は私と竜で朝晩を毎日交互に作り土曜日だけじゃんけんで負けた人が作る形式に、部屋以外の掃除を咲と心配だけど海璃和の担当に、買い出しを咲と竜の担当に、洗濯を私と海璃和の担当に、外の掃除をみんなで順番にやることにした。


必然的に誰かと話さないといけない状況を作った。


そして、人相を剥がすべく全ての組み合わせを組み込んだ。



 これを提案した時から事件は発生した。


その事件は竜が私の偉そうな態度に反抗した事から始まった。


それが入所時の挨拶以降まともに聞いた竜の声だった。


「なんで貴方の言うことを聞かないといけないの?」


「なんでって、4人で暮らさなきゃいけないんだから協力しようよ!竜ちゃんにその気がなさそうだからその機会を作っただけじゃない」


「迷惑掛けてないでしょ!好きなようにさせてよ!」


「じゃあ、せめて、どうしてそこまで他人を避けるのか教えてよ。」


「………」


 話したくないことの中に鍵があると踏んだ私は、


「じゃあ、私から話しづらい事話すね」


 そう言って、私はこのシェアハウスが始まるまでの4ヶ月の辛い出来事を話した。


 壮絶で喪絶で苦悩と恐怖の満ち溢れていたここ4ヶ月を話した。


咲も補足しつつ、自身の辛かったことも話した。


 話を聞いている竜は、何か、驚いたような、申し訳なさそうな顔をしていた。


咲は辛かった時の自分を思い出していたのか、泣いていた。


海璃和には、先に話していたから特別動揺とかはしてなかったけど、それでも、顔は暗かった。


…………


………………


「竜ちゃんの辛かったこと聞かせてくれないかな。」


「…………私は椿嶋剣道場の一人娘。別にやりたくもない剣をひたすら振らされ続けてきた。父は、私が反抗しないことをいいことに、剣道以外の事からひたすら離し続けた。もちろん、反抗したことが一回だけあったけど、父に剣で殴られた。怖くて反抗する気がなくなった。親という大人を信じられなくなったのは小学生3年生くらいから。剣道以外の事からひたすら離され続けた私には、当たり前だけど女友達なんていなかった。話が合わないから。男友達はいた。親は信じられなかったけど、小学校生活は楽しかった。あれは、えっと、5年生だったかな。いつもの男子友達とサッカーしてた時だったと思う。思い通りのシュートが決まってとっても嬉しかった。その瞬間、多分私は誰かを罵倒したんだと思う。なんて言ったかは覚えてない。それっきり、男子は私と遊ばなくなった。よくわからないけどものすごく目が合うたびに睨まれた。なんでそうなったのか分からなくて、聴いてみたけど答えてくれなかった。私に女友達が居なかったのは、単純に話が合わないんじゃなくて気づかないうちに、相手を傷つけたからなんじゃないかって、そう思った。それ以来、他の人を無意識に傷つけるのが怖くなって誰とも話さなくなった。私がみんなを避けているのはそういうことよ。嫌なの。無意識に他人を傷つけることが。」

 

話を聞いて、私は、少し自分の境遇に似ていると思った。


……………………


 だから私は、竜ちゃんに言った。


「そっか。それは辛いね。言いたくも思ってもない言葉で無意識に他人を傷つけるのは。」


…………


竜ちゃんは涙ぐんだ声で答えた。


「そうね。でも、あなたはもっと大変な思いをしていたのね。何もしていないのに、周りが敵というのはとても怖いことだわ。話、聞いてくれてありがとう。久しぶりに誰かと話すことができたわ。私のもやもやも少しすっきりした気がする。あなたの、馬鹿みたいなお人好しな提案のおかげで話すことに勇気が持てた気がするわ。」


空気が割れるような感覚があった。


多分『馬鹿みたいな』っていう言葉が竜から発せられた瞬間から。


多分、これなんだね。無意識に他人を傷つけるって。でも、今は許してあげよう。すっきりした顔してるし。その代り、


「じゃあ、さっき提案した組み合わせでこれから頑張っていこう!」


「「「おぉ~!」」」


 皆の気持ちが少しだけまとまった、そんな気がした瞬間だった。

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