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72: 燃えた雪解水が流れゆく

くそ、思った以上に膠着状態だ。

仄葉からの好戦的な攻撃意志はなく、こちらからの攻撃は殆ど無効化されている。

唯一よろめかせることが出来たのは、補給倉の剣崎さんと廉谷さん。

一方こちらは魔素圧によって71名が意識不明になっている。

魔素圧による意識不明だからもちろん身体的損傷は、倒れた時に出来たかすり傷や軽い打撲、酷くても脳震盪程度。

今そういったメンバーは補給倉兼医療センターの一画で寝かされていると思うが、その時点で医療班によってその程度の損傷は容易に回復されているだろう。

だとしても、戦力が最序盤で2/3になるのは大きい。

ほとんどの主力メンバーが残っているのはせめてもの救いだか、未だ大きな成果ない。


あとは、補給倉への攻撃。

狙ってかは分からないが、弾薬庫付近に攻撃。

これは状況次第ではこちらが大きく劣勢になるだろう。


「博士!仄葉さんがこちらに来ました!どうされますか!?」


「あまり悠長なことはできない。俺が出る。基本攻撃はなし。対話を試みてみる。男性陣はすぐに攻撃魔法を撃てる体制を取って玄関付近で待機、女性陣は諸々の監視観察を引き続き頼む。あとは、何かあった時用に、魔素充填を開始してくれ。」


「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」


「気を付けてください、博士。」

「ありがとう。上島博士。大丈夫だ、大事にはならないはずさ。」


上島博士の心配そうな声を背に、玄関に向かう。

攻撃音はない。

少なくとも攻撃目的ではないのだろう。


息を飲みつつ、玄関を出る。


上空を見ると、まだ高い位置で浮いている。

大分高度を落としているとはいえ、まだ高度がある。


精いっぱい腹に力を込めて、心も込めて。

あの高度に声が届くように、腹に喉に身体強化魔法を掛け、ついでに何か攻撃されても耐えられるように耐久系対人補助魔法をまとう。


「仄葉!お父さんだよ!聞こえるか?!」


なにか、答えてくれるだろうか。


「お父さん!!!うん聞こえるよ!っ?!?!?!」


届いた、が、なにか、歯切れが悪いし、違和感を覚える。

やはり悪魔の影響が?

いや、ない方がおかしい。

高高度とはいえ、浮いているのはファンタジーマンガでよく見るシルエットそのままだ。

あれは悪魔だ。

しかし、そういう感情を乗せてしまうと何が起こるかわからない。

優しい声を意識して、


「どうした、仄葉。お父さんは仄葉の帰りを待ってたんだ。中でゆっくり話をしよう。」


どうだ、来てくれるか?


・・・


返答はない。

攻撃的な雰囲気も感じない。

しかも、スッと上空に戻ってしまったじゃないか。

いったい仄葉は何を感じたんだ。


  ドォォォン


突然の爆音と魔法的な煙。


な、なんだ!?


『支援指揮!先ほどの補給倉への攻撃の沈静化が間に合わず一部誘爆!』

『こちら中央指揮!バイタルサインから数名が重傷!回復部隊は急いでください!』


重傷、、、仄葉ほどではないが、訓練された回復魔法の使い手である子たちが居る。

そんなに心配はない。

一旦、オペレーションルームに戻ろう。



「状況は?」

「はい、木沙羅都(きさらづ)から報告します。混乱回避のため、支援チーム指揮層の無線グループ内で状況を聞きました。誘爆したのは銃器部隊の魔導弾薬だそうです。補給倉を構成する物理基盤魔法に損傷をもたらす規模の魔法的な誘爆で、それによって、被害が補給倉内に出たようです。怪我人は、物理魔法を扱えるメンバーから、宮研の石嶺(いしみね) 悠莉(ゆうり)と2Aの剣崎 千花さんが魔法的重症、2Bの井山 裕美(ゆみ)さんが魔法的軽症、物資チームから4名が身体的軽傷、全員で7名の重軽症とのことです。特に千花さんは今回の補給倉構築での重要箇所の構築にかなり貢献しています。なんと、全体の骨組プラス数か所の重要箇所の外郭を担当したようですから。当たり前のように、今回の火薬庫に相当する箇所も範囲な訳でして、、、」

「千花・・・」

「智花さん、心配なら行ってきても大丈夫だ。」

「いえ、お気遣いありがとうございます、博士。千花も救護部隊の皆さんも立派なことはこの目で見ています、大丈夫です。」

「そうか、じゃあ引き続きお願いするよ。心理的に無理なら言ってくれていい。」

「はい。一旦は平気です、ありがとうございます。」

「木沙羅都くん、物理基盤魔法の修復については何か言っていたのか?」

「はい、なんと千花さんは重傷ながらも意識が残っており、基盤魔法の修復をしながら同級生の(とうら)さんからの治療を受けているようです。おそらくですが、被害を最小限にするために、基盤魔法の構築を無理やり更新したのではないでしょうか。」

「そ、それは凄いな・・・」

「ち、千花、、、本当に無理しないでね、、、」

「残りの2名分の担当範囲は、当人の意識が朦朧としている影響で瓦解が始まっているが、残っている3名で容易に修復可能である、とのことです。」

「なるほど、ありがとう。皆優秀だな。そういうことであれば、千花さんのおかげで、大きな被害ではなさそうだな。」



物理魔法はそもそも使える人すら少ない。

この仄葉救助団の中には6名。

若城大学・若城大学院と稲崎台高等学校の学生数は合わせて定員11,920名。

その内、魔法使いはおおよそ4,000名。

物理魔法が使える人は1割程度いる。

が、使い手と言えるほどの人は中々いない。

剣崎千花さんはそんな”使い手”と評するに十分な一人。

うん、やはり高校2年A組は高能力な人員が異常なほど多い。

あれだけ偏っていると何か強大な力の影響があるのでは?と考えてしまうな。



非物理魔法、つまり、多くの魔法使いが行使する魔法は、過程を無視して結果を発現させる。

そしてその結果は一般物理法則を逸脱し、結果となる魔象には実在しない存在を用いることが多く、かなり自由度がある。

一方、物理魔法は過程をしっかり構築する必要がある。

というより、過程を結果として出力している。

過程とは論理であり、それは行使後の自由度がほぼないことの理由である。

だが、その性質から、人の手を離れたあともかなりの時間安定し、本人の意志から魔法の行使が明示的になくなるまで続く。

それは、スマホやPCでのアプリケーションのバックグラウンド実行のような状態。

基盤魔法を維持するために必要な微量のマナが常に行使者のオドを通る。

基盤魔法は発動後、自動で行使者を介さず周囲から魔素を収集し定義された構造物や結界などを構築していく。

これによって、すべてを自分で構築するときに必要な魔素と比べて圧倒的に少量の魔素でそれを実現できる。

また、物理魔法で構築された構造物は物理的な影響を持つことができ、即席の棚などを作ったりすることができる。

どちらの魔法も無から有を作る現象だが、非物理魔法のそれは不安定で、物理魔法のそれは安定している。


訳だが、そもそも、「過程をそのまま出力する」ことが、俺も含め大抵の人間が出来ないことだ。

それを瞬間的に書き換えるなど、とても想像できない領域の芸当だ。

しかも、補給倉の骨組みと重要区画の外郭という重要部分を複数個所担当していると。

独立した物理基盤魔法の複数同時制御。

できない自分からしたら難易度は計り知れない。


血縁者だからできるわけでもない。

お姉さん、つまり、智花さんもかなり優秀な魔法使いではあるが、彼女の得意分野は生体に関する非物理魔法だ。

魔法だけでなく、すべての能力にいえることだが、自身の能力というのは本人の努力の上に成り立っている。

千花さんが、智花さんの背を追わず、精神(からだ)にあった力に対してどれだけの時間を労したか、よくわかる現状だ。


基本的に物理魔法で構築された構造物の欠損は、物理的な損傷であれば、自動修復するように基盤魔法を構築できる。

もちろん、損傷規模が大きすぎる場合は、再度基盤魔法を行使した方が早く修復できる場合はあるが、大きな問題ではない。

しかし、損傷や変形の要因が魔法である場合、基盤魔法に影響がある場合がある。

これは、損傷や変形を行使する魔象が物を生成しようとする魔象と衝突し、その際に結果を部分的に塗り替えてしまうために発生する。

このときに加害した方の魔法が物理魔法なら、被害を受けた方の物理魔法の過程を上書きしてしまう。

もし、加害した方の魔法が非物理魔法なら、被害を受けた方の物理魔法の過程に結果を与えてしまう。


今回のケースは仄葉の強力な非物理魔法によって、千花さんの物理魔法によって構築された火薬庫エリアの基盤魔法に、仄葉の非物理魔法が創った結果が与えられた、と推察できる。

千花さんの具体的な容体は不明だが、意識がしっかりしているとはいえ、「重症」という重さを考えると、オドに相当の負担があるのは間違いない。

基盤魔法の損傷の仕方によっては一瞬で気絶してもおかしくない。

いや、本当に、凄い、の一言以外何も言葉が浮かばない。



逡巡から戻り。

「弾薬に被害は?」

「半数以上が消耗されてしまったようです。ただ、現状が激戦というわけではないので戦うには十分だと考えられる、と報告を貰っています。」

「仄葉の今の様子は?」

「まだ研究所付近で滞空しています。特別マナが集まっている様子もないですし、何をしようとしているか分からないですね」


ふむ、明確な攻撃意志はない、そう思っていたが、攻撃意志がないわけではない。

意図が掴み切れないが、このゆっくりした戦況で、突然クリティカルな攻撃が来るのは非常にまずい。

完全にペースに乗せられている可能性すらある。

能力の上限は未知数。

耐久戦は不可能。

多数の悪魔などの報告は一切なし。

速めに動けないと、最悪死者が出る。

多くのメンバー、特に高2A組、は真に命を掛けて挑んでいる。

みんなで気持ちは一つと格好よく言えど、命は一つ。

多くの命と一つの命の重み、比べていいものではないが、悲しむ人の数は少ない方がいい。

苦しいが、こちらから一気に攻勢に出ないといけなさそうだ。


「そうか、ありがとう。遊撃部隊に動いてもらう。全体としても攻勢を強めよう。」

「了解です。」

『こちら中央指揮、遊撃部隊、博士より攻撃許可が降りましたので、出撃をお願いします。そして全部隊、攻勢強めでとのことです。仄葉さんを救うため、全力でお願いします。』

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